Monthly Archives: 8月 2019

忘れ物を探す旅(後編) #北海道マラソン2019

皆さま、ダラダラと申し訳ございません。勝手にこしらえた3部作、これにて完結です。

中編から続く】

沿道からは、小さな子どもたちがランナーに向かって手を伸ばしている。試しに手を差し出すと、チョンとタッチしてくるのかと思いきや、力強く手を叩いてきた。
それが何だか、「お前さ、もっと頑張れよ。」と言われているような気がして…。

また子どもが「がんばれ、がんばれー」と大声で叫びながら手を出している。
再び手を差し出してみると、やはり力強くポンと手のひらを叩かれた。

この悪天候の中、ランナーのために鼓舞する小さな姿。自分の不甲斐なさと申し訳なさがジワジワこみ上げてきた。
もっとちゃんと走らなきゃ。

もはや気力は完全に失せかけていたが、それならば…と再び駆け出してみる。
面白いように周囲のランナーをごぼう抜きするだけの余力が、まだ有り余っていた。もったいない!
走る距離はたった1km、いや、500mかも知れないが、ダラダラ歩くよりはいいだろう。

35km地点を過ぎたあたり、歩き始めた直後に奇妙な一団が横を通り過ぎていった。関係者二人が付き添うランナー。
沿道からの声援ですぐにそれが誰なのかわかった。

「山中教授、頑張って!」

IPS細胞でノーベル賞を受賞した、山中伸弥教授とその関係者の一団だった。後ろには、コバンザメのように一般ランナーが追随している。

なんと!…でも、ちょっとついて行ってみよう。再びペースを上げて集団の横につく。

ちらりと一瞥すると、教授は辛そうだが、足取りがしっかりしている。少し前に出て時計を見ると、概ねキロ5分のペースで走っているようだ。つかず離れずの距離を保ちながら数キロ、この集団と一緒に走った。…が、37km付近の給水ポイントで姿を見失った。

残り4キロ、いよいよ北大の敷地へと入っていく。もはやタイムなんてどうでも良くなっていた。

「走るのやめて、そっちの芝生に寝転がりたいわ!」
「あはは!あともうちょっとだから頑張ってね!」

沿道の人たちに愛嬌を振りまきながら、ゴールを目指す。

残り1キロ、声援を送るHさんの姿を発見。が、Hさんはこちらに全く気付いていない。
近づいて「どうも!」と声をかけると、「あー!あーっ!撮影間に合わないっ!」と叫ぶ。
思わずその場に立ち止まり、喜色満面でポーズ。

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忘れ物を探す旅(中編) #北海道マラソン2019

前編から続く】

スタート直後は抑え気味にしながら、後半は行けるところまで行ってみよう。最後は歩いてでもゴールできれば御の字なんだから。

突っ込み気味に出ることもなく、マイペースでスタート。まずは脚の具合を見ながらだ。
とはいえ脚にはやや違和感があるものの、幸いにして痛みはさほど感じない。
ただ、足取りよりも身体全体が重い感じ。確かに体重は減っていなかった。
完全に周囲の流れに乗る感じで5キロを通過。23分30秒は、まずまずといったところだろうか。

雨は止んだが風がやや強い。走っていても気になるぐらいだったので、結構な風が吹いていたということなのだろう。最初は南西から、続いて北寄りと、コロコロと風速も風向きも変わる。どうやらこのまま気持ちも天気も不安定な状態の中を走らなければならないようだ…。

7kmを過ぎ、間もなく創成トンネルに差し掛かるというあたりで、また雨が降ってきた。暑いのは嫌だが、雨で身体が冷えるのも嫌だ。豊平川に架かる橋上の風が冷たい。一刻も早く雨宿りしたい…雨から逃げるかの如く、創成トンネルを目指した。風もなく雨もない約1.6kmの長いトンネルに入る。ここで一旦呼吸を整え、少し気持ちを落ち着かせた。ああ、このままならどこまででも走れそうだ…一瞬妙な感覚に陥る。しかし、そんな感覚も長く続くはずがなく、トンネルを抜けると雨は止んでいた。札幌駅周辺の中心部、声援が多く飛び交うポイントの一つだ。
程なく10km通過。45分はちょっとペースが早いかも知れない。

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忘れ物を探す旅(前編) #北海道マラソン2019

昨年の北海道マラソンで心身に受けたダメージ(昨年の記事前篇後篇を参照)は相当大きく、その後のレースでは無事に走れるのかという不安を常に抱えることとなり、一気に自信を喪失することとなった。

