日別アーカイブ: 2016-01-26

TPM第2回写真展「記憶録」に出展して

大皿に盛られた刺身。真鯛やヒラメ、海老に本マグロなどが並ぶその底に敷き詰められた大根のツマと、刺身の間に挟まった、緑色の「ばらん」。そして、花形に切り取られた人参の上に添えられた、ワサビ…。

TSUGARU PHOTO MEETING(TPM)という写真(カメラ)好きの同好会があり、昨年からそちらに参加させてもらっています。
僕がそもそもデジイチ(一眼レフのデジタルカメラ)を手にしたのは約4年前。妹が結婚披露宴を行うことになり、その際、せっかくの晴れ姿なんだから少しいいカメラで撮影してやろうじゃないの、と思い立ったのがきっかけでした。
とはいえカメラに対する知識なんぞまるでなく、「Canon EOS kiss X50」という初心者・入門者向けの廉価版カメラの更にB級品(中古品ではなく、あくまで初期不良の整備品)を発見し、何とレンズ込み約3万円で購入。しかし、結局披露宴ではほぼ全て「オート」モードで撮影するという有様で、全く機能を使いこなすことができませんでした。
程なく、デジイチよりスマホの方が画素数が高いという逆転現象が始まりましたが、それでもなおこの4年間、ずっとX50だけで撮影してきました。僕の知識や技量では、これぐらいのカメラがちょうどいいのだと思います。
この間、ランニングクラブでの撮影頻度がどんどん増えることとなり、やがて標準装備のレンズを売却し、新しいレンズを3本購入。今のところは「沼」に足を踏み入れることなく、ここでとどまっているという状況です。

その後も、スマホで撮影した画像をInstagramに投稿してみたり、通勤途中で色んな被写体を撮影してみたりと、片手間で撮影をする機会を作っていました。

何かを伝えたいというよりも、その時その時ハッと目に留まったものを「切り取る」。そしてそれをFacebook等にアップし、反応を見る。こうして、「ただ漫然と撮る」から「構図を考えて撮る」ことを意識するようになり、撮影を楽しんでいたのですが…。

昨年の9月頃でしょうか、今回の写真展のディレクターを務めたHさんから直々にメッセージがあり、「ところで今度、写真展に出展してみない?」というお誘いを受けました。
カメラの性能もさることながら、大した技量も持たない僕が写真展に出展?いやいや、最初は軽い冗談なんだろうと聞き流していたのですが、どうやらHさんが本気で出展を求めていることに気づくまで、それほど時間はかかりませんでした。

「テーマはあってないようなものだから、何でも自由でいい」とはいうものの、さて…何をどうしたらいいんだろう。頭を悩ませつつカメラ片手に庭へと出てみます。

あ…。
雨上がりの庭は、まだ濡れていました。その中で見つけたワンシーン、何枚か撮影する中で「これは!」というのを一枚「切り取る」ことができました。いや、実は焦点を合わせるという練習をしている中で撮影されたものなんですけどね。
「黄葉の滴」

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当初は「黄葉の泪」という仮のタイトルを付したこの作品、滴の位置が中心ではなかったのですが、周りの紅葉のおかげで、たまたま引っかかっていた黄葉が光っているような感じに見えたため、出展決定第一号となりました。そしてこの作品、今だから明かしますが実はコントラストを際立たせたくて、少し赤みを強くして出展しました。

もう一枚何かないかな…と思ったときに、ハッと思いついたのが今回の作品展のタイトル「記憶録」でした。
そうか!僕だけじゃなくてみんなの「記憶」として残しておきたいものを投稿すればいいんだ!
…ふと浮かんだのは、昨年曳屋をした弘前城、弘前公園のさくら、ねぷたまつり、そして、建物の中に移動した「Memorial Dog」。
弘前城やさくらのネタは、誰か投稿しそうな気がするし(しかし実際のところ弘前城そのもののネタは皆無でした)、僕の手元には何の面白みもない画像ばかり。それに、ねぷたまつりは当たり障りのない画像しかない….。さて困ったぞ、と路頭に迷いかけたとき、春先にチョコ(ミニチュアダックスフント・♀9歳)を引き連れて、吉野町緑地公園で遊んだことを思い出しました。

