果たしてこれは、今まで絵に描いた餅となっていた「地域主権」の始まりなのだろうか。それとも…。
2月6日午後8時過ぎ。テレビには「愛知知事選・大村、名古屋市長選・河村当選確実。名古屋市議会は解散。」の文字が一斉に躍る。開票開始から3分も経たずしての出来事だった。
予想どおりといえば、予想どおりの結果でもあった。
愛知県知事選と名古屋市長選、名古屋市議会リコールの住民投票のトリプル投票は、結果的に市議会のリコールと自らの辞職という「差し違え」を演じた河村前市長の思惑どおりの結果となった、といっていいだろう。
僕は愛知県民でもなければ名古屋市に何の縁もゆかりもない。が、果たしてあの手法がどこまで通用するのか、これからが見物だと思う。
これを皮切りに、全国各地で「民主主義・地方分権」を叫ぶ声が飛び火し…といいたいところだが、ちょっと待った。
怖いのは、河村市長が主導した議会解散のリコール運動が、今後他の地域にも及ばないかということだ。
今回市長に当選した河村氏、知事に当選した大村氏はいずれも国会議員経験者である。
本来であれば国とのパイプ役も期待するところであるが、逆に元の所属政党からは双方とも三行半を突きつけられた格好となっている。果たして今後、国とどのような関係を築き上げていくのかが、まず注目である。
今回の選挙は、本来であればよほどのことがない限り解散とはならない市議会に対し、市長自らが自分の公約に反対だ(議決されない)という理由だけで議会解散のリコール運動を煽動したことが、事実上の議決権行使なのではないかと訝る声も少なからずあることを鑑みても、「民主主義」の名を借りた単なる市長対議会の政争に、市民が巻き込まれたと見ることもできる。
既成政党を批判(否定)し、自らが代表を務める政党を立ち上げた河村市長。大阪府の橋下知事や、今回知事選に当選した大村氏がこれを後押しする可能性はかなり高い。
確かに既成政党に対する国民の不信が高まっていることは事実だ。だからといって、その受け皿となるべく自身の権力を振りかざし、片やパフォーマンス的手法で民衆の同意を得るという手法がどこまで通用するか。
人気取りとパフォーマンスだけの政治に嫌気がさしているのは、僕だけではないはずだ。
河村市長は記者会見で「名古屋を民主主義の国、日本をつくるスタートにしたい。名古屋、愛知で起きた減税の勢力を、大村さんとともに全国に広げていきたい。」と名言していた。
既に自ら立ち上げた政党から、市議会の過半数を超える候補者を送り込む勢いのようだ。つまり、次の思惑どおりに事が運べば、名古屋市議会は、市へのチェック機能としての役割を果たすのではなく、市長の諮問機関的な役割を果たすというわけだ。これ、一歩間違えると、市長は専制君主になってしまうわけで…。
そういう意味では名古屋市民が今後、どういう投票行動に出るのかが非常に注目される。
今回の結果を踏まえ、大阪府の橋下知事は、府と大阪市の合併構想に更に躍起になるだろうし、東京都知事選への影響も未知数。
また、名古屋に端を発したこの潮流が全国で巻き起こった時、果たしてこれまでの議会が執行部に対するチェック機能を果たすことができるのか。下手をすれば首長の独裁政治が始まると思うと、末恐ろしらすら覚える。
もっとも今回の選挙は、物事一つ決められない国会や地方主権を進められない国に反発した結果としてのムーブメントなんだろうけれど、4月の統一選まで紆余曲折がありそうな予感もします。ハイ。