【前編からの続き】
雨の影響もあってなのだろうか、予想よりもスローペースでスタートした感があった。
それでもガンガン行ってしまう人はもちろん大勢いるわけで、その波に飲み込まれないことが最初のミッションだったが、心配無用だった。だって、そもそもそこまで走れる脚ができあがっていないから。
よし、今日は楽しく走ろう、笑って走ろう。そう思ってスタートラインを踏んだけれど、本降りの雨がどんどんその意思を削いでいく。色づいた沿道の銀杏の樹木から滴り落ちる雨粒も何だか恨めしい。
しかも、突如現れた水たまりに思い切り足を突っ込み、更に気が滅入る。
落ち着け、まずはしっかりペースを保とう。
最初の1kmはアテにならないとして、2km以降はこまめにペースを確認することにした。その後は当初の設定どおり、概ね4分35秒から40秒の間をキープしながら、先に進む。相変わらず路面の水たまりは半端ないが、沿道からわざわざその位置を教えてくれる人がいたのはありがたかった。
気がつくと既に10kmを通過していた。今回は5km毎にペースを刻むこと意識して走っていたので、2クール目が終わったことになる。簡単に言えば、あと6回同じことを繰り返せばいいだけのこと。依然として雨は降り続いていたが、やがて止むはずだ。ほとんど風もなく、走りやすいと考えれば少しは気も楽になる。妙に力んでいた肩の力を抜いて、なるべく無心で、一点に意識を集中させて走る。
決してキツいペースではないつもりなのに、心拍数が跳ね上がっている。二度、大きく息を吐く。
今回はしつこいぐらいある一点に意識を集中していたことが功を奏したようで、20kmまでは何の支障もなくやってこれた。キツいというよりも、この雨だし走るのが面倒だな、ということが頭をよぎったものの、その思いも5kmまでには消えた。
そういえば、降り続いていた雨も止んだらしい。
あと4クール、問題はこの先だ。もう一度気合いを入れ直し、意識を集中させる。水分を含んだシューズの中がカポカポと音を鳴らしていたが、大して気にならない。周囲のランナーのことも気にしない。気にするのは、自分の呼吸音と鼓動とフォーム。このまま頑張れば、自ずと結果もついてくるはずだから、今は自分を信じよう。
…しかし、自分の練習不足はそんな子供騙しのような頑張りを易々と見逃してくれるはずがなかった。20kmから少しだけペースを上げたところまでは良かったが、27kmを過ぎた辺りで、突如右足の太腿に電流が走った。痙攣開始の合図に、慌ててペースを緩める。
万事休す。