日別アーカイブ: 2017-09-18

禍福は糾える縄の如し ‐第32回田沢湖マラソン(前編)

マラソンの大会に出場する直前3日ぐらい前からのイメージトレーニングが、一つのルーティンとなっている。
知り得る限りのコースの起伏やルートを思い返し、どれぐらいのペースで入ったらいいのか、どれぐらいの余力でゴールすればいいのか、そうすれば、どれぐらいのタイムでゴールできるか…。
2017年は1月の勝田も8月の北海道も、それまでの大会結果や練習内容を踏まえ、イメージトレーニングしたうえで臨んだ結果だった。烏滸がましくも、出るべくして出た結果だと思っている。

さて、事実上の2017年、今季最終戦となった9月17日の田沢湖マラソン。

16日の午後から移動を開始し、一路田沢湖へ。前回同様、トミー、ケンケン、そして僕というオッサン三人衆で同じ宿に宿泊することにしていた。
ただ前回と異なるのは、トミーの車に同乗させてもらったこと。
大人の休日俱楽部ならぬ、オッサンの休日俱楽部といったところだろうか。

16時前には田沢湖畔に到着、受付を済ませた。このまままっすぐ宿泊先に、とはいかず、せっかくなのでコースの下見と称して、田沢湖畔を一周してみることにした。
御座石神社に立ち寄り、明日の「安全走行」を祈願。この湖畔を走るのは、今年が最後になるのかもしれないなあ。ありがとうございました、と。

そう、今回の田沢湖マラソンは、2017年最後のガチンコ大会であり、僕の中では今回をもって出場も最後にしようと考えていた。北海道から中2週、弘前・白神まで中1週という間隔、正直疲労を完全に抜ききってレースに臨むのが難しいお年頃に差し掛かっているということを感じ始めていたからだ。

32キロ地点にある「たつこ像」、そして35キロから約800mにわたって続く鬼門のアップダウンを確認。果たして僕は、このアップダウンに差し掛かる時にはどういう状態で、そして、どういったタイムでゴールゲートをくぐるのだろう。

そんなことを考えながら、昨年もお世話になった「青荷山荘」へ向かう。
8畳に3人のオッサン。

昨年は我慢していたアルコールをここで解禁し、ビール1本を飲んだのだが、どういうわけか今年は誰も「飲もう」とは言わず、めいめいが持ち込んだノンアルコールビールで乾杯。しかし、アルコール抜きで黙々と食事に没頭した結果、18時から始まった宴は、何と19時には終わってしまった。

台風18号の影響も気になる中、温泉に浸り、21時には床へ。
荷物を整えながら、明朝から口に運ぶものを準備する僕の姿を見て、「ルーティン凄いな」と半ば呆れる二人。
隣に寝るオッサン二人は、あっという間に寝息を立て始めたが、さて僕は、明日どういう気持ちでレースに臨もうか悶々としながら、気が付いたら眠りに就いていた。

しかし、未明の暴風で目を覚ます。台風の影響にしては早すぎる。しかし、尋常ではない風に木々の枝葉がぶつかり合う音にすっかり恐れた僕は、よく眠れぬまま朝を迎えることとなった。まあ、緊急事態の電話でたたき起こされるよりはマシか。

朝になってもやまない風に、「大会中止になるんじゃないか?」という一抹の不安がよぎり始める。トミーが大会本部に電話をすると「風は全然強くないですよ。何を言っているんですか?」ぐらいの感じでけんもほろろに返されたそうだ。
山荘の女将に聞いたら、この周辺は秋田駒ケ岳からの吹き下ろしの風が凄いらしく、珍しいことではないのだそう。

「風もあんまり強くないみたいですし、頑張ってきてくださいね!」

女将に見送られた僕らは、10キロ地点にある臨時駐車場へ移動し、そこからバスで会場へ。9時前に到着すると、確かに風はさほど吹いていたわけではないけれど、駐車場で吹いていた強い吹き下ろしの風がレースにどれぐらい影響するのか、気になるところではあった。風、強いっすよ。女将…

弘前公園RCの他のメンバーとも合流し、スタート地点へと向かう。この時点で腹は決まっていた。今までは失敗することを恐れて絶対突っ込んだりすることはなかったけれど、今日は失敗ありきでいけるところまで攻めてみよう。ダメでもともと、やるだけやってみて、来年までの課題としてまた練習し直せばいいんだし。カフェインを4日抜き、アルコールも6日抜いた。疲労は完全に抜けきっていないかもしれないけれど、きっと何とかなる。やるべきことは、やったはずだから。初めての、ノープラン。

スタートの10時まであと5分となった時に、会場の異変に気がついた。

そういえば、あれが聞こえていない…。
田沢湖マラソンといえば、朝から耳につくぐらいの大音量でテーマソングが延々と流れているのに、この日は、あの曲がどこからも聞こえてこないのだ。

一抹の寂しさに似たようなものも覚えながら、最前列に近い場所に並ぶ。隣には、 昨年の大会で結果的には15キロまでペーサーの役割を務めてもらったシカナイさん。時計を気にするかどうかの話題になる。
最近、大会に出るときは極力時計に目を送らないことにしている。さて、今日は何度時計に目をやることになるのだろう。

いよいよ10時、号砲とともにランナーがスタート。42.195キロの旅が始まった。軽く上った後で一気に下る。ペースを抑えようとせずに、リミッター解除。いきなりトップギアで、入りの1キロが3分50秒。2キロ通過が4分6秒。既に時計に2度目をやったが、この時点で明らかなオーバーペースだった。左折直後に追い風となったが、緩い上り基調。ここで少しペースを落ち着かせ、3キロ通過が4分15秒(Garminの測定値による)。

北海道マラソンの翌週に32キロ、先週は22キロをこなしたが、何となく頭が重くて、全身の疲労がまだ完全に抜けきっていない感覚。まあ、それも含めてマラソンですから。
5キロ通過で一瞬ペースが落ちかけたけれど、7キロ地点通過時で再びペースを戻し、完全にサブ3ペースで走っていたようだ。バカですよね、身の程知らずもいいところですよ。
8キロ手前から下り基調となる。しかし、吹き下ろしの風は相変わらずで、時々身体を揺さぶったり押し返したりしそうなぐらいの勢いで吹き付けてくる。

無心で走ろうと思っていたのに、なぜか「ジェンガ」のことが頭に浮かぶ。何だろう、今日に向けて積んだブロックは全部揃っていなかったなあ。身体というよりも頭の疲労回復がまだされていない、完全完璧ではない形の、ジェンガ。

…そう、僕こそがまさにジェンガ。
足りないブロックはともかく、バランスを保ちながら、崩れないように走り続ける、そんな感じ。
そして、風に身体が押されるたびに、積まれたブロックが道端に投げ捨てられていくような気分。

…こんにちは。
道端ジェンガです。

そんなくだらないことを考えながら、田沢湖駅前を通過。最初の賑わいがある場所だけれど、ここから16キロ付近までしばし続く地味なアップダウンが結構堪えてくる。

この大会の本番は、ここからなのですよ…。(後編へ続く)