チョコが車椅子のお世話になってからちょうど8年が経ちます。僕がカメラを構え、妻が僕の背後から呼ぶという作戦で撮影された一枚。多少ボケているのですが、それも僕の技量なのだと割り切るようにしました。背景にいるMemorial Dogがこの場所に戻ってくることはないようです。そういう意味でも、上半分の光景をみんなの「記憶」にとどめていただきたいという思いから出展を決意しました。(この時点で僕のテーマは、「記憶の共有」に固まりつつありました。)

チョコが元気に走ってくる姿から、タイトルは「躍動」に決定。

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ちなみにチョコが車椅子のお世話になる伏線として、とにかく飛び跳ねることが好きだった、ということが挙げられます。同じ犬種を飼われている皆さんはもちろん、他の犬種を飼われている皆さんも、飼い犬のジャンプには本当に気をつけた方がいいです。

第2回の写真展が開催されるに当たり、今回お手軽なスマホ部門も新設されたというので、そちらにも出展してみることにしました。お手軽といっても、最近のスマホの性能は侮れません。画素数でいえば、イチデジよりスマホの方が能力は上ですから。ということでスマホからの一枚は、こちらもMemorial Dogと一緒に撮影されたハナ(雑種・♀16歳)の写真。朝の散歩の時に、スマホ片手、散歩紐片手に撮影したもの。

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同じ方向を見ていて、まるで何か指示を受けてその方向を向いたようにも見えたので、「先輩と私」というタイトルにしました。これも今となっては撮影することのできない一枚です。いや、ハナがいなくなったんじゃなくて、Memorial Dogがここにいない、ということで。そういう意味ではご覧になられた皆さんの「記憶」にとどめていただくことができるのではないか、と。

もう一枚スマホ画像を出展しようと思っていたのですが、実は悩みました。「黄葉の滴」を撮影した同じ日に撮影した「落葉サラダ」という作品を出展しようと思い、ずっとそのつもりでいたところ、実際に印刷してみてふと気づきました。

地味すぎて画に華がない!
だったらもう少し奇をてらった作品の方が面白いな…と考えたところで思いついたのが、ランニングクラブのみんなで岩木山神社までの長距離ランを行った際に撮影した、シューズの輪。これならクラブの皆さんに対する写真展の宣伝にもうまく使えそうだし、何よりもこの時岩木山神社まで走ったことがみんなの「記憶」として蘇ります。そしてきっと、会場に足を運んでくれる仲間も喜ぶはず!と考え、差し替えることにしました。タイトルは「The Circle of Friendship」、要するに「友だちの輪」ですね。

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出すと決めた以上は腹をくくろう。ということで、一般部門2枚とスマホ部門2枚に出展。
…そしていよいよ、1月21日から4日間、弘前市百石町展示館での展示が始まりました。

TSUGARU PHOTO MEETING 第2回写真展「記憶録」

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平日の日中は青森市での勤務、土曜日午前は違うカメラのお世話にならなければならないというやむを得ない事情(ピロリ菌と胃がん検診のため、胃カメラを挿入していました)で、結局会場に足を運ぶことができたのは23日の夕方でした。玄関をくぐると、TPM代表のNさんが出迎えてくれました。そしてまず目に飛び込んできたのは、スマホ部門の写真。おっ!あるじゃないですか、それも2枚並んでる!

