忘れ物を探す旅(後編) #北海道マラソン2019


皆さま、ダラダラと申し訳ございません。勝手にこしらえた3部作、これにて完結です。

中編から続く】

沿道からは、小さな子どもたちがランナーに向かって手を伸ばしている。試しに手を差し出すと、チョンとタッチしてくるのかと思いきや、力強く手を叩いてきた。
それが何だか、「お前さ、もっと頑張れよ。」と言われているような気がして…。

また子どもが「がんばれ、がんばれー」と大声で叫びながら手を出している。
再び手を差し出してみると、やはり力強くポンと手のひらを叩かれた。

この悪天候の中、ランナーのために鼓舞する小さな姿。自分の不甲斐なさと申し訳なさがジワジワこみ上げてきた。
もっとちゃんと走らなきゃ。

もはや気力は完全に失せかけていたが、それならば…と再び駆け出してみる。
面白いように周囲のランナーをごぼう抜きするだけの余力が、まだ有り余っていた。もったいない!
走る距離はたった1km、いや、500mかも知れないが、ダラダラ歩くよりはいいだろう。

35km地点を過ぎたあたり、歩き始めた直後に奇妙な一団が横を通り過ぎていった。関係者二人が付き添うランナー。
沿道からの声援ですぐにそれが誰なのかわかった。

「山中教授、頑張って!」

IPS細胞でノーベル賞を受賞した、山中伸弥教授とその関係者の一団だった。後ろには、コバンザメのように一般ランナーが追随している。

なんと!…でも、ちょっとついて行ってみよう。再びペースを上げて集団の横につく。

ちらりと一瞥すると、教授は辛そうだが、足取りがしっかりしている。少し前に出て時計を見ると、概ねキロ5分のペースで走っているようだ。つかず離れずの距離を保ちながら数キロ、この集団と一緒に走った。…が、37km付近の給水ポイントで姿を見失った。

残り4キロ、いよいよ北大の敷地へと入っていく。もはやタイムなんてどうでも良くなっていた。

「走るのやめて、そっちの芝生に寝転がりたいわ!」
「あはは!あともうちょっとだから頑張ってね!」

沿道の人たちに愛嬌を振りまきながら、ゴールを目指す。

残り1キロ、声援を送るHさんの姿を発見。が、Hさんはこちらに全く気付いていない。
近づいて「どうも!」と声をかけると、「あー!あーっ!撮影間に合わないっ!」と叫ぶ。
思わずその場に立ち止まり、喜色満面でポーズ。

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忘れ物を探す旅(中編) #北海道マラソン2019


前編から続く】

スタート直後は抑え気味にしながら、後半は行けるところまで行ってみよう。最後は歩いてでもゴールできれば御の字なんだから。

突っ込み気味に出ることもなく、マイペースでスタート。まずは脚の具合を見ながらだ。
とはいえ脚にはやや違和感があるものの、幸いにして痛みはさほど感じない。
ただ、足取りよりも身体全体が重い感じ。確かに体重は減っていなかった。
完全に周囲の流れに乗る感じで5キロを通過。23分30秒は、まずまずといったところだろうか。

雨は止んだが風がやや強い。走っていても気になるぐらいだったので、結構な風が吹いていたということなのだろう。最初は南西から、続いて北寄りと、コロコロと風速も風向きも変わる。どうやらこのまま気持ちも天気も不安定な状態の中を走らなければならないようだ…。

7kmを過ぎ、間もなく創成トンネルに差し掛かるというあたりで、また雨が降ってきた。暑いのは嫌だが、雨で身体が冷えるのも嫌だ。豊平川に架かる橋上の風が冷たい。一刻も早く雨宿りしたい…雨から逃げるかの如く、創成トンネルを目指した。風もなく雨もない約1.6kmの長いトンネルに入る。ここで一旦呼吸を整え、少し気持ちを落ち着かせた。ああ、このままならどこまででも走れそうだ…一瞬妙な感覚に陥る。しかし、そんな感覚も長く続くはずがなく、トンネルを抜けると雨は止んでいた。札幌駅周辺の中心部、声援が多く飛び交うポイントの一つだ。
程なく10km通過。45分はちょっとペースが早いかも知れない。

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忘れ物を探す旅(前編) #北海道マラソン2019


昨年の北海道マラソンで心身に受けたダメージ(昨年の記事前篇後篇を参照)は相当大きく、その後のレースでは無事に走れるのかという不安を常に抱えることとなり、一気に自信を喪失することとなった。

そして、レースを組み立てるということが全くできなくなり、完全にスランプ状態に陥った。

大概のレースでは足が止まり、走る気力がなくなるということが続き、果たして何のために走っているのだろう、走ることに意味があるんだろうか、という答えのない自問自答を、延々繰り返すということになった。

別に五輪を目指しているわけじゃないんだし、楽しければいいじゃない?その中でささやかな夢を追い続ければ、それで充分だと思う。もしも楽しくないんだったら、その時は…。

そんなことを朧気に考えている最中に、次の試練がやってきた。
左脚アキレス腱の負傷。走るどころか、歩くのもやっとなぐらいの状況で、7月、8月で患部に直接注射を打たなければならないほどの状態だった。

楽しく走るどころか練習すらままならない日々が続いた。思い通りに事が進まないことに憤りながら、ビールを痛飲する日が続いた。走る気力はどんどん失せ、体重だけがどんどん増えていった。

それでも北海道マラソンだけは出場しようと決めていた。
北海道とはいえ猛暑、酷暑を覚悟しなければならない時期。
しかし、昨年の「忘れ物」「落とし物」を見つけに行かなければならない。何としても晴れ晴れとした気持ちで、ゴールを迎えなければならない。
あの時から僕は、完全に何かを忘れ、何かを失ってしまったのだ。

決して気負っているつもりはなかったが、もしも途中で走る気力も楽しみも感じなくなって、レースをやめるようなことになったら、その時は、潔く走ることから足を洗おう。それぐらいの覚悟で臨むつもりだった。そんなことよりもまずは、この脚の状態で本当に走ることできるのか、そもそもスタートラインに立てるのかという不安ばかりが常に渦巻いていた。心技体が完全にバラバラだった。

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