日別アーカイブ: 2016-09-22

「SL銀河青函DC号」撮影記

正直言うと、動く被写体の撮影が苦手だ。マニュアルモードの設定は、未だによく理解していない。いろんなものを撮影することは好きだが、かといってそんなにカメラにのめり込んでいるわけじゃない。

ショボいスペックの一眼レフデジタルカメラを手にして既に4年以上が経過、これまで何枚撮影してきたかわからないが、その多くは、自分でマニュアル設定するのではなく、カメラのオート機能に頼ることがほとんどだった。いや、実際オート設定にした方が楽だったし、うまく撮影できたことが多かった。
が、肝心の時はマニュアル設定での撮影を心掛けた。「肝心の時」というのは、「自分で撮影した」感を味わいたい時。まあ、そんな機会が年に何度あるかといわれるとほとんどないんだけれど。

さて今回、青函デスティネーションキャンペーンの一環(中核イベント)で、JR釜石線(花巻~釜石間)を走る「SL銀河」が、「SL銀河青函DC号」として青森~弘前間で9月17日、19日に運行された。
9月上旬から試運転が始まっていて、お昼前後には弘前駅周辺が蒸気機関車の鳴らす汽笛で賑やかになる、という話を聞いていた。
「SL銀河」については、3年前に花巻市を訪れた際、花巻駅で一度見たことがあり、それ以来の「再会」を果たす日が来るんじゃないかとワクワクしていたが、17日は翌日の田沢湖マラソンに向けた準備やら何やらで、そういう余裕はなさそうな感じ。19日も、時間が取れるかどうか…。

9月12日。この日は消化しそびれていた夏季休暇を充てることにしていた。本当は岩木山登山を目論んでいたのだが、色々あって10月に延期することにした。
しかも、16歳となった愛犬モモがかなり衰弱していたため、病院に連れて行くことに。そしてふと思い立ったのが、「SL銀河」との再会だった。運行ダイヤでは、10時13分に青森を出発し、11時46分に弘前に到着するとのこと。色々考えた結果、弘前の隣駅、撫牛子(ないじょうし)駅で待ち伏せしてみることにした。最近乗り物に興味を持ち始めた甥っ子を引き連れ、11時半近くに撫牛子駅に着くと、誰もいなかった。

しめしめ、これは独り占めできる、とほくそ笑んだが、秋田ナンバーの車が既に停まっていて、待合室には大きなレンズを取り付けたカメラを手にする男性が、どうやら「SL銀河」の通過を待っていたようだった。(実は僕はこの時、運行するかどうかの判断となるあることに気づいていなかった。)

11時46分到着なので、恐らく11時40分頃には撫牛子駅を通過するはずだ。カメラを片手に、甥っ子の手を引き、青森方面側のホーム、つまり通過する反対側のホームでその時を待った。イメージしていた構図は、生まれて初めて見るSLを見た甥っ子の反応。手を振るもよし、はしゃぐのもよし、その姿の奥には疾走するSL銀河…というものだった。
11時38分。時計を見ながら静かにその時を待つ。いよいよ退屈の限界が近づいてきた甥っ子を、一緒についてきた妹がなだめている。

僕は、橋脚の向こうから響いてくるであろう汽笛、そして見えてくるはずの煙を凝視する。
42分。…あれ?来ない。連日試運転をしているって聞いたのに、何で?慌てて検索して、あることに気がついた。それは、試運転が行われる日は、安全確保のため踏切やホームに警察や警備員が張り付くということ。あたりを見回しても、警察や警備員はおろか、人ひとりいないし…。
何とこの日試運転は行われず、結果的に空振りを喰ってしまったのだ。帰り際、甥っ子が一言。
「ピンクのSL、格好よかったね!」
いや、それSLじゃなくて、青森から弘前に向かう普通電車なんですけど…。(汗)

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翌日マスコミ向けの試乗会があることを妹に伝えると、思うところがあったのか再び甥っ子と撫牛子駅を訪れ、無事「SL銀河」を見ることができた、との報告があった。

「前日空振りしてくれた兄のおかげです。」
…うるさいわ!(苦笑)

9月14日。大切な後輩の御尊父が他界され、18時30分からのお通夜に参列するため、15時過ぎから2時間お休みを頂くことにしていた。
一昨日の失態を挽回すべく、家を出る際にカメラをカバンに忍ばせ、電車ではなく自家用車で青森へ。
不謹慎ながら、あわよくば帰りに「SL銀河」をファインダーの中に捉えようという作戦。お昼に母から「弘前駅、蒸気機関車の汽笛が凄い。」という情報を得ていたので、この日試運転が行われているのは明らか。
あとは、弘前から青森に向かう時間帯さえ間違えなければ、きっと会えるはず。

