プリンスが突然この世を去ってから間もなく1か月。何となく落ち着かないというか浮ついているというか気もそぞろというか、平常心を保っているような素振りを見せつつも、明らかに精神状態に変調を来していたようです。
憩室炎になったのもそれが引き金だったのかどうかは、今となっては検証のしようがないのですが、多少なりの影響を及ぼしていたのでしょう(彼の死をきっかけに、確かに暴飲暴食暴言が過ぎた感が)。
プリンスが亡くなった、もうこの世にいない、彼のライブを二度と見ることができないという現実をどう受け止めたらいいのかよくわからないまま、時間だけは無情にも過ぎていきました。
この間、彼を追悼する動きが世界中に広がり、プリンスは本当に死んだんだ、という現実を徐々に受け入れざるを得なくなりました。
彼の死後、通勤時にはいつもプリンスの音楽が僕の耳の奥に飛び込んできました。一瞬だけ他のミュージシャンの曲を聴いていましたが、古い曲も新しい曲も、僕の耳の中は9割方プリンスが創った音楽で埋め尽くされました。ショックで聴けないという方もおられたようですが、僕はむしろ逆。彼がこの世のどこかにいることの当たり前から、もうこの世にいないことの事実を受け止めるべく、今もまるで何かを貪るように彼の音楽を聴いているという状況です。
とはいえ実は彼のアルバム、一聴した後にほとんど聴いていない作品が数枚あり、文字通り僕のCDライブラリの中で「お蔵入り」していました。が、彼の死を機に、やっとデジタルアーカイブすることにしました。
多分これで、彼のオリジナルアルバムと関連アーティストのオフィシャルアルバムは大体デジタルアーカイブが完了したのではないか、と。
…ということで、今日はそのお話。
プリンスの功罪の一つとして、それまで日の目を見ることがない(あるいは、一生日の目を見ることがない)作品が相当数あったということが挙げられると思います。最も有名なのが、直前で発売中止、お蔵入り(数年後にオフィシャル盤として発売)した「Black Album」。しかし、発売中止となったはずの音源が世に流出し、「ブート盤(海賊盤)」として流通することとなり、西新宿界隈に多数あった「海賊盤専門店」が賑わいを見せることとなりました(かくいう私も、何度お世話になったことか…)。
その後もコンサートの音源やデモ音源など、彼のブート盤はオフィシャル盤(契約レコード会社を通じて発売された正規の作品)をしのぐ勢いで一つの市場を形成してしまうのではないかというぐらい、様々な音源が流出しました。
しかし彼はそれを逆手に取り、「ブート盤」をオフィシャル盤として販売するという手法に出ました。その最たるが「Crystal Ball」。僕は海外でしか発売されていなかったこの作品をどうしても入手したくて、電話回線でのインターネットが普及し始めた頃に弘前市民体育館で行われたITフェアに出向き、その一角にあった「インターネット体験コーナー」のブースに潜入、不慣れな英語のサイトに四苦八苦しつつインターネットに接続されたパソコンを約30分も占拠し、ようやく公式の販売サイトに辿り着きめでたく購入手続きを終えました。ところがそれから数ヶ月後、ようやく自宅にCDが届いた頃には、国内でのCD販売が既に始まっていた、ということがありました(でも、透明なジュエルケースに入った5枚組のCDは、海外からインターネットで入手するだけの価値があったと思っています)。
さて、これまでプリンスファンを標榜してきた私ではありますが、実はこれまで手を付けていなかった(ほとんど聴いていなかった)CDが何枚か存在します。今般、まるで彼の遺品を整理するような気持ちで保有するCDをデジタルアーカイブへ変換する作業を行った結果、初デジタルアーカイブ(MP3化)完了となった3枚のアルバムを紹介したいと思います。
彼に対する思いは人それぞれ、色んな評価があると思います。これから紹介する3枚のアルバムに対する考えはあくまで僕の私見であって、当然のことながら全てのプリンスファンがこういう思いを抱いているのではない、ということだけは明記しておきます。
「Vault: Old Friends 4 Sale」(1999年)
1999年、大喧嘩をしていたそれまでのレコード会社「ワーナー」と決別するため、所定枚数のアルバムを発表することで早く契約を打ち切ろうと、消化試合のように発売された未発表音源の寄せ集め、と言われています。作品そのものの評価はむしろ高く、このアルバムが好きだという人も多いようです。
