Prince / His Majesty’s Pop Life 入手顛末記 #prince

今年4月18日のレコードストア・デイ(奇しくも亡父の誕生日だった)で発売された作品のひとつが、Princeの幻のカセットテープと言われる「ヴェルサーチ・エクスペリエンス」だった。国内盤が発表されたこともあり、ファンの間ではにわかに話題となった。(その時の記事はこちら

他方、Princeのもう一つの作品が発売されることは知られていたが、あまり話題に上ることがなかったのが、2枚組の12インチレコード「His Majesty’s Pop Life」。

1985年に日本国内のみで発売されたという激レアアイテムで、中古市場では5万円を超える価格で取引されていたらしい。

内容に関しては今更説明するまでもないのかも知れないが、少しだけ。

Princeの名を全世界に知らしめることとなった「Purple Rain」の次作として発表された「Around The World In a Day」から、「Pop Life」や「Paisley Park」「Raspberry Beret」のリミックスバージョンをはじめ、過去の作品からの楽曲も収録されているという変則的な作品となっている。

2枚のレコードが45回転と33・1/3回転という異なる組み合わせになっているのも風変わりではあるが、ライナーノーツを担当した吉岡正晴氏によるプリンス年表が付いているというのも、国内盤っぽいところ。

そもそも1985年の時点ではようやく聞き齧りする程度だったし、そんな作品が発表されていたことも知らなかった。高額で取引されている時点で全く興味はなかったのだが、その貴重な作品が再発売される(全世界で14000セット?)となると、実際どんなものなのか手に取ってみたくなってきた。

僕は決してコレクターではないのだけれど、最近再発売された彼の他の作品よりも、僕が14才の時、つまりPrinceに対して単なる嫌悪感しか抱いていなかった頃、いや、正しくは嫌悪感から好感、もとい興味本位に変わってきた、まさに過渡期の頃の作品がどんなものだったのか、当時の飽くなき興味が呼び覚まされるかのごとく、日に日にそれを手にしたいという思いが強くなっていった。一つの作品、モノとしてのそれを。
しかし、国内盤も発売された幻のカセットテープとは異なり、輸入盤でしか手に入れることのできないそれに対する反応は今一つで、果たして簡単に手に入れることができるのか、正直よくわからなかった。

発売直後にネットの情報を読み漁ってみたが、店舗に置いてある数もそれほど多いものではないらしく、事実、レコードストア・デイが終わった1週間後には、「売り切れ」「取扱不可」が続々現れ、中には高値を付けて販売するような店舗も出始めていたし(それすらも「売り切れ」だった)、数は少ないが、オークションにも出品が見受けられるようになった。
やはり手に取ることは難しいのだろうか…。

そんな中でふと思い立ち、タワーレコードのサイトで商品検索してみたところ、「売り切れ」でも「取扱不可」でもない、「取り寄せ」という文字が現れた。
2日~7日で取り寄せするが、在庫確認の結果、商品が取り寄せできないこともあること、40日間で取り寄せできない場合は、キャンセル扱いとなること等の条件はあったが、とりあえず仙台国際ハーフマラソンに出場する5月12日に勝負を掛けようと、仙台パルコ店での取り置きにしてオーダーを入れたのが、4月29日のことだった。
こんな馬鹿正直みたいな正攻法で手に入れることができるなら、みんな手続きを踏んでいることだろう。これでも無理だから、少し高額でも他の店舗から購入したり、オークションという方法で入手するのだ。だから、全く期待はしていなかったし、結局取り寄せできませんでした、のメールが来て終わりだろう、と踏んでいた。
事実、連休期間もメールチェックは怠らなかったが、タワーレコードからのメールは予想通り届かなかった。
そりゃそうだよね、簡単に手に入れることのできる代物ではないよね。まあ、ご縁がなかったということで、どうもありがとうございました。
…と思っていた連休明けの5月7日、仕事帰りの電車内でメールを何気なく開いたら、思わず飛び上がりそうになった。
なんと、商品が入荷した旨のメールが届いていたのだ。

