国内外いずれのアーティストを例に見ても、大体ベスト盤が発売されるタイミングというのは、レコード会社を移籍した後だったり(発売するのは当然移籍前のレコード会社)、デビュー○周年というタイミングだったり、いずれの作品にもアーティスト本人の意向が反映されているのかどうか怪しいところがあります。そこには、レコード会社による「商売臭さ」というか契約主義というか、「契約枚数履行のためだけど、話題になって売れればラッキー」といった雰囲気さえ感じ取ってしまうわけです。
僕は、プリンスほどベスト盤が似つかわしくないアーティストもいないのではないかと思っています。プリンスのベスト盤は、約10年前を最後にこれまで3作品発表されています。特に2作目として発売された「The Very Best of」、これに関してはその後ワーナーミュージックお得意の「豪華アーティストのベスト盤シリーズ」の中に必ず組み込まれる、いわばワーナーの「(作品ではなく)商売用商品」となっているわけですが、いくらフィギュアスケートの羽生結弦選手が今年のSPで採用している「Let’s Go Crazy」が収録されていようとも、この作品だけは初めてプリンスを聴く一枚としてお勧めしたくありません。初めてプリンスを聴くのなら、多少値が張って申し訳ありませんが、2枚組の「Ultimate」を聴いて頂きたいな、と。
プリンスの場合、「アルバム」の種類も非常に多様性に富んでおり(デジタル音源のみのアルバムや、かつて存在したNPGMCというファンクラブ限定のアルバムもあります)、とにかく世に出ている楽曲があまりにも多すぎるため、一体どの楽曲がベストなのかと言われると、非常に悩ましいところ。
トップ40入りした楽曲は30曲。これを集めただけで既に2枚組のベスト盤に仕上がってしまいますが、ヒットした=ベストな曲かといえば、ファンとしてはちょっと待った!という声が上がるはず。
とりわけ、ライブに対する評価が非常に高いため、ファンの間ではシングルとして売れたかどうかはあまり気にしていないような気がします(まあ、売れた方がいいけど)。実際、ライブになるとメチャクチャ盛り上がる曲があったり(彼の場合、何を演奏しても盛り上がります)、例え世間一般的に売れてもライブでは演奏しない曲があったり(演奏しようのない「Batdance」とか。)、もしもベスト盤に収録するのであれば、これは外せない!という楽曲は幾つかあるかも知れませんが、40年近いキャリアの中からそれを選曲するとなると、ファンによって世代も性別もファン歴も異なるため、それぞれ感じ方が違うわけです。
更に厄介なのは、1994年にレコード会社との軋轢から生じた改名騒動があって、約6年にわたって「プリンス」の名前を封印し、発音不能な「記号」を用いて活動していた時期がありましたが、その頃に発売された作品や、変名でバンドでの活動を行っていた頃の作品は、そもそも国内で発売されなかったものや、発売されても廃盤になってしまったものが数多くあります。
実際、ベスト盤とは言っても、恐らくプリンスのファンじゃなくても「Purple Rain」と同じぐらい耳に馴染みがあるのではないかと思われる「Endorphinmachine」(かつて「K-1 ワールドグランプリシリーズ」のテーマソングとして流れていた、ギターサウンドと金切り声が特徴的なあの曲)が1度も収録されていないなど、この曲が収録された「the gold experience」を筆頭に、すべてのアルバム(作品)を網羅しきれていないのです。
21世紀に入ってからは、アルバムを発表するごとにレコード会社と契約を締結する方法を採用したり、中には新聞のおまけとして無料配布された作品があるなど、更に複雑な契約体系となっていることから、全てのキャリアを網羅したベスト盤を発表することは、本当に至難の業なのではないかと思います。
だから、敢えて断言します。
「プリンスのベスト盤は、これまで発売されたオリジナルアルバムそのもの。」
…と言いきってしまうと、これからプリンスを聴こうと考えている人にとって凄く冷たい対応ですよね。そんなことはないんですよ。
そんなプリンスのベスト盤が、11月に発売されることになりました。取りあえずこれからプリンスを聴いてみようかな、と考えている人向けの入門編のような2枚組のベスト盤は、その名も「Prince 4ever」。リリース元はNPG Records/Warner Brosとなっており、78年のデビュー作「For You」からワーナーと袂を分かつこととなった頃の作品「Love Symbol」まで、ワーナー在籍時代の作品を中心に全40曲が収録されており、未発表曲1曲のほか、アナウンスでは「初CD化」となるバージョンも多数収録されるそうです。(…初CD化って、何だ?)
言うまでもなく、本人不在での発売となるわけですが、やっぱりプリンスの「ベスト盤」はファンの間でも賛否両論が沸き起こると思うんですね…。予定調和とはいえ、今回も「Endorphinmachine」は収録されず、だし。
Disc 1
1. 1999 (Edit)
2. Little Red Corvette
3. When Doves Cry
4. Let’s Go Crazy
5. Raspberry Beret
6. I Wanna Be Your Lover (Single Version)
7. Soft And Wet
8. Why You Wanna Treat Me So Bad?
9. Uptown (Single Version)
10. When You Were Mine
11. Head (Sound Recording)
12. Gotta Stop (Messin’ About)
13. Controversy (Single Version)
14. Let’s Work
15. Delirious (Edit)
16. I Would Die 4 U
17. Take Me With U
18. Paisley Park
19. Pop Life
20. Purple Rain
Disc 2
1. Kiss
2. Sign ‘O’ The Times (Single Version)
3. Alphabet St.
4. Batdance
5. Thieves in the Temple
6. Cream
7. Mountains
8. Girls & Boys
9. If I Was Your Girlfriend
10. U Got The Look
11. I Could Never Take the Place of Your Man
12. Glam Slam
13. Moonbeam Levels
14. Diamonds And Pearls (Edit)
15. Gett Off
16. Sexy M.F.
17. My Name Is Prince (Single Version)
18. 7 (Album Edit)
19. Peach
20. Nothing Compares 2 U
前述の「Let’s Go Crazy」はもちろん収録されているほか、映画では一切流れなかったのにサントラ盤に収録されて大ヒットした「Batdance」など、「ベスト盤」に初収録となる楽曲も幾つか含まれています。収録される予定の楽曲の並び、選考など、いろいろ不可思議な点があるのも事実ですが、プリンスを知る、聴いてみるきっかけとしては、適切な一枚となるのではないかと期待しています。ただし、あくまでも私見ではありますが、1曲だけ収録された「未発表曲」をこういう形で小出しにすることは、今後勘弁願いたいところ。
そうそう、プリンスを知るには最良の一冊、「プリンスの言葉 Words of Prince」も絶賛販売中です。Amazonの売れ筋ランキング(本/海外のロック・ポップス)では上位を走り続けています。ファンの皆さんもこれからプリンスを聴いてみようという皆さんも、愛読書として是非一冊手にとってみてください。
…しかしこの「ベスト盤」、彼の全キャリアにおけるほぼ前半部分しか網羅されていないんですよね。この後の作品にも、いい楽曲というか聴いてほしい楽曲がたくさんあるんだけどなあ。(最初に戻る)