日別アーカイブ: 2017-08-24

裏と表、見せかけと真実、そして、昼と夜。#MANIJU #佐野元春 

僕の素性を知っている人には信じられないことかも知れないが、断酒を開始して4日目の夜を迎えた。

もちろん次の日曜日、北海道マラソンに向けた対策の一つ。これが吉と出るのか凶と出るのかはわからない。ただ、やれることをやらずして後悔するぐらいなら、とりあえずやれることをやってみて悔いた方がいいのかな、と思っただけのことだ。

音楽と酒の関係。このアーティストにはこの酒、このアルバムにはこの酒が合う、というコンビネーションがある、はずだ。いや、きっと誰もがそういうコンビネーションを密かに持っていると僕は勝手に思っている。

例えば、佐野元春 and THE HEARTLANDの「Cafe Bohemia」。あの雰囲気はビールというよりはバーボン、できればロックかソーダ割りだろうか。…いや、僕はバーボンなんてほとんど飲まないんだけどさ。

7月に発売された、佐野元春 and THE COYOTE BANDの新作「MANIJU」。洒落を気取って背伸びした大人から、円熟味を増して腰を据えた大人への進化。じっくりと染み入る感は、既に傑作の風格すら醸し出している。これを聴くならば焼酎、それもできれば芋をロックでお供にしたいところだ。

「MANIJU(マニジュ)」とは、禅語の「摩尼珠(まにしゅ)」(=摩尼)に由来する言葉。サンスクリット語の「mani」の音写でもあるこの言葉は、神秘的な力をもつ珠のことでもあり、濁水を清らかにし、禍(わざわい)を防ぐ功徳をもつといわれます。

誰かが論評していた。
「MANIJU」とは暗に「Man Needs You」を指すのだと。

論評を読んで何度か復唱してみた。マニジュ…マニジュ…マンニージュー…確かにそうかも知れない。

とはいえこのアルバムは、全編にわたって珠玉の恋愛ソングが並んでいるわけではなく、世界や社会を嘆くシリアスなもの、政治批判と取られそうなちょっと過激なものもある。

とりわけ「現実は見た目とは違う」の歌詞は、痛烈な社会風刺といってもいいだろう。真実の聖者は、いったい誰だろう。見せかけの聖者ならば、世間を騒がせたあの人や、あの人の顔が真っ先に思い浮かぶ。

…いや、彼らは「聖者」ではなく「政治屋」か。

そんな中に垣間見える、いつまでも衰えない少年のような感性。
多様なパッケージ展開。作詞や推敲の過程の様子、更にはスタジオの配置までがちりばめられたブックレット。いわば、この作品が完成するまでの作業経過が記録されたヒストリーのようだ。
ブックレットと同梱されたピンナップそしてポストカードには、短く切りそろえられた白髪姿の彼。ここまで髪を短くしたのは、80年代中頃以来じゃないだろうか。

12弦ギターの多用をはじめとする、チャレンジを忘れない精神。
そして実は、アルバムに収録されなかった、数々の名曲があることを忘れちゃならない。もちろんこの作品は、過去に発表した作品を羅列した寄せ集めのようなアルバムじゃない。(最近目にする機会が多いと思いませんか、そういう作品。)
全12曲。オープニングを飾る「白夜飛行 Midnight Sun」からしばらく聴き入り、終盤に流れる「夜間飛行 Night Flight」でハッと虚を突かれる。
同じ歌詞なのに全く異なる楽曲。歌詞の重み、その歌詞を奏でる楽曲の重みをしみじみと噛み締める。

「ビート詩人」を標榜するようになったのはいつ頃からだろう。
今回のアルバムの根底に流れる「禅」から派生した「禅ビート」は、その呼び声に対するアンサーソングのようで、ほぼ一発でOKとなったテイクだそうだ。

そして、詩人としての本領発揮は実は、未収録曲「こだま -アメリカと日本の友人に」で発揮されているんじゃないかと思う。

作品そのものの持つストーリー性、そしてラストから再びオープニングへと繰り返されるループ。

まさに輪廻転生。

作品を発表するたびに成熟し続けるバンドの姿を、これでもかとばかりに見せつける、格好良さ。
このバンドでなければ絶対に出すことのできない、唯一無二のサウンド。
THE HEARTLAND
The Hobo King Band
そして、
THE COYOTE BAND
彼と共に歩んだこれらのバンドが、日本を代表するようなバンドだということを、敢えて僕が説明する必要はないだろう。
それぞれの個性、それぞれの技術がぶつかり合い、融合し、激しくエネルギーを放ち続けた結果、個々のメンバーが現在も音楽界にはなくてはならないバイプレイヤーとして君臨しているという事実が、それを物語っている。
THE COYOTE BANDを従えて4作目となる今回の作品、先行シングルとして配信された「純恋」を筆頭に「若い世代に聴いて欲しい」という思いが込められているそうだ。

そういえば、THE COYOTE BAND名義の最初のアルバム「COYOTE」も、「二十一世紀の荒地を往くBoys & Girlsに。」という触れ込みだった。

粗削りでまだ手探りを続けていたあの頃。初めてTHE COYOTE BANDを従えたライブを観た時も、どこかまだ融和がされていない感じで、正直ハラハラしたものだった。

あれから10年が経ち、Boys & Girls は、Men & Womenに成長したはず。

でも、Old BoysもYoung Girlsも心揺さぶられる、今回の作品はきっとそんな作品だと僕は思っている。

大事な君(リスナー)に捧げられたこの作品、あなたならどの酒を飲みながら聴いてみたいですか?