彼女は、派手な色の衣装が好きだった。
どこで売っているのかもわからないような、赤や黄色そして緑といった派手な色の衣装を、季節に合わせて衣替えをするのが大好きだった。でも、なぜか彼女はいつも同じ色の衣装を身に纏っていた。
…僕は、そんな彼女のことが好きだった。
秋も深まったある日のこと。彼女がぽつりと呟いた。
「もういい加減、この衣装にも飽きてきたわね。というかこの色、私には似合わないわよね…。」
その頃の彼女は、くすんだ赤色の衣装を身に纏うようになっていた。お世辞にも年相応とは言えないような、どこかどんよりとした色の衣装だった。
「…そ、そんなことないよ。似合っているよ。」
僕は慌てふためきつつも、苦し紛れに言った。
「ふふ…。自分でもわかってるから、いいのよ。気を遣わなくても。」
冷たい秋風の吹く中、彼女はそっと僕に微笑んだ。
翌週は台風がやってきたり、かと思えば初雪が降ったりと、散々な天気だった。彼女に会う時間も作れぬまま、イライラが募るばかりだった。
ようやく時間を作って彼女に会いに行くと、なぜか彼女は全裸で僕を迎えた。
一糸まとわぬその身体に目を向けると、年齢よりもずっと老けこんでいて、全身に皺が寄っていた。何となくたるんでいるような、そして色白というよりはむしろ、どす黒いような感じだった。
目のやり場に困った僕は、ただただ彼女から目を背けるしかなかった。
「やめろ!頼むから何か身に纏ってくれ!見ているこっちが恥ずかしいじゃないか。」
「あら、別にいいじゃない。私に似合う衣装なんて、もうないんだから。身体だってどす黒くてしわしわで、誰も見向きなんてしてくれない。だったら、裸になろうが何だろうが、あなたにも誰にも関係ないじゃない!」
吐き捨てるように言い放つ彼女。
「いや、でも…。」
困惑する僕に対し、彼女は次の言葉を制するようにピシャリと言い放った。
「うるさいわね!…でも、ありがとうね。今に見てて!私、貴方かビックリするぐらい美しくなってみせるから。ダイエットもするし、ひょっとしたら整形だってするかも知れない。…とにかく絶対に、貴方の、いや、みんなの注目を浴びるような姿に生まれ変わるわ!だから…だから、しばらく会うのはやめましょう…。」
その日から、彼女と会うことをやめた。
…その年の冬はとても寒く、雪が多かった。雪が降るたびに、全裸の彼女のことを思い出した。
彼女のことは結局、一度たりとも忘れることができなかった。でも、いつかまた再会できるという、確信めいたものが僕の中でずっと燻っていた。
…そんな彼女と再会したのは、4月末のことだった。
「あら、お久しぶりね。」
…その姿に僕は、思わず息を飲んだ。
彼女は、醜い全裸を晒していた晩秋の姿とは、まったく異なる姿に生まれ変わっていた。
淡いピンク色の衣装を纏い、僕だけではなく、そばを通る人たち皆が、驚嘆の声を上げていた。
「何と美しい…。」「綺麗ね…。」
彼女の名は、「さくら」。
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来春も弘前公園に行くと、冬期間の剪定を経て、美しい花を誇らしげに身に纏う「彼女」たちと出会うことができます。
春が来るのが待ち遠しい。