日別アーカイブ: 2018-06-26

エレファントカシマシ「Wake Up」 #エレファントカシマシ #エレカシ

3度目となる「目覚め」。

エレファントカシマシ最初の「目覚め」は、1988年、メジャーデビュー後3枚目のシングルとなる「おはようこんにちは」。繰り出される重厚なサウンドに、宮本の気怠さ満載のボーカルが乗っかることで、爽やかの欠片も感じられない「おはよう」を聴くことができる。

2度目の「目覚め」は2000年のアルバム「good morning」。
東芝EMIへの移籍第一弾となった「ガストロンジャー」を含んだこのアルバムは、宮本単独の打ち込み曲が多くを占める作品で、エレファントカシマシという枠組みを外れた、宮本個人の暴走などと評価が割れた、いわく付きのアルバム。しかし、結果的にはこの作品がバンドの新たな目覚めを呼び起こすこととなり、結束と勢いを更に増すことになった。

そして今年6月6日に、3度目となる「目覚め」を迎えた。

今回は、デビューから31年目に突入し、いわば「門出」の作品となる23枚目のアルバム。
既発のシングル曲やカップリング曲など6曲と、新曲6曲の計12曲で構成されている。

どうも彼らのアルバムを聴く時は、(決してあぐらをかけないからではなく)姿勢良く正座をして聴かなければならないという衝動に駆られる。

それも頭の中を空っぽにして無心になり、一つ一つのフレーズ全てを耳で、心で吸収する…そう、まさに「拝聴する」といった感じ。

冒頭を飾るタイトルナンバーの「Wake Up」は、31年目のスタートにうってつけの1曲。一言で表すならば「格好いい」のだ。極端な話をすれば、この楽曲だけでこのアルバムの評価が決まりそうな、それぐらいのインパクトを持っている(もちろんこの曲だけで評価しちゃならないんだけど)。

新たな「目覚め」、いや「覚醒」を高らかに宣言した後は、51作目となる最新シングルの「Easy Go」、49作目のシングル「風と共に」、そして48作目のシングル「夢を追う旅人」と、シングル3曲が怒濤の如く続く。

改めてこのシングル3曲を続けて聞いてみると、そのどれもが、31年目に突入するには十分過ぎるほど準備が整っていることを誇示しており、そして、これからもなおエレカシの進化が現在進行形で続いて行くことを予感させる。

疾走から立ち止まり、一度クールダウンさせるような5曲目の「神様俺を」は、アルバムの中でもちょっと異彩を放つ曲。エレカシのナンバーではこれまで聴くことのなかったレゲエ調のアレンジ。一方で、まるで我々アラフィフ世代の苦悩を代弁するような歌詞に、思わずニヤリとしてしまう。

そして続くナンバーが50作目のシングル「RESTART」と来れば、何だかこのアルバムの製作コンセプトありきのシングルだったのだろうか?と思ってしまうぐらい繋がりを持っている…ような気がする。
「日本生まれの夢見る男」が、自らの髪の毛にハサミを入れるという衝撃的なPV。昨年10月、弘前市民会館に現れたその男は、一瞬誰なのか見分けがつかないほど綺麗に髪の毛が整っていたことを思い出す。

「自由」はアルバムで初登場の小気味良いテンポのナンバー。「珍奇男」を唄っていたあのバンドが、「ガストロンジャー」で吠えていたあのバンドが、声高に「自由」を歌い上げている不思議。これまでの30年間、どん底も見ただろうし浮かれたこともあっただろう。それでもなお不動のメンバーで歩み続けてきた彼らが今もなお探し続けているのが、相も変わらず「自由」であることを淡々と唄い上げる。「奴隷天国」からは相当昔に解放されたはずなのに、だ。

「i am hungry」は、「夢を追う旅人」のカップリングで、続く「今を歌え」は、50作目のシングルとなった「RESTART」との「両A面シングル」。
いずれも、ドラマのタイアップが付されたナンバーだ。この辺りの楽曲を聴きながら思うことは、このアルバムに収録された楽曲は、ボーカル宮本の持つ声域全てを使い尽くすために製作されたのだろうか、ということ。時に荒々しく、時に静かに厳かに、そして時に淡々と。

終盤の3曲「旅立ちの朝」「いつもの顔で」「オレを生きる」は、タイアップなしの新録ナンバー。うわっ!そう来たか!と思わず唸ってしまうような、メロディアスでドラマティックなナンバーが続く。

