日別アーカイブ: 2013-11-10

映画『ふるさとがえり』のこと。

いきなりだが、僕はあまり映画を観る方ではない。なので、正直言うと映画館に足を運ぶのは、数年に1度といったところ。

ちなみに、ここ最近映画館で観た映画は何ですか?と聞かれるならば、「『THIS IS IT』です。」と即答。それぐらい、映画館には足を向けていない。

なので、大御所と言われている映画監督、例えばK澤監督とかK野監督、M崎監督などが指揮を執った映画全てが名作かといわれれば、僕にはよくわからない(大人映画ファンの皆さん、M西監督の名前を出さずに申し訳ない)。

むしろ、そういったメジャーな映画より、どちらかといえばマイナーというかアングラというか、あまり知られていないけど実は名作!みたいな映画の方が何となく興味を惹かれる、というのが正直なところだ。

そんな僕が、一度どうしても観たいと思っていた映画がある。

タイトルは、『ふるさとがえり』。(映画『ふるさとがえり』公式サイト

青森県内でこの映画の存在を知る人、実際に観たことがあるという人はどれぐらいいるだろうか。

監督は林弘樹氏。
黒沢清氏や和田誠氏、北野武氏らの元で助監督を務めた経験を持ち、企業や自治体、最近は図書館や医療業界のブランディング戦略のプロデュースに関わり、要望に応じた講演会活動や映画ワークショップ等も行っている映画監督である。(出典:Wikipedia)

昨年10月に弘前市で行われた「東北オフサイトミーティング」において、他県からやってきた行政職員の方々がこぞってこの映画のことを話題にしていた。ほとんどの方がこの映画のことを賞賛し、そして「一度は観た方がいい」と口を揃えていた。

その後、青森県在住の行政職員の間でもこの映画を観てみたい、上映会を開いてみたいという機運が徐々に高まっていたのだが、なかなかそのきっかけを掴むことができぬまま約1年が経過。

ところがきっかけというのはどこから突然舞い降りてくるかわからないもので、お隣の秋田県藤里町で町制施行50周年を記念し、『ふるさとがえり』の上映会が行われることを知り、平川市役所のSさん、弘前市役所のEさんと僕の3名で、この映画を観るために藤里町を訪れた。

たかが映画を観るためだけにわざわざ隣県の藤里町へ?と思うなかれ。
この日は前述の林監督も藤里町にやってくるということで、直接監督から映画にまつわるお話を伺うことができる、絶好の機会だったのだ。

12時30分過ぎに藤里町に到着した我々を待ち受けていたのは、振る舞い鍋だった。舌鼓を打とうとしたそこへやって来たのは、何と林監督ご本人!
ご挨拶もそこそこに、寒空の下に置かれたテントで一緒にテーブルを囲みながら、林監督から直接、色んなお話を伺うことができた。
そしてその中で、「ふるさとがえり」の上映会(試写会を除く)が行われていないのが、実は青森県と岡山県のみであることを聞かされた。

…あ、そうそう。ここで秋田県山本郡藤里町の簡単な紹介を。
秋田県の北端、世界自然遺産白神山地の南側に位置し、能代市、大館市、北秋田市、そして青森県中津軽郡西目屋村などと隣接している。いわゆる「平成の大合併」が行われた際、秋田県内では数少ない、敢えてどの市町村とも合併しない道を選択した町の一つ。人口は4,000人弱と、お世辞にも大きいとは言えない町である。
実は、僕の父は西目屋村の出身、母は北秋田市(旧:北秋田郡合川町)の出身ということで、言ってみればこの藤里町は、僕の両親の「ふるさと」の中間地点に位置するのだ。

そんな土地で「ふるさとがえり」を鑑賞するという機会を頂くという、何とも不思議なご縁を一人で勝手に噛みしめながら、上映会の会場となる、藤里町総合開発センターの建物へと足を進めていった。

