ランナーあるある。失敗レースについては多くを語りたがらない。
…が、ここでちゃんと反省しないと、次に繋げることができないので、今日は反省を込めた昨日の北海道マラソンの振り返りです。
いつものごとくの長文駄文、失礼。
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北海道マラソン2016は、想像していた以上に苦悶のレース展開となった。
大会前までの月間走行距離は225キロ。これ、実は今までで一番長い。でも、走った距離がウソをつかないんじゃなくて、内容がウソをつかないと思っていたので、色々アレンジしながら走っていたものの、体重が全然減っていないことに気が付いたのは大会前日の朝だった。だから食事の調整は、軽いカーボローディングだけで十分だった。にもかかわらず、大会当日の朝、胃の膨満感を無視して、ルーティンだからと餅を7個平らげた。それ以外にも、あれやこれやと口に運んだ。
結果、身体が重くなりすぎた。が、それに気づくのも遅すぎた。身体の疲労は抜けていたハズだったが、実は内臓の疲労が抜けていなかったのだ。完全なる調整の失敗。ボクシングなら、失格のレベル。
スタート時刻の9時直前の気温は18度。前回、前々回は20度を超えていたので、それを考えると遥かに楽なはずなのに、どうも気分が乗らなかった。そしてその不安は、スタート直後から足が進まないという状況として現れ、果たしてこんな様相で最後まで走りきることができるのかという疑問がずっと頭をよぎっていた。
この時点で既に結果はわかりきっていたようなものだった。
今回もCブロックからのスタート、ラインを踏むまでのロスタイムは1分程度。1万7千人ものランナーが駆け抜けるフルマラソンにあって、わずかこれだけのロスタイムでスタートできるのは実にありがたいこと。
最初の5キロはウォームアップと割り切っていたものの、入りの2キロですら、やたらと長く感じられた。実はスタート直後で一瞬嘔吐しそうになった。…これってどこかで吐くの?という不安。(結局大丈夫だったけれど。)
3キロ付近からやたらと「しんちゃん!しんちゃん!」という子どもの声援が飛ぶ。僕の前方を走る同じクラブのHくんも「しんちゃん」なので、彼に対する声援かと思ったらそんなはずがあるわけもなく、僕のすぐ背後に「クレヨンしんちゃん」の被り物をした人がいたらしい。背後でウロウロされるのがやたらと気になるので、少しペースを上げて離した。そして今度は7キロ付近で、鬼の被り物をした人を発見。この人、メチャクチャ速いことを知っている。前を走る人と鬼との会話が聞こえる。鬼曰く「今回病み上がりなので、タイム上がらないんですよ。キロ5分で抑えながら行こうと思っているんですよ。ハハハ…」
ふと、時計を見る。ペースは4分45秒。速いじゃねえか、このウソつき鬼が!閻魔大王に舌を抜かれるぞ!(笑)
…と、心の中で笑っていられる余裕があったのはこの辺りまで、創成トンネル(今回は思ったほど暑くなかった)内で若干ペースが上がったような気がしたが、時計は極力見ないと決めた。
創成トンネルを抜けた後にある10キロの通過は、電光掲示板で48分45秒。まあまあといったところだろうか。今回はこのペースで押し切れれば一番いいのだろうけれど、とにかくこの日は身体全体が怠くて重い感じ。マラソンはこの日走ることだけが重要なのではなく、その前の準備こそが大事なのだと改めて思い知らされることとなった。そして創成トンネルに入る辺りから、僕の前を走る女装ランナーにやたらと声援が飛んでいることに気づく。そしてそのランナーは、観客に愛想を振りまきながら走っているのだが、ペースがホントに速いのだ。
やっぱり気になって仕方がないので、この女装ランナーとも距離を置いた。こういうのを気にしている時点で、かなり集中力も欠いていたのだろう。更に11キロ付近で右折してから、いよいよ尿意が本格的になってきた。トイレに立ち寄るべきか否か。そう考えながら走っていると、極端にペースが乱れ始める。しかしながら、まずもって立ち寄れるトイレがないのだ。そして14キロ過ぎで、過去2度にわたりゴール付近で差しつ差されつのレースを展開したWさんに背後から声をかけられる。
「Wさん、オレ今日ちょっと無理かも知れない。」思わず弱気な言葉が口をつく。
そう告げてWさんの背中を見送ったものの、いかんせん尿意の波が激しく押し寄せ始めたため、必然的にペースが上がり始め、今度はWさんを抜きかけた15キロ地点でコンビニ発見。迷うことなくルートから脇に逸れる。
「すいません、トイレ貸してください!」「奥の左側です。」