そして、「SL銀河」を捉えるべく狙いを定めた駅は、大釈迦駅。理由が幾つかある。
(1)職場から向かう帰路の途中ちょうどいい場所にあり、準備の時間を確保できること。
(2)無人駅であり、かつ駅のすぐそばに無料の駐車場があること。(定期券を持っているので、別に有人駅でも構わないんだけど。)
(3)駅の構内が比較的広く、弘前方面からはほぼ直線で線路が走っていること。(遠くから走ってくる姿を目視できる。)
(4)停車時間が長いこと。(他の駅は停車時間が2分程度であるのに対し、大釈迦駅は14分。)

青森の職場を出発し、大釈迦駅に到着したのは15時50分頃。既に駅の構内には、警備員とJRの保安係員の姿が。これから待望の「SL銀河」がやってくることを確信した。

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てっきり1番線ホームに入線するのだろうと思ったら、どうやらそうではないらしく、3番線に入線するようだ。構内の跨線橋を渡り、到着の準備を進める係員に聞いてみた。
「ええ、3番線に入線しますよ。」

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確かに2・3番線ホームには、SLの停車位置を示すマークが貼られていた。当初2・3番線ホームから1番線へのアングルを、と考えていたのに、魂胆がちょっと狂ったが、これはこれで結果として良かった。
再び1番線に戻り、弘前寄りのホームの端に陣取る。…といっても、ホームの上には誰もいない。どうやら今日は作戦成功のようだ。あとは、カメラの設定とピント合わせさえちゃんとやれば…あ!三脚を忘れた!
あろうことか、三脚を家に忘れるという失態。
すぐに弘前行きの電車と青森行きの電車がそれぞれホームに入線し、程なく出発。この弘前行きの電車が、次の浪岡駅で「SL銀河」と交換となるはずだ。
16時05分頃、「浪岡駅出発」の無線の声が耳に聞こえた。いよいよターゲットはこちらに向かっている。
ホームの端にある柵を三脚の代わりにし、200mmのレンズを固定。ふと見ると、跨線橋の上にはSLの到着を待つ人の姿。2・3番線ホームにもまばらながら一般人の姿が見受けられる。
やがて遠くに、一つ目のライトが見え始め、少しずつその姿を大きくしながら、ゆっくりとこちらに近づいてくるのがわかる。黒光りする車体から白い煙や黒い煙を吐き出し、徐々に大釈迦駅へと迫ってくる。

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駅構内南側にある踏切警報器が鳴り、遮断機が下りる。一つ目のライトはどんどん大きくなり、3番線方向へと切り替わったポイントをガタンゴトンと音を立てながら走ってくる。ようやく見ることとなったその姿に興奮を隠しきえれぬまま、肝心の「置きピン」の手前で慌ててシャッターを切ってしまったため、ちょっとだけボケの入った画像となってしまった。

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ヘッドマークを外したC58型蒸気機関車と、「SL銀河」のロゴが施された青い4両編成の客車(正しくは自走することもできる気動車)の全景を捉え、跨線橋を駆け上がる。試運転のはずだが、なぜか乗客の姿が見受けられる。

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僕はといえば、蒸気機関車の正面、真横、背後と、色んな角度から何かに取り憑かれたかのように無心でシャッターを切っている。

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程なく、秋田行の特急「つがる」が通過するので、黄色い線の内側に下がって欲しいと拡声器で保安係員が叫ぶ。これも織り込み済だったので、蒸気機関車と特急のすれ違いを捉えることができた。

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…って、何かここまで来ると私、鉄道マニアみたいなんですけど、ホントそんなことはないんですよ。好きか嫌いかで問われれば「好き」ではありますが、少なくとも「マニア」ではないですから、ええ。「にわかファン」程度で勘弁して下さい。

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しかし、そんなホーム上で繰り広げられた至福の時間もあっという間に終了、もうもうと黒い煙を吐き出しながら、28分頃にボォーッという大きな汽笛、そしてなぜか牽引されているはずの気動車も汽笛を鳴らし、青森方面に向けて大釈迦駅を出発していったのであった。

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12日の失態が生んだ作戦は、まさにケガの功名といった感じで幕を閉じた。
帰宅してから妙に鼻がむずむずするので、ティッシュで鼻をかんだら、ティッシュが煤で真っ黒になった。