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2階に設けられた、1日限りの映画館「シネマ★フジサト」。
映画館の開場は13時30分、上映時間は14時からなのに、13時過ぎから人が集まり始めていた。「映画館」にはつき物ということで、入り口前では50円のポップコーンが手売りされていた。

「映画館」の後方には椅子が並べられ、何と前列にはゴザが敷かれている。

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入場者の大半は地元のお年寄り。少なくとも40代の人は、Sさんと僕ににスタッフを加えても数える程度しかいないようだ。あとは小中学生。彼らがどんな思いでこの映画を観るのかもまた、気になるところである。あっという間にお年寄りで椅子が埋まり、遅れてやって来た小中学生は、ゴザに行儀よく座り始めた。

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いよいよ14時、上映開始。

…映画の内容は、ここでは触れないでおこう。でも、ちょっとだけ(笑)。

…ジャブのように僕の涙腺を揺さぶるシーンの連続。とりわけ後半は、目から流れ出ようとする汗をとどめるのに、必死だった。多分、それだけ僕の心を揺さぶる、素晴らしい作品に僕は出会ってしまったようだ。

16時過ぎ、終映。
予想はしていたが、エンドロールが流れ始めた途端、一斉に観客が席を立つ。
…おい!それはないだろう!?と思わず口に出しそうになった。

映画はエンドロールが終わるまでが作品なんだ。別に映画を積極的に鑑賞しているわけじゃないけど、最後まで見届けるのが最低限のマナーじゃないの?…と思ったが、所詮1日限りの映画館で、観客は小中学生とお年寄りが圧倒的。まあ、やむを得ないんだろうな…。

既に観客は7割以上がいなくなっていた感があるが、16時30分からは林監督自らが登場し、観客とのトークセッションが始まった。
2011年から全国各地で上映会が始まり、藤里町での上映が914回目であること、作品の完成まで6年を要したこと、最初の上映は日本消防協会で2011年3月12日を予定していたこと(その前日に、東日本大震災が発生)、映画を撮影したカメラマンが秋田県の方で、最近他界されたこと、映画のサブタイトルが持つ意味…などなど。

観客からもいろんな感想や質問が飛びだし、監督が一瞬たじろぐような質問があったりして…。
そんなこんなで17時30分にトークセッションも終わり、この日の上映会が終了した。

スタッフの方々に挨拶を済ませ、僕の運転で一路青森県へ。

帰りの車中では、『ふるさとがえり』談義で大いに盛り上がった。
…が、その内容もネタバレにつながるので、申し訳ないけどここでは割愛(笑)。

実はトークセッションの中で、こんな感想を漏らした方がおられた。

「大変素晴らしい作品で感動しました。早いうちに是非とももう一度観たいと思いました。例えば…弘前などで上映会をやられるのであれば、是非行きたいと思いました。」

それを聞いた我々3名は、思わずその方に拍手を送っていた。
そして多分3名とも、同じ思いを抱いていたはずだ。

是非この作品を多くの方々に観て頂きたい。その機会を青森県で、津軽で、そして我々の手で作りたい!

…ちょっとだけ目を腫らしながらハンドルを握る僕をはじめ、みんなの口から、映画の感想が次から次へと溢れ出すように出てくる。

「いい作品だった。面白かった。」

そんな薄っぺらい感想ではない。
もっと具体的で、もっと熱く、そして感動的な、思い起こしただけで落涙しそうな、例えて言うならば、そんな感じの感想がどんどん溢れてくるのだ。

…以前、サムライとヨッパライが集い、一つのプロジェクトが水面下で動く気配があったのだが、どうやらその動きを進める大きなきっかけを掴んだような気がする。

百聞は一見にしかず。

できるだけ早くこの作品を皆さんとともに鑑賞しながら、感動の涙を流す機会を設けることができるよう、サムライとヨッパライとその仲間たち、何となくギアがニュートラルからローに入れ替わったような気がします。

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