日別アーカイブ: 2016-03-24

DEBUT AGAIN / 大滝詠一


予約注文してまだ届いていないアルバムの音源が、そのアルバムを聴く前なのにラジオなどで流れた時、無性に腹が立ちませんか。…あ、僕だけですかね。
先日、たまたま車中でラジオを聴いていたら、大滝詠一さんが唄う「熱き心に」が流れまして、思わずラジオを消したという…。

2013年12月、今年ももうすぐ終わるよ、という時期に流れた大滝さんの訃報に、少なからぬ衝撃を受けたのは僕だけではないはず。
その後、追悼の名のもとに何らかのリリース・ラッシュが続くことは容易に想像できたけれど、思ったほどではありませんでした。没後1年を迎える直前に発表されたベスト盤(ご本人の構想のほか、ご遺族の意向もあったそうです)、40周年を記念した作品のリマスター盤。まあ、そうだよね、とは思っていましたが、ひょっとしたら…と淡い期待を抱いていたこんなアルバムが本当に発売されるとは思ってもみませんでした。

大滝詠一、奇跡のニューアルバム「DEBUT AGAIN」の発売が決定!

32年ぶりのニューアルバムには、松田聖子に提供した「風立ちぬ」や小林旭に提供した「熱き心に」、薬師丸ひろ子への「探偵物語」等、他者への提供曲、プロデュース作品を大滝自身が歌唱したバージョンを収録。
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端的に言えば、「セルフ・カバー」アルバムということなのでしょうけれど、ご本人は生前、この「セルフ・カバー」だけは絶対に出したくないと、盟友でもある山下達郎さんのラジオで話していたらしく、何でこういった音源(それも仮歌ではなくちゃんとスタジオで録音した音源)が残っていたのかは、謎らしいです。
まあそれでも、こうやって日の目を見ることが、ご本人にとっては非常に不本意なことなのかも知れませんが、聴き手側からするととてもありがたいことだな、と思った次第です。
ちなみにどれもこれも一度は耳にしたことがある曲ばかり、それも歌謡曲からアイドル、更にはアニメ主題歌までと非常に幅広いジャンルを網羅しており、そういう点では、こんな言葉で表現するのがホント失礼かも知れませんが、大滝さんはまさに「時代の寵児」だったのでしょう。
通常盤は以下の10曲が収録。( )内は、オリジナルを唄ったアーティスト。
1 熱き心に(小林旭)
2 うれしい予感(渡辺満里奈)
3 快盗ルビイ(小泉今日子)
4 星空のサーカス(RATS & STAR)
5 Tシャツに口紅(RATS & STAR)
6 探偵物語(薬師丸ひろ子)
7 すこしだけ やさしく(薬師丸ひろ子)
8 夏のリビエラ ~Summer Night in Riviera~(森進一)
9 風立ちぬ(松田聖子)
10 夢で逢えたら(Strings Mix)(吉田美奈子など)

初回限定盤は2枚組で、DISC 2には以下の4曲を収録。こちらは洋楽カバーがメインとなっています。
1 私の天竺
2 陽気に行こうぜ~恋にしびれて(2015 村松2世登場! version)
3 Tall Tall Trees ~ Nothing Can Stop Me
4 針切じいさんのロケン・ロール(植木等)

ボーナスディスクも含めると収録時間は約1時間1分ですが、もの凄く聴き応えがあります。
ボーナスディスクに収録された「陽気に行こうぜ~恋にしびれて(2015 村松2世登場! version)」は、以前このブログでも紹介した「佐橋佳幸の仕事 1983‐2015 Time Passes On」に収録されているものと同じ音源なのですが、こちらはなぜか冒頭の語りがカットされています。(差別化を図ろうとしたのであれば、あまり意味がないような気も。ちなみに村松2世というのは、佐橋さんのことを指すらしいです。)
個人的には一人アカペラというか一人ドゥワップというか、まさにRATS & STARの真骨頂を単独で行っている「星空のサーカス」がかなりのツボでした。

そうそう、この手のアルバムに関しては、デジタル音源のみを購入するのは絶対に止めた方がいいです。
なぜなら、CDジャケットの内側に書かれているライナーノーツに、色んな裏話的な内容が掲載されていることが多いからです。そしてこの作品についても、音源の発掘に至った経緯や、どういうプロセスでこれらの楽曲が制作されたのかが掲載されています。これを読むだけでも楽しいです。
ほとんど表舞台に出ることもなかったため、とりわけ晩年に至っては一体どんな活動を行っていたのか、謎に包まれたままではありますが、特に私と同世代ぐらいの方であれば(好き嫌いは別として)大滝詠一の名前を知らない人はいないと思いますし、一度や二度は絶対に彼が手がけた作品を耳にしているはず。下世話な言い方になりますが、彼の懐の深さを知るには、最適な作品だと思いました。

もっとも、前述のとおりこれらの作品については、ご本人が存命の間は絶対に発表されることはなかったと思います。なぜなら、その存在すらを否定していたからです。でも、裏を返せばこういった音源が「遺作」として発掘されることは、ご本人の中では織り込み済みだったのかも知れません。
これまで発表されている作品はどれも緻密で計算され尽くしたものばかり。そういった点からみれば、(楽曲の粗さやボーカルの不安定さなどといった点で)この作品に対する古くからのファンの評価がハッキリと二分されるのも、何となく分かるような気がします。(あれも聴きたい、実はもっと作品があるんじゃないかという、ファンの穿った見方も理解できます。)
実のところ僕自身はそんなに大滝詠一作品に対する思い入れがあるわけではないので、音楽史を振り返るという客観的な視点に立ってみると、これは充分「アリ」な作品集(アーカイブ)だと思うんですけどね…。