日別アーカイブ: 2016-11-09

【名盤アゲイン】LISTEN WITHOUT PREJUDICE VOL. 1 / George Michael

1990年9月に発売された、ジョージ・マイケルの2作目のアルバム。VOL.1という名が付されているだけに、翌年にはVOL.2の発売も予定されていた…というか、そもそもこの作品は2枚組での発売が予定されていたのですが、先に完成していた分をVOL.1として発売したところ、後述するとおり米国での売上げがパッとせず、そのことを酷評した所属レーベルであるソニーの社長の発言に激怒したジョージが契約無効を訴えて法廷で闘争が繰り広げられるという事態になり、VOL.2の発売はお蔵入りとなってしまいました。(結局この法廷闘争はソニーに軍配が上がりますが、次作の「OLDER」が発売されるまで5年以上も費やすこととなりました。プリンスが頬に「SLAVE」と書き記したのもこの頃で、彼自身もワーナー・ブラザーズとの確執が取り沙汰された時期、この裁判の行方を見守っていたと言われています。)
Wham!としての実績、キャリアを備えてのソロデビュー、満を持して発表された「FAITH」は、どこか泥臭い中にも洗練されたR&B基調にジャズの要素も織り交ぜた作品として世界中で大ヒットすることとなり、音楽業界が最も賑わいを見せていた群雄割拠の時代にあって、ジョージがソロ・アーティストとして一級品であることを改めて印象づけることとなりました。

そしてそれから約3年後に発表された「LISTEN WITHOUT PREJUDICE VOL. 1」は、英国で初登場1位を記録し、「FAITH」を凌ぐセールスを記録しました。他方、米国での売上げは200万枚にとどまり、デビュー作「FAITH」の3分の1以下にとどまることに。この原因は、プロモーションを一切行わなかったためという見方が多かったのですが、実はリスナーの中には、恐らく「FAITH VOL.2」のような内容を期待していた人が多かったのではないかと思います。
…いや、正直言うと僕はそうでした。ダメなリスナーでホントすいません。ダンサブルでキャッチーで、それでいて煌びやかな、そんな優雅なアルバムを望んでいたのだと思います。ところが、蓋を開けてみると…
華美で派手な雰囲気すら醸し出す「FAITH」と比較すると、どこか落ち着いたような、内省的な雰囲気すらある2作目。それは、Wham!や商売至上主義に踊らされていた自分との決別、とも取れる作品でした。ジャケットを見ても彼の姿はなく、ダンスミュージック隆盛の時代に、何となく古臭さを感るような音。「偏見(先入観)なしで聴け」というタイトルも高圧的なところがあり、それもまた批評家の反感を買ってしまったのかも知れません。まあ、そういう批評家の声だけで作品の是非を決めつけるというのもいかがなものかと思いますが…。すいません、僕は完全に先入観と偏見の塊で一聴してしまったのであります。
ところがこの作品、彼の奥深さを垣間見ることのできる作品であることを徐々に知ることとなります。
シングル・カットされた「Praying For The Time」や「Freedom’90」をはじめ、スティーヴィー・ワンダーのカバー曲「They Won’t Go When I Go」(敢えてこういう曲を選択するのもジョージらしい)、さらには名曲「Heal The Pain」など、ピアノやアコースティックギターをふんだんに盛り込んだフォーク色の強い楽曲が多く、実は非常にクオリティの高い、ファンの間でもかなり評価の高い作品なのであります。だから、ジョージ・マイケルの代表作といえば「FAITH」ではなくこちらを推すファンが多いのも事実。いや、「FAITH」も素晴らしい作品なんですけどね。

この作品が発売される1年前の1989年、似たような経過を辿ることとなったアーティストがいたことをふと思い出しました。それは、テレンス・トレント・ダービー。(現在はサナンダ・マイトルーヤと改名。)
彼もまた、英国で華々しいデビューを飾り、87年に発売されたアルバムの売り上げは1,200万枚を超える大ヒット。しかし、次作では批評家による賛否両論が巻き起こり、商業的な成功を収めることができぬまま、ひっそりと表舞台から消えていくこととなりました。(今もちゃんと活動はしているんですよ。)
どちらかと言えば玄人好みといえばいいのでしょうか、この2作目を絶賛するアーティストは多く、その中にはジョージも含まれていたようです。しかも、プリンスはライブで彼の楽曲をカバーしていたとのこと、そんな不思議というか奇妙な関係があったのですね。

閑話休題。
色んな意味で転機を迎えるきっかけとなった「LISTEN WITHOUT PREJUDICE VOL. 1」の発表から25年という時間が経過、この間、SMEとの間で和解があったり、彼自身がゲイであることをカミングアウトしたり、何度か逮捕されたりと、色んなことがありました。「FAITH」に関しては発表から25周年を記念するデラックス・コレクターズ・エディションが発売されましたが、この「LISTEN WITHOUT PREJUDICE VOL.1」に関しても、同様のパッケージとなるデラックス・エディションが発売されることが決定しました。

listenwithout_gm_25th

個人的には「「LISTEN WITHOUT PREJUDICE VOL.2」との完全盤を密かに期待していたのですが、残念ながら(当然のことながら)その期待には応えて頂けませんでした。。。。
がしかし!VOL.2に収録されるはずだった幾つかの音源が、「レア・トラックス」のディスクに収録されているほか(といっても「レア」というほど「レア」でもないような気が…)、ブート盤で聴いたことのある「MTV Unplugged」が公式CD化、ボーナスディスクとして同梱されます(でも、これって96年のライブで、確か「OLDER」の発売に合わせたもの。版権の問題かも知れませんが、これは「OLDER」とパッキングされるべきでなかったのかな?)。
さらには、ドキュメンタリー映像をDVD化したものとPVを一緒にしたDVD(約70分収録)も1枚セット、CD3枚DVD1枚という内容での発売となります。

この作品を最後に一度SMEと袂を分かち、次作の「OLDER」(1996年)はVirginからの発売、そしてその後の「PATIENCE」(2004年)は再びSMEからの発売と経過を辿りますが、ソロとしてのオリジナル・アルバムは、たったこの4枚しか発表していません。更にこの「PATIENCE」に関しては、CDアルバムとしての最後の作品だと彼自身がほのめかしており、実際この作品の発表から既に12年が経ちますが、オリジナル・アルバムに関しては発売される気配が全くありません。しかし、「OLDER」にせよ「PATIENCE」にせよ、実は非常に評価が高いのであります。
その他は、ライブ・アルバムやカバー・アルバム、そしてベスト盤という構成で、オリジナル・アルバム4枚しか発表していないのに3枚組のベスト盤「Twenty Five」が発売される、なんてこともありました(「Wham!」時代からのオールタイム・ベスト)。
ファンの一人としては少々物寂しいところもありますが、今回、こういう形でまた名盤に光が当てられるのは、ちょっと嬉しいですね。