今回のアルバム発表に合わせて、改めて過去の作品も聴き直してみたけれど、30周年を経て何か達観したのだろうか、最後の最後まで気を抜くことなく、正座の姿勢を保ったまま、凛とした気持ちで聴き通すことのできる作品。

(収録曲)
1. Wake Up
2. Easy Go (テレビ東京系ドラマ「宮本から君へ」主題歌)
3. 風と共に (49th SG / NHK「みんなのうた」2017年6-7月放送曲)
4. 夢を追う旅人 (48th SG / 明治企業CM「POWER!ひとくちの力 登坂絵莉選手篇」CMソング)
5. 神様俺を
6. RESTART (50th SG / フジテレビ系「FNS27時間テレビ にほんのれきし」ドラマテーマソング)
7. 自由
8. i am hungry (48th SG C/W / テレビ東京系ドラマ24「侠飯~おとこめし~」オープニングテーマ)
9. 今を歌え (50th SG / NHK BS プレミアドラマ「全力失踪」主題歌)
10. 旅立ちの朝
11. いつもの顔で
12. オレを生きる

収録されているシングル曲を中心としたPV集とともに初回限定盤に収録されている「Demo Tracks CD」は、宮本浩次が制作した本アルバム収録曲のデモ音源集。

(収録曲)
1.Easy Go 0
2.Easy Go 初期型(コードA)
3.Easy Go ほぼ最終系(コードG)
4.自由 demo ver.
5.いつもの顔で 2013 demo ver.
6.いつもの顔で 2018 demo ver.

購入するならば絶対こちらをお勧めします。



…と、手放しでこの作品を絶賛してみたが、恐らくこの作品に対する賛否両論はあるのだと思う。

とりわけ、デビューから30年以上、ずーっと彼らのことを追い続けてきたコアなファンからすれば、今でこそ当たり前となったマスメディアを使った宣伝方法(テレビやラジオへの露出)に困惑している人もいるだろうし、過激で攻撃的だった歌詞やサウンドがいつしか人生讃歌のような前向きな楽曲へと方向転換をしていったことに対して戸惑いを覚える人もいるだろう。ファンそれぞれが、熱を上げていた時代が違うのだから、こればかりは多分仕方ないことだと思う。(ちなみに僕は、Epicに在籍していた、それもデビューの頃の荒々しいエレカシが一番好きだった。)

けれども、それらをひっくるめて「エレファントカシマシ」の30年というキャリアは、とてつもなく重層的かつ濃厚であり、そして恐らく僕たちが知っている以上の(つまりファンに知られていないような)紆余曲折を経たからこそ、この作品に繋がったんじゃないかな、と思う。僕より数歳年上の彼らの歩みを辿りつつ自分のそれと照らすと、斜に構えてみたり、組織と反目したり、その過程で色んな「気づき」を経て立ち位置や姿勢に変化が見られたり、そして目障りだった色々なものを当たり前に享受できるようになったり。

…彼らの歩みに自分を投影するのも烏滸がましいけど、何か共感できるんですよ。

それはともかく今回のこの作品、これまでのファンだけではなく、最近エレカシに興味を持ち始めた人たちをグッと惹きつけるという点で、文字通り新たなファンの目を覚ますような傑作だと思うんだけれどな。

個人的には、1から2への流れ、アルバムに一服の清涼剤の如く間を置くような5、そして終盤の10~12の流れがとても好き。

あと一歩踏み出す力が欲しい人、元気になりたい人、そして、ちょっとお疲れ気味の方々に絶対お勧めのアルバム。

ちなみに、ユニバーサルミュージックのサイトでは、デラックス盤【UNIVERSAL MUSIC STORE限定 完全受注限定盤】を期間限定(7/17まで)で予約受付中

税込8,100円のこちらには、全64ページのフォトブックの他、DVD「THE ELEPHANT KASHIMASHI 30th ANNIVERSARY “THE FIGHTING MAN”DOCUMENTARY」(もしかしたらWOWOWで放映された内容と一緒?)と47都道府県を回ったアニバーサリーツアー最終日となる富山公演の模様を完全収録した3枚組のCDをパッケージしているそうだ。
ということで、久し振りに同名のアルバム2種類を購入することになってしまったけど、いいんです。どちらもそれぐらい興味をそそるプロダクツなんだから。
(敬称略)