スタート前に水分を摂り過ぎたのか、スタートしてから水分を摂り過ぎたのはわからない。便器に向かってチン思黙考、原因を探る間もなくホッと一息を付いて、再び戦列へ。尿意という敵からは解放されたワケだから、少しでも遅れを取り戻そうと急にペースを上げたが、ちょっと待てい。これから新川通が待っているんだから余力を残さないと、と冷静に自分に言い聞かせる。大丈夫、脳はまだ働いているようだ。がしかし、この辺りから既に辛いと感じている時点で、ちょっとヤバい感じ。
「無理して走らなくてもいいんだよ。」「辛いんだったらここでやめても、いいんだよ。」
頭の中の悪魔が耳の中で囁きかける。でも待て、まだ折り返してもいないのに、ここでやめたら一体オレは何をしに札幌までやって来たんだ、ってことになる。悪魔の声には極力耳を傾けず、もう少し、もう少しと言い聞かせながら、いよいよ19キロ手前を右折、新川通へと入った。直後に、先頭のランナーが反対側の車線を駆け抜けていった。
17キロ前後から、シーサーのかぶり物をしたランナーが走っていることに気づく。
しかし、声援を送る観客はそれがシーサーだと気づかない(知らない)人も多いようで、「獅子舞だ!」「妖怪ウォッチだ!」「アレなんだ?」と声援がバラバラ。それが何だかおかしくもあり、しばらくその人についていってみることにした。というか今日、何かやたらと仮装ランナーの近くばかり走っていないか?
20キロ付近でようやく身体が少し軽くなった。中間地点通過は1時間43分。思ったほど遅れていたわけではなかった。記録は狙わないと決めていたのに、ここでちょっと色気が出た。しかし、北海道マラソン3度目にして新川通がこれほど辛いと感じるとは思ってもみなかったことだった。
反対側を走る誰かが、僕に声をかけてくれた(あとでTくんと判明)のだが、まずもってそれに反応する力がない。口を半開きにし、粗い呼吸で歯を食いしばっている自分の姿に気がつく。(Tくん曰く「結構辛そうだった」と。)
続いて、白いTシャツに黒抜きの文字を飾ったNくんを発見。この時ばかりは思わずこちらから「N!」と声が出る。向こうもそれに気づき、手を振り返してくれた。
…しかし一体自分は、何のためにここを走っているのだろう。誰かに褒めて欲しいから?誰かに自慢したいから?単なる勢い?それとも…。そんな愚問を繰り返しながら、気がついたら25キロ過ぎの折り返しまで来ていた。折り返した後も反対側から続々とやってくる仲間が僕に声をかけてくれるが、手を上げて応えるのが精一杯だった。正直言ってそれぐらいきつかった。相変わらず口に締まりはなく、呼吸も荒い。ふぅーっと息を吐き出す。ふと見ると、反対車線に置かれた給水ポイント付近に広がる道路上の紙コップの散乱は、更に酷くなっていた。結局のところ、いくら呼びかけたところで捨てる人は捨ててしまうのだよ。招待選手のスペシャルドリンクのボトルが路上に転がっていた時点で、それに追随してしまうのはランナーの性なのでは。(実は私、スペシャルドリンクの針金の付いたボトルを踏みそうになり、かなり憤慨しておりました。せめてあれぐらいはどこかに寄せて欲しいものです。)
そして30キロの給水で、一瞬だけ足を止めてしっかり給水を摂った。いよいよここからが正念場だと気合いを入れる。
僕にとっての「鬼門」は2か所。まずは35キロ過ぎに現れる一つ目の「鬼門」は難なくクリア。お…これって今日大丈夫そうじゃね?と、再び欲が出始める。次の「鬼門」は38キロ手前の交差点。前回は、ここを左折した後に足が止まった。
金曜日からのアルコール抜き。内臓に負担をかけたくなかったし、元来汗かきの体質なので、水分を余計に排出したくなかった。がしかし、既に尿意をもよおし、しかも相変わらず身体は重いままなのに、汗を相当かいていた。でも、ここまで来れば何とかなるんじゃないか?そう思いながら左折し、ペースを上げようとした途端、右脚に明らかな違和感を覚えた。そして38キロの給水ポイントで、それは突然現れた。またしても前回と同じ場所だった。世の中そんなにうまく行くはずがないのだ。
突如やって来た右脚大腿部の痙攣。そういえば塩分補給をしっかり行っていなかった!が、時既に遅し。完全に足が止まり、後ろにのけぞったり前のめりになったりを繰り返しながら「うぉぉぉ…」と小さなうめき声を上げていると、ボランティアのおばさんが紙コップの水をたくさん持ってきてくれた。
「大丈夫?水を足にかけて冷やして!」
ところが足に水をかけると、更に痙攣が酷くなるといった有様。「救護、呼ぶ?」「い、いや…いいです。な、何とかなりますから…。」
少しずつ気持ちを落ち着かせながら水を飲み干す。この間、おばさんは僕の足をマッサージしてくれている。ポケットに入れていたはずの塩熱サプリは、水を被りすぎたせいでほとんど溶けてなくなっていた。嗚呼、何たる大失態!