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しかし、スマホ部門を過ぎて現れる1階に飾られた一般部門の写真の一つ一つがとてつもなく美しくかつ荘厳で、未だに見ることのできない自分の作品(その時点で2階にあることだけは確信しました)が、どれだけショボいかは想像に難くない状況に…。穴があったら入りたい、とはまさにこのことをいうのでしょうか。
恐る恐る階段を登り2階へと進むと、僕を誘ってくれたHさんがいました。自分の作品がどこにあるかは別として、まずは皆さんの作品を一つ一つゆっくり眺めていきます。
何なんだ、この圧倒的な迫力は…。

そして左手に進み、壁伝いに作品を眺めていたところで、見つけましたよ僕の作品を…。

が、柱の角に頭を打ち付けた直後にテーブルの脚に脛をぶつける、みたいな衝撃。
ああっ!ホント恥ずかしい!今すぐここから自分の画像だけ剥がして「ごめんなさい!」って叫んで持ち帰りたいぐらいの気分でした。

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冒頭での刺身の大皿の話、例えていうならば僕の作品は「ばらん」。ヒラメと本マグロの間に挟まれた、言わば喰うに値しないワンクッション、みたいな…。

他のブースでは皆さん足を止めて真剣に画像に見入っているのですが、我々のブース(弘前公園RCのメンバーの画像が3人×2作品並んでいたのです)では、ほとんど誰も足を止めることもなく、ほぼ素通り….。

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まあ、それだけ皆さんの心には響かなかった、ということなのでしょうか。妙に虚しかったけれど、それを打ち消すほどの技量があるわけでもないし。(でも、それは僕の大いなる勘違いだったんですよね。そしてそのことに、翌日気づくことに…。)

やりきれない気持ちを抱えたまま再び1階に足を運び、気になった画像をじっくりと眺めていると、撮影されたSさん(初対面でした)が話しかけて下さいました。どういう撮影シチュエーションだったのか、どんな加工を施したのか、色々お話を聞きながら、なるほどただそのシーンを切り取るだけでもダメなのだな、と思ったのでした。

その後TPMのメンバーによる懇談会にも参加しましたが、「人見知りと変態の集まり」を標榜するだけあって、まあ個性的な方が多いこと多いこと。
でも、色んな話を聞くことができたし、何よりも、思わず落涙してしまうような本当に凄い出会いがあり(この話はまた日を改めて投稿します)、懇親会に行って良かったなあ、何だかんだ言っても出展して良かったなあ、と心の底から思ったのでした。

最終日は自分の用事を諸々済ませ、16時前に展示館に足を運びました。この日は、出展した仲間3人で集合写真を撮影してもらおうという話になっていて、会場を訪れたところ、日曜日の午後とあってか前日とはお客さんの数が全然違っていました。

しかし、相変わらず我々のブースは「通過点」になっていました。

…が、よく見ていると何人かの方が足を止めて僕の撮影した画像を凝視しています。それも、圧倒的に女性が多い。さて、何を見ているんだろうと思ったら気づきました。チョコの車椅子をじーっと見ているんですね。

「その車椅子、2万円ちょっとしたんですよ…。」

居ても立ってもいられなくなり思わずそう話しかけると、振り返った女性の方が僕の話に乗ってきました。
「このワンちゃん、今も車椅子なんですか?」「ええ、もう8年ぐらい車椅子ですけどね。」
で、車椅子のお世話になることとなった経緯をお話しすると、ハッと目を見開き、「あっ!うちの子も…」と驚きます。
「ワンちゃんのジャンプするクセ、気をつけた方がいいと思いますよ、本当に。この子みたいにならないようにするためにも、是非気をつけてください。」

「ありがとうございます。」

…そうか、皆さんが素通りするのは、この画像から伝えたいと思った背景が、撮影者本人の口からちゃんと伝わっていないからなのか。今回全く在廊せずに、他のメンバーの方々のお世話になりっぱなしだったのですが、少しでも在廊して撮影の経緯等をお話しするだけでも、きっと足を運んでくださった皆さんの心のどこかに、この画像を記憶として留めてもらえたのかも知れないなあ、と反省したのでした。

親子連れ
(実際、ご覧になっている方もおられたわけで。Fさんから頂きました。一部加工)

その後、同世代3人(というかランの仲間)揃い踏みで、集合写真を撮影。(「アスリート横綱三人衆」として紹介して頂きましたが、私はせいぜい露払いといったところです、ハイ。しかも、妙に腰が浮いています。)