が、なぜか僕、このアルバムはあまり聴く気がしませんでした。「聴く気にならない」思いを今まで引きずっていた理由は、正直僕にもわかりません。ただ、何となく「投げ売り」というか「やっつけ仕事」的な感で発表されたことに対し、このアルバムそのものが本意ではない中で制作された、つまり彼としてはこんな作品は発表したくなかった、という思いがあるのではないかという疑念が僕の中で燻っていたのは事実です。
「Chaos and Disorder」(1996年)
1996年、これもまたワーナーとの確執の最中に発売されたアルバムです。制作期間は2日とも1週間とも言われ、一発録りのようなノリも含め、これこそまさに「やっつけ仕事」と評されました。「1999」のレコードを踏みにじるジャケットに表されるように、どこか暴力的というか乱雑というか、先に紹介した「Vault: Old Friends 4 Sale」と同じような環境下で発表された作品ということで、あまり聴かなかった(聴く気が起きなかった)のかも知れません。でも、今になって改めて聴いてみると、荒々しさの中にも彼のロックンロール魂を垣間見るとでも言えばいいのでしょうか、他の作品とは一線を画しつつも、当時のプリンスの心境(単なる怒りというよりも、理解してもらえないことへの悲観的な感情みたいなもの)が滲み出ているような、違う意味での「ノリと勢い」を感じる作品です。93年に発表されたビデオ「The Undertaker」を彷彿させるような感じ。
「Emancipation」(1996年)
前述のワーナーとの契約関係に終止符を打ち、「ワーナーからの解放」を機に発表されたアルバム。何と「Chaos and Disorder」からのインターバルはたった4か月!ちょうど私生活でも結婚という人生の転機を迎え、彼自身としては本当に幸せだったのでしょう。東京で行われたワールドプレミアのアルバム発表、ライナーノーツに記載された彼自身による楽曲毎へのコメント…。
うーむ…何だろうこの違和感。貴方本当に、プリンス?
3枚組36曲、しかもディスク1枚が12曲計60分00秒ピッタリの収録という統一感もさることなら、公私混同も甚だしいぐらいこの作品全体から漂う幸福感は、何かプリンスに解毒剤が打たれたような感じで、僕は素直に受け止めることができませんでした。いや、これもプリンスなんだけどさ。もっとおどろおどろしい「何か」に、僕は期待を寄せすぎてしまったのでしょうか…。
紹介の順番について年代が逆になってしまいましたが、プリンスの場合、契約上の関係で既に廃盤になってしまったアルバムがあります。今回紹介した作品にも、既に廃盤となっているものがあり、iTunes Storeでも発売されていません。また、そういうアルバムは中古市場を中心に高額で取引されるような状態が現在も続いているようです。
一方で、彼の未発表曲は毎年1枚のアルバムを出し続けても100年かかるというぐらいの量があるとも言われています。恐らく、全ての未発表曲が日の目を見ることはないにせよ、この先何らかの形で作品化されていくかも知れません。(ただ、海賊盤になってこの世に出回ることだけは避けて頂きたいです。)
きっとそうやって、亡くなった後もなお我々ファンの心をくすぐり続けるのでしょうね。ちなみに、関連アーティスト(彼のレーベルであるPaisreyParkやNPGレコードのアーティスト)のオフィシャル作品もデジタルアーカイブを完了しましたので、当面はこれを聴きながら、彼を追悼したいと思います。
(参考:今回改めてデジタルアーカイブ化したアーティスト)
Apollonia 6, Vanity 6, Carmen Electra, Jill Jones, The Time, Sheila E, Madhouse, Eric Leeds, Mazarati, The Family, Mayte, Mavis Staples, New Power Generation, Chaka Khan, Graham Central Station
(最近の音源、Andy AlloとかBria Valenteなどはアーカイブ済み。特にPaisley Park関連では数名の漏れがありますが、僕がCDや音源を持っていないだけの話です。)