そして、レースを組み立てるということが全くできなくなり、完全にスランプ状態に陥った。

大概のレースでは足が止まり、走る気力がなくなるということが続き、果たして何のために走っているのだろう、走ることに意味があるんだろうか、という答えのない自問自答を、延々繰り返すということになった。

別に五輪を目指しているわけじゃないんだし、楽しければいいじゃない?その中でささやかな夢を追い続ければ、それで充分だと思う。もしも楽しくないんだったら、その時は…。

そんなことを朧気に考えている最中に、次の試練がやってきた。
左脚アキレス腱の負傷。走るどころか、歩くのもやっとなぐらいの状況で、7月、8月で患部に直接注射を打たなければならないほどの状態だった。

楽しく走るどころか練習すらままならない日々が続いた。思い通りに事が進まないことに憤りながら、ビールを痛飲する日が続いた。走る気力はどんどん失せ、体重だけがどんどん増えていった。

それでも北海道マラソンだけは出場しようと決めていた。
北海道とはいえ猛暑、酷暑を覚悟しなければならない時期。
しかし、昨年の「忘れ物」「落とし物」を見つけに行かなければならない。何としても晴れ晴れとした気持ちで、ゴールを迎えなければならない。
あの時から僕は、完全に何かを忘れ、何かを失ってしまったのだ。

決して気負っているつもりはなかったが、もしも途中で走る気力も楽しみも感じなくなって、レースをやめるようなことになったら、その時は、潔く走ることから足を洗おう。それぐらいの覚悟で臨むつもりだった。そんなことよりもまずは、この脚の状態で本当に走ることできるのか、そもそもスタートラインに立てるのかという不安ばかりが常に渦巻いていた。心技体が完全にバラバラだった。

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公務員の、公務員による公務員のための…

最近、地方公務員向けの書籍をやたら目にするようになった。

かつてであれば、公僕として、公共の福祉の実現のために何をすべきか、そのためにどういった心構えを持つべきか、その裏付けとなる法律は何か、といった内容を、きわめて堅苦しく記述した参考書のような書籍が「ぎょう○い」等から出版されていた。

役人の端くれみたいな僕が言うのもおかしな話かもしれないが、公務員といえば、少し(いや、かなり)民間の感覚とズレていたところがあるし、公務員独特の価値観を持ちながら、職場内の繋がりだけで完結してしまう人も多い。

実際、役所を退職された典型的な「ザ・公務員」のような人が民間人となった途端、とんでもないクレーマーになったという話とか、家でも外でも行き場を失ってしまったという話、さらにはかつての「ザ・公務員」同士の繋がりしか持たなかった故に、頼る人に困った挙句、先輩風を吹かせながら現職をアテにしてくる人もいる、ということを時々人づてに耳にする。

人それぞれ人生いろいろなので、それが全て悪いこととは思わないけれど、逆にそういう「ザ・公務員」のような人から「あいつはちょっと変だ」「あの人は何を考えているのかわからない」「公務員らしくない」と思われるぐらいが、世間一般からすれば実はちょうどいいのではないだろうか。

僕ならば、公務員という枠にとらわれることなく、いろんな職種、分野で頑張っている人たちと繋がりを持ちながら自己研鑽に努める方が、職業としての公務員の幅がとても広がると思うし、何よりもそういう関係性を構築することが、今後の自分自身にとって間違いなく財産になるはずだと確信している。

SNSの発達により、最近はいろんな自治体の公務員同士がそれぞれに繋がりを持っている。「東北まちづくりオフサイトミーティング」もその一つだろう。そして、全国各地に「ぶっ飛んだ」公務員がいることも知っている。

これから公務員を目指す人たちが、ひょっとしたら面接試験で聞かれることがあるかも知れない「公務員としてのあるべき姿」を追求するならば、日本国憲法にも規定されているとおり、そもそも公務員たるや「国民全体の奉仕者」でなければならない。

しかし、その枠組みだけに収まることは、公務員たる自分の経験の機会を逸し、もしかしたら視野をどんどん狭めることにもなりかねない、ということだけは断言しておきたい。

そんな中にあって、ここ数年で数多く出版されている(地方)公務員向けの書籍は、OBや元職はもとより、現役公務員が執筆したものも多数ある。「全体の奉仕者」という姿勢を忘れることなく、職場内外での関係をどう構築していくべきかといったマニュアル的な内容であったり、地域のために奔走する、「ザ・公務員」の枠組みとは対極的な、いわばちょっと「はみ出した」最近の公務員像が描かれているように思われる。中には自虐的な内容もあるが…。