ちなみに、各人の頭上にある2作品が、それぞれ出展した作品です。ディレクターのHさんには「新しい風を吹き込んだ」とお褒めの言葉を頂きましたが、本人たちの心中やいかに?(3人ともに「勉強になりました…」という言葉が出てきました。)

そろい踏み

そしてこの日、スタッフとしてお手伝いされていた他のメンバーの方々から、撮影に係る裏話や撮影のテクニックなどを色々聞かせていただきました。本当は18時までいたかったところでしたが、別件があったためスタッフの皆さんにお礼を伝えながら、17時過ぎに会場を後にしました。
これが今回初めて写真展に出展した経緯と経過と結果です。

さて、ボツになった(ボツにした)画像が何枚かありまして、せっかくなのでそちらもご紹介したいと思います。いずれもFacebookでは既出のものばかりですが。

(1)碧いタナバタ

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7月の沖縄で撮影した一枚。青い海が眺望できるホテルのロビーに、七夕の笹の葉と短冊が飾られていました。
でも、時期や場所のことを考慮したときに、ここから振り返ることができる「記憶」は僕にしかないな、と思いボツに。

(2)落葉サラダ

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自宅の庭でスマホで撮影した一枚です。画像を一見するとカラフルで面白いなあ、と思っていたのですが、実際に印刷してみたらまあ、地味なこと地味なこと…。多分、下地の緑の色が深すぎたんでしょうね。残念。

(3)鏡

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こちらもスマホで撮影。青森ベイブリッジの橋脚が水たまりに映っていたところを捉えた一枚です。が、何かこれもありきたりというか、響くものがなかった。もう少し水たまりが大きければ…と思いましたが、ボツ。

(4)さくら色の朝

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独り朝練の際に撮影した、弘前公園での一コマ。これを撮影したくて早朝4時に起床、4時30分に練習がてら弘前公園まで走っていったことを「記憶」しています。さくらの写真は前の展示会でのネタだったなあ、と思い、出展をやめました。

(5)Dive into The Sky

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深さ10センチの水遊び場に「NO DIVING(ダイビング禁止)」の文字。でも、水面に映る雲を見ていたら、空にでも飛び込みたくなるよね?と思った一枚は、7月の沖縄で撮影しました。最後まで候補にしていましたが、悩んだ挙げ句こちらも旗を降ろしました。

僕が持っているカメラは、前述のとおり古いし全然大したことのないカメラです。レンズも安物です。いいレンズや高性能の本体、装備があれば、それはそれで素晴らしい作品を生み出すことができることでしょう。(ハッキリ言ってこれ、半分嫉みです。)

…でも、本当にそうなのだろうか、という疑問も湧いてきました。

安価で性能が劣るようなカメラから、思わず息を飲むような画像、色んな人の心を揺さぶるような画像を撮影することができたら、それはそれでどんなに嬉しいことだろう…。今回出展してみて思ったこと、感じたことは、そんなところです。
今回、初めてお目にかかったメンバーの方々から色々なお話しを聞かせていただく中で、機材に頼らなくともいろんな技があることも知りました。今のところカメラに没頭するつもりはありませんが、もっともっと技量を高めないと、次の出展は恥ずかしくてできないと思いました。

ということで次の機会があれば、大皿に盛られた刺身のヒラメや本マグロを目指すのではなく、敢えて「刺身醤油」を狙いたいと思います。その心は、「うまい刺身の引き立て役」。ちなみに大皿は、今回の写真展そのものです。…って、写真展の皿から外れてるじゃん。ダメじゃん。

今回の出展に当たり、懇切丁寧にアドバイスをくださったHさんをはじめTPMのメンバーの皆さん、そして御来場いただいた皆さんに重ねてお礼申し上げます。

こういうきっかけを与えてくださって、本当に本当にありがとうございました。

最後に、「冗談かと思いました」という僕の言葉に対する、Hディレクターからの一言が胸に響いたので紹介します。

本気でやってる人はいつでも本気で言っている。」

(E)na