日別アーカイブ: 2018-07-10

JOY-POPS 35th Anniversary Tour ”Wrecking Ball” @青森QUATER #joypops #thestreetsliders

【注意:ネタばれあります。】

心地よい脱力感。
ライブを観た後に骨を抜かれたような気分になったのは、久し振りだった。

80年代、空前のバンドブームの中でも孤高の存在として異彩を放ち続けたThe Street Sliders(以下「スライダーズ」という)。
2000年の解散以降、4人のメンバーはそれぞれ活動していたが、ボーカルとギターを担当していた村越弘明(ハリー)の公式サイトで発表された内容を見て、自分の目を疑った。
スライダーズのデビュー35周年として、フロントマンだった村越と土屋公平(蘭丸)によるユニットJOY-POPSが全国ツアーを行うというのだ。
しかも、ツアーの最終日が青森公演だった。

スライダーズを観たのは25年以上前に青森市で1度きり。
ハリーを観たのは、Epicソニー25周年の記念ライブで、ギター片手にステージに現れた時のみ。

しかも、スライダーズを観た青森市でのライブは、身体も心もふわふわと浮ついていて、情けない話だけれどハリーがライブの冒頭で「ハロゥ」と叫んだことしか覚えていないのだ。(以前投稿した「JOY-POPSのこと」で、当時のことに少し触れています。)

それはともかく、あの日の苦々しい思い出を自分の中で精算するためにも、このライブだけは何が何でも絶対に行かなければならない。
身震いするような気持ちで、公式サイトからの先行予約に申込んだ。

ちなみに、公式サイトにはツアーの日程とともに次の英文が掲載されていた。

One Night Only GIG!! There is no next time to miss.

二人が揃ってステージに立つのは18年ぶりだそうだ。
ひょっとしたら英文のとおり、彼ら2人がステージに揃うのは最初で最後なのかも知れない。
そんな伝説のライブを目の当たりにできるのだと思ったら、今度は心が震えるような気分になった。

2018年7月8日。
青森駅から会場の青森QUATERまでは徒歩だと10分以上かかる。弘前からの電車が到着したのは16時19分なので、開場の時刻である16時30分に間に合うかどうか、といったところだった。結局、青森駅から猛ダッシュし、開場5分前というギリギリに会場に到着。既に入場を待つたくさんの人が列をなしていた。ざっと客層を見た感じでは、ほぼ自分と同世代の男女が大半を占めている感じだが、その中に混じって若年層の姿も見受けられた。

会場に入り、センターからやや左側に陣取る。前から5~6列目といったところだろうか、ステージの視界は概ね良好だ。
ステージを凝視すると、2本のスタンドマイクとともに、蘭丸の使用するギターが所狭しと並んでいる。
この日の会場は350人の満員で、チケットはソールドアウト。先に入った観客に対してもっと前に詰めて欲しいというアナウンスが2度3度と繰り返される。
17時過ぎ、観客のボルテージも一気に上がったところに、いよいよ両名が登場。黄色い声と野太い声が飛び交う。

ステージ上のハリーは終始穏やかな表情で、時折笑顔すら窺える。薄黒のサングラスをかけた蘭丸は、一見すると無表情だけれど、ハリーに目を配り、時折会場に目を向け、笑みを浮かべる。

そして、二人が繰り広げるステージはまさに阿吽の呼吸。圧巻という言葉がピッタリだった。

新旧織り交ぜた…というよりも、既にスライダーズが解散してから20年近く経っているので、古い曲しかないといえばそれまでだが、デビューから解散までのスライダーズナンバーがてんこ盛り。もちろんJOY-POPSのナンバーも。これでもかと言わんばかりに2本のギターが観客を煽る。

ハイライトは、いきなりやってきた。二人が手にしていたアコースティックギターからそれぞれテレキャスとSGに持ち替えて始まった大音量での「カメレオン」。一気に会場の空気が変わった。

そしてもう一つのハイライトは、それぞれが作ったという新曲「新しい風」(ハリー作)、「デルタのスー」(蘭丸作)。
どっちもめちゃめちゃ格好いいんですけど!!

それにしても不思議だったのは、ベースもドラムも不在の中、2人のギターがリズムやビートを刻みながらしっかりとグルーブ感を生み出し、我々観客を踊り狂わせていることだった。僕は楽器演奏は全くできないけれど、ギターだけでこういう音を出せるのは、2人だからこそ為せる業なんだろうな、と感動した。
昔からの曲、アレンジを変えた曲、未発表の曲、新曲、どれを切り取ってみても「過去のスライダーズ」ではなく、「現在のJOY-POPS」の音だった。

ハリーは年が明けると還暦を迎え、蘭丸ももうすぐ58歳。齢を重ねるとともに人間は丸くなるというけれど、この日のステージ上の二人は、少なくとも僕が知っているスライダーズ時代のイメージからは遠くかけ離れ、いい意味で丸くなっていて、何かを達観したような円熟味を増した穏やかな表情だった。