数冊手に取って読んでみたが、「うんうん!わかる。わかる!」と納得できるようなものもあれば、「いやいや…そこに触れちゃダメでしょう」という内容までさまざま。

読み手の受け取り方一つで評価は全然違うと思うので、それぞれの内容に関する書評は避けるとして、今、手許に置いてある書籍を幾つか、短評を添えて紹介してみようと思う。

[amazonjs asin=”4098252570″ locale=”JP” title=”県庁そろそろクビですか?: 「はみ出し公務員」の挑戦 (小学館新書)”]

過激なタイトルとは違って、中身はいたって真面目なもの。入庁から辿ってきた道のりが似ていて勝手に共感していたが、ようやくお会いできた筆者の円城寺さん、ホントに素敵な方でした。

[amazonjs asin=”4324105820″ locale=”JP” title=”自治体の“台所”事情 財政が厳しい”ってどういうこと?”]

財政を知らない僕にとっては目から鱗の内容。SIM2030は一度経験済なので、作成に至った背景が垣間見えて面白かった。

[amazonjs asin=”431315096X” locale=”JP” title=”公務員版 悪魔の辞典”]

「悪魔の…」と謳っている以上、相当毒づいた内容かと思いきや、意外とそうでもなかった。

[amazonjs asin=”4313150994″ locale=”JP” title=”なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?”]

地方公務員が本当に凄いと思う地方公務員を選定する、地方公務員アワードで選ばれた、型にはまらない公務員、言い方を変えるなら「公務員らしくないように見える(けれどホントは凄い)公務員」を取り上げている書籍。

ちなみに皆さん、「公務員らしさ」って何なんでしょうね。皆さんが思い描く公務員像って、どんな感じなんでしょう?

「公務員って羨ましいよねー」と言われたことが何度もあるけれど、40代半ばを過ぎてもなお経験したことのない業務を与えられる大変さ、わかりますか。転職せずとも全く異なるジャンルの仕事をすることがあるといえばいいんですかね。…なかなか理解してもらえないだろうけど。

「公務員のクセに」と言われることはしょっちゅうだけれど、一人の人間として、同じ空気を吸って同じ太陽を浴びることすら許されないのかな。太陽は平等に世の中を照らしているはずなのに。

世の中に色んな人がいるように、公務員にも色んな人がいる。

その中にあって自分も何か取り組んでみようと思ったら、ブレない信念と覚悟が相当必要だと思う。だから、中途半端な気持ちで何かやってみよう、模倣してみようなんてことは絶対に考えない方がいい。結局自分自身の中からブレが生じ、収拾がつかなくなる可能性があります。

かくいう自分も幾度かそういうことをおぼろげに考えたことがあったけれど、結局何もできなかったし、手を付けることができなかった。

しかし気がついたら、中身はともかく、このブログをかれこれ15年以上続けており、何とこの度、これまでの投稿が書籍化される…ワケがない!

5度目の「ふるさとがえり」は、歴史ある映画館で。 #ふるさとがえり

JR大館駅から程近いところに、60年以上の歴史を持つ「御成座」という映画館がある。複合型の映画館が大勢を占める中、東北地方で唯一となる単立の映画館として、今も残っているとのこと。

ここを会場に、映画「ふるさとがえり」の上映会が開催されること、脚本を担当された栗山宗大さんを招いてのトークショーが開催されるということで、台風10号の進路を気にしながら、休暇を頂いて大館市に足を運んだ。

全国でも数少ない「有人の踏切」として知られていた旧小坂鉄道の御成町踏切も目と鼻の先にあった。

今は廃線となって道路から線路が外され、踏切の構造物だけがまだひっそりと残っている。(実はこういう鉄道の遺構を見かけると、かなり心がときめいてしまう。)

強い雨が時折降っていたが、上映前に廃線の跡を少しだけ散策してから、会場に向かった。

会場に向かう前に、踏切跡の目の前にある「わっぱビルヂング」にて、関係者の皆さんそして久しぶりの再会となった同志の皆さんとご挨拶を済ませた。

その後、上映会の開催される御成座へ移動。この日は3度の上映を予定していて、2回目の上映が終わったあと、3回目の上映の前に実行委員会のSさんと栗山さんが登壇、トークショーが開催された。

自分でも密かな夢とか目標とかを朧気に抱いているけれど、結局それが叶っていないのは、痛みとか苦しみとかを伴っていないからなのかな、とか思いながら、栗山さんのこの言葉にハッとさせられた。

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