日別アーカイブ: 2016-05-25

Wild Lips / 吉川晃司

TBS系で放映された「下町ロケット」での財前部長役を筆頭に、最近はすっかり役者づいてしまった吉川晃司も、もう50歳なんだそうで。
どちらかといえばカリカリしているというか、斜に構えて取っつきにくい印象のあった過去と比べると、最近は良い意味で角が取れ、人格者としての雰囲気も漂い始めるようになりました。僕は昔からファンでしたし、コンサートにも足を運んだことがあるのですが、彼に対する「ワイルドでちょっと素行不良」的な印象がガラリと変わったのが、東日本大震災の際に、素性を隠してボランティア活動を行っていたという事実を知った時。その後のCOMPLEX再結成、東京ドームで僕も泣いたなあ…(遠い目)。
前述のとおり、最近はミュージシャンというよりも役者・吉川晃司として板についてきた感はありますが、逆にそれが音楽、演技双方の活動に良い意味で作用しているのかな、と思ったり。

さて、財前部長を演じてから初となるオリジナル・アルバムは5月18日発売、通算19枚目となります。
2013年に発表された前作「SAMURAI ROCK」では、かなりゴリゴリなロックチューンが続いただけに、本作もタイトル通りの「ワイルド」を期待したのですが…。
感じ方は人それぞれだとは思いますが、まず僕が一番最初に感じたのは、あれ…何だろう。何かが、違う。という違和感。

収録曲8曲約35分、うち4曲は既発曲。(ちなみにiTunes Storeでは全8曲に、「SAMURAI ROCK」「アクセル」「LA VIE EN ROSE」のライブ音源がボーナストラックとしてプラスされています。)

ガッカリしたわけではないけれど、この短さには何か肩透かしを食らった感じ。

僕の中でまだ咀嚼できぬまま抱いているこのアルバムへの違和感は多分、先行シングルで発売され、アルバムのファースト・トラックともなった「Dance To The Future」への違和感そのものなのかも知れません。そしてこの曲を含め、アニメ、映画、ゲームという現代の三大娯楽(?)とタイアップした曲が既発シングルとして発売されたという事実、曲の出来映えがどうのこうのというよりも、これらの楽曲の構成にどことなく「らしさ」を感じなかった、そして、これまでであればあまり結びつきを得ることのなかったであろう三大娯楽のうち二大娯楽とのタイアップこそが、僕の中で「?」を生み出した最大の要因なのだと思います。
吉川晃司とゲーム、吉川晃司とアニメって、何か違うような。…まあ、既に「仮面ライダー」で下地は出来上がっているのですが。

メディアに掲載されたレビューには「ダンサブルなロック・アルバム」の文字。
でも、正直「Dance To The Future」に関してだけ言えば、そんなにダンサブルといった印象も受けなかったし、ロックといった印象もなく、何か地味な感じ。これからロック調にしようと思った曲が、まだ完成する前に流出してしまった、そんな印象を受けました。この曲がアルバムの最初を飾るという時点で、ここ最近の中では、異質な作品なのかなあ、という感想。例えて言うならば、「プリティ・デイト」を初めて聴いた時みたいな感じ。

違和感を覚えたのはこの曲だけではありましたが、約35分間、ビューーンと飛び抜けるような疾走感もなく、あまりにもあっけなく終わってしまったので、三こすり半でイキそびれた、みたいな。

いや、タイトルナンバーの「Wild Lips」なんかは、メチャクチャ格好良いんですよ。というかむしろ、「エロさ」を貫き通すのであれば、全部こんな感じで通して欲しかったし、この曲だってこの先、ライブの定番になってもおかしくないと思うし。

「Expendable」には休養していた大黒摩季がコーラス参加、ジャケットのキスマークは水原希子によるものなど、それなりに話題性もあるのです。あるのですが、ううむ…なのですよ。

結局のところ彼の場合、シングルで発売された楽曲は「あわよくば売れ線狙い」のタイアップで「当たらず障らず」である一方、本当にやりたいことはアルバムに収録されているのかな、と。
ただほら、ドラマだ映画だと役者付いている手前、音楽活動に没頭する時間もないのに、「財前部長として認知されているうちに出してしまえ」という、自分の意志とは無関係な思惑に振り回された結果としての産物なのだろうか、とも思ってしまいます。早い話が、(小声で)「やっつけ仕事」ってヤツ。

全体を通して感じたことは、50歳という年齢は感じさせないものの、かつての荒々しさや毒々しさが影を潜め、妙に落ち着いた感があるような気が。いや、それはそれで渋さがあってまたいいんですけどね、どうせならとことん大人のエロさを極めて欲しかったなあ。

ちなみにこのアルバム、当初「Rock’n Rouge」というタイトルでの発売を検討したらしいのですが、それって30年以上前に松田聖子が出した曲のタイトルだよね、ということになりボツ、続いて「HOT LIPS」というタイトルが浮上したものの、これは吉川本人が既に同名の曲を発表しており、こちらもボツになったという経緯があったそうな。
まあ、そんな紆余曲折を経て発表された作品ですから、せっかくなのでもう少し聴き込んでみて、単なるゴムで終わるかスルメに化けるか判断したいと思います。
で、このアルバムを引っさげた全国ツアーも始まるとのことですが、「財前部長」効果からなのか、各公演とも軒並みソールド・アウトとなっているようです。完全に機を逸しました。