そのことが、かつて感じた殺伐とした雰囲気を一切取り払い、過去の彼らには似つかわしい言葉ではないのかも知れないけれど、愛に満ちた温かい雰囲気に満ちあふれていた。

個人的には恐らく初めて耳にする彼らのMC。
観客大歓声。
ハリーって、こんなに喋るんだ…。蘭丸って、こんなにお茶目なんだ…。

曲間の観客からの声援に、ちょっとはにかみながら応えるハリーと蘭丸。

ハリーが語る二人の馴れ初め。79年、俺は20歳で公平は19歳。二人でセッションとか曲作りとかしてたんだけど、年を重ねてこんな風になりました。(会場笑いと拍手)
蘭丸が語るツアーの経緯。2~3年前にハリーから蘭丸に電話が来たのがきっかけ。おお、ハリーじゃん。スゲエ。と連絡を取ったのがきっかけで、どんどん話が進んでこのツアーに繋がったんだ。LINEじゃなくて、携帯電話だぜ。格好いいだろう?(確かにクールだと思った。)

ハリー作の新曲の紹介は蘭丸から。ハリーに「新曲作らない?作ってよ。」「…うーん」というやり取りがあった後、しっかりと曲を完成させてきたというエピソード。
続いて蘭丸作の新曲はハリーから。「そんな公平は、俺よりとっくの昔に新曲を作ってきたんだぜ。みんな聴きたいでしょ?」
蘭丸「聴きたいでしょ、って。笑」
ハリー「…聴きたいだろ?」

アンコールのMCでは、蘭丸とハリーがツアーグッズ(Tシャツとマフラー)を紹介するという光景が。
蘭丸「このTシャツ、いいだろう。スタンドマイクに絡む、ハリーとジェームス!…あ、俺か。(会場大笑い)…おっと、ハリー!それは何だい?」
ハリー「マフラータオル、結構いいよ。帰りに一人1本、どう?スカーフだとちょっと暑いけどね。」
…と蘭丸から無茶ぶりをされたハリーが、観客にマフラータオルを紹介。
その直後、蘭丸がハリーに「無茶ぶりしてごめん。」と謝り、会場から更に笑いが起こる。
こういったやり取りだけでも、どれだけ会場がハートフルな雰囲気だったかおわかり頂けるんじゃないかな。

いよいよアンコール最後の演奏も終わり、二人がステージ前に立ち、ともに手を上げた瞬間、涙が溢れてきた。そしてそれは、僕だけじゃなかった。僕の近くにいた男性も女性も、みんな涙を拭いていた。

二人は、そんな観客席をずっと眺めながら笑顔を浮かべていた。

始まりがあれば終わりがあるのは当然のこと。
ライブが終わってしまうのは寂しいけれど、それ以上にただ、感謝しかなかった。
この場に居合わせ、凄いものを目の当たりにしたことへの感謝。

青森に来てくれて、ありがとう。
二人で来てくれて、ありがとう。
伝説のライブを、ありがとう。
最高のライブを、ありがとう。

何度もありがとう、と呟きながら、そっと涙を拭う。
それはまるで、25年以上前のあの日に観たスライダーズのライブで抱えた、居心地の悪さを全て払拭するかのように。

帰りの電車に間に合わないからと会場を後にし、ハリーが勧めていたマフラータオルの購入を諦め、青森駅へと急いだ。
しかし、1,500円のマフラータオルを購入せずに帰路に就いたことを、電車が動き始めてすぐに後悔した。
帰りの電車はその後もまだ何本かあったけれど、二人に会えるのは今回が最後かも知れないのに。

丸一日経ってもなお、とにかく凄いライブだった、圧巻のライブだった、という感想しか出てこない。
正味約2時間、二人が奏でるグルーブに漂いながら、あの空間にいられたことが何だか夢みたいな感じ。
伝説のライブが観られる、と期待して足を運んだが、期待を遙かに上回る内容で、放心状態に近い。
本当に凄いものを観てしまったという、まさに脱力感。

…と同時に、否応なしに幾つかの期待を抱かざるを得なかった。

彼らの歌詞には「道」という言葉がたくさん出てくるし、ライブでもそんな楽曲が数多く披露された。
これまで歩んできた35年の道、一度はバラバラの道を辿りながら、今こうしてまた一つの道を二人で歩いていることが、妙に感慨深かった。
だからこそこの先、4人が再び同じ道を歩むことを勝手に期待したい。それはつまりスライダーズの再結成を意味するのだけれど…。

もう一つは、今回演奏した新曲(と有名な未発表曲)の正式発表(→CD化なり、デジタル音源なり)。
往年のスライダーズファンはもちろん、新しいファン層が食いついてくるんじゃないか、それぐらい素晴らしい楽曲だった。
更にもう一つ、ツアーの模様の作品化。DVDでもライブCDでもいい、足を運べなかったスライダーズファンの人たちにもこのライブを共有して欲しい、素直にそう思った。

これから追加公演、更には夏フェスへの参加が予定されているとのこと。秋のビルボード含め、既にチケットもソールドアウトになっているみたいですが、足を運べる機会があれば、フェスでも何でもいいので是非あの圧巻のステージを体感して欲しいものです。(敬称略)