ひとまず歩ける状態まで快復したので、礼を述べて再び歩き始める。ジョグ程度までペースを上げると程なく、北大の入口が見えてきた。騙し騙しの状態で北大の構内へと進んだ時、今度は39キロ付近で左脚大腿部が攣った。給水がなければ、観客もほとんどいない場所で苦悶の表情を浮かべ、独りで狼狽える。後続のランナーから「頑張れ!」と声を掛けられる。そしてその中には、先行を許したはずのWさんの姿もあった。
まさか右脚の次に、左脚まで攣るとは…。激しく動揺する気持ちを落ち着かせながら、再び走り始めるが、最後は40キロの手前で両足が攣った。こうなると、もはや失笑のレベル。悶絶する僕を見かねたオジさんが、「命の水だよ。あと2キロ頑張れ。」と、紙コップに注いだファ〇タグレープを持ってきてくれた。嗚呼、ファ〇タがこんなに美味しいなんて…。一気に飲み干しながら、色んな思いが頭の中を交錯する。
…これって、別に前日に飲酒しようが関係ないってこと?いやいや、多分飲酒してたらもっと手前で足が攣っていたでしょ。(何よりも今回、塩分補給をしっかりしなかったことが最大の要因だとわかっている…つもり。)
ただ、脚の痙攣がなければ、最後まで走りきることができたはず。実際足が攣った38キロで余力は十分あったし、少しペースを上げ始めたのも事実。(これが足が攣った最大の原因ではないかという気がしないわけでもない。)
と分析すれば、実は余裕で3時間30分は切れたんじゃないか…。くっそー。なにやってんだ自分。憤りと悔しさと情けなさが交錯するも、自分に呆れて涙一つ出てこない。
いや、まずはとにかくゴールだ。ゴールしないと何も始まらない。再び歩き始め、徐々にペースを上げながら、赤レンガ庁舎前を通過。もはやタイムなんてどうでも良くなっていた。いや、最初からタイムは気にしていないはずだったのに。最後の角を右折、遥か向こうに見えるゴールを目指す。余力はあるのに、足が攣るのが怖くて前に出ないという辛さ。
結局3時間35分09秒という、なんとも微妙というか平凡というか、うまく説明の付かないタイムでゴールした。昨年の記録より1分30秒遅れてのゴールだった。
38キロ付近までは、身体や足が重かったものの、当初想定していたとおり概ね一定のペースで走れていた(4分46秒~47秒ぐらい)。
残り4キロで大丈夫そうであればペースを上げようと思っていたが、ペースを上げたその時に脚の痙攣が起きた。まあ、遅かれ早かれ脚の痙攣はやって来たのだろうと思う。塩分の補給を怠ったツケだったワケだから。
ふと時計を見たら、42.195キロを走ってきたのに、距離表示が42.7キロになっていた。つまり、コンビニへの立ち寄りやコース上を右へ左へ蛇行した結果として、約500メートルも長く走っていたことになる。
ちょっと驕りというか慢心が過ぎたかも知れない。
…とはいえ終わってしまったこと、「たられば」の話をしても仕方がないのであとはやめておきます。
9か月ぶりのフルマラソンだったけれど、北海道マラソンはほぼ平坦なくせにホントにレースを組み立てるのが難しいし、それに立ち向かうには、事前の準備を心身とも怠ってはならないということ。こうなったら、北海道の借りは北海道で返すしかないでしょ。
今、腹部から脚にかけてあちらこちらに痛みが残っている。一方で、上半身に疲れや痛みがないということは、肩の力を抜いて走れていた、という解釈でいいのかな。
大会を終えて、今回何が欠けていたのかが朧気にわかったので、次の大会に向けて心も身体も立て直して行きたいと思います。一つの大会でいつまでも一喜一憂しているヒマはない。次に気持ちを切り替えよう。