引っ掛けのメールではないかと何度も目を疑ったが、紛れもない本物のメールだった。
ただし、取り置きの期限は5月14日まで、それ以降はキャンセル扱いとする旨の内容。
これは、何としても12日に仙台へ行かなければならない。例え足が折れても、マラソンに出場しなくても、だ。こうなると、いよいよ夜も寝付けなくなるほど気分が高揚した。

しかし、13日に都内での仕事が入った関係で、12日の14時には仙台を発って東京に向かうスケジュール。ハーフマラソンのスタートが10時05分。荷物を預けなければならないし、ゴールした後の諸々を考えても、時間は結構限られている。
14時から逆算しながら、どうすれば効率的に移動できるか作戦を考えた。
一番のネックは、マラソンのコースが一部変更となり、会場から仙台駅までの動線を変更せざるを得ないということだった。色々思案した結果、会場に程近い宮城野原駅から仙台駅までJR仙石線で移動することにした。

果たして上手く事は運ぶのか、緊張の度合いが日々高まった。

さて、いよいよ大会当日。正直、マラソンよりレコードのことしか頭になかった。早朝の新幹線で移動し、ギリギリに会場入りした時点で、心ここにあらず。

実際、スタートした後もずっと、「レコード、レコード」と口にしながら走っていた(嘘っぽいけどホントの話)。

マラソンの結果は平々凡々だったが、練習していない割には上出来だったといっていいだろう。いい練習が積めた、と割り切った。
受け取るものを受け取り、タオルとシートで全身を拭き、物凄い勢いで着替え、会場を後にする。

12時過ぎには宮城野原駅に到着、すぐにやって来た仙石線に乗車した。仙台駅の西口を出ると、一目散に駅の北側にある仙台パルコを目指す。8階へと続くエスカレーターを駆け上った。
カウンターに向かい、メールの画面を見せながら、取り置きの商品を受け取りに来た旨を伝える。まさか、ここにきて「すいません、実は」なんていうオチだけは勘弁願いたいぞ。
女性店員が背後のキャビネットから引っ張り出したのは…おお!ついに現れた!紛れもなく、思いを寄せていたレコードだった。
「これで間違いありませんか?」「は、はい!」少し上ずった声で商品を確認、代金を支払い、遂に手中に納めた。何と、3,877円也。
抱えるように大事に袋を持ち、東京行きの新幹線に乗り込む。

中を見たいが、今は我慢。って、これではおもちゃを買ってもらった子供みたいじゃないか…。出張を終えて帰宅、開封の儀も滞りなく終わった。無事この作品は僕の所有物となった。34年前、あの頃の純朴で新鮮な気持ち…のような気持ちで、プレーヤーの針を置きながら、今まさに聴き浸っている。

入手する直前になって知ったことだが、どうやらまだ国内でも手に入れることは可能らしい。(実際タワーレコードのサイトでも取り寄せのボタンは残ったままになっている。)

コレクターズアイテムっぽいこともあるし、既に1985年当時の作品を所蔵しているファンが比較的多いこと、何よりも、国内盤が発表されたカセットと異なり、レコード会社がプロモーションしていない(輸入盤のみだから)こともあって、あまり話題に上っていないのではないか、というのがファンの間の分析だった。

ちなみに、1985年当時、冒頭を飾るPop Lifeのバージョンが違うという話になったようだ。結局どっちもクレジットは「French Dance Mix」となっているが、収録されているのは「Extended Version」。まあ、この際いいじゃないですか。

(上は1985年のもの。下は今回再発売されたもの。どちらのクレジットも「French Dance Mix」となっている。)

あのマークやNPGレーベルのロゴがプリントされるなど、1985年のモノと多少仕様が違うのは致し方ないこと。

ちなみに、輸入盤にも関わらず「プリンス年表」がそのまんま再現され、同梱されていたことだけはお伝えしておきます。