月別アーカイブ: 2019年6月

Prince / ORIGINALS #prince

門外不出だとばかり思っていた、奇跡の作品集が発売された。Princeの好き嫌いは昔ほどではないにせよ顕著に現れるが、え?これもPrince作った作品なの?という新たな再評価に繋がる可能性も孕んでいるぞ。

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ということで、本日はそんなPrinceの新作に関するレビュー、いや、レビューはその筋の皆さんにお任せして、個人的な所感。

ちなみにこの作品、発売前から試聴会が行われていたし、噂では、リークされた音源が発売前にネット上で出回ったりしたらしい?が、蓋を開けるとMadonnaの新作「MADAME X」よりも売れている、とか。さらに、このタイミングでStingやBruce Springsteenといった、80年代のヒットチャートを賑わせたアーティストが相次いで新作を発表したことも、ちょっと嬉しいのだ。

振り返ってみると、正規のものではない未発表の作品が「海賊盤」として市場に出回っていることを知ったのも、「お蔵入り」という言葉を何となく使うようになったのも、昭和が幕を閉じようとしていた頃で、全てはPrinceがきっかけだった。
実際、ブート盤の聖地と言われた西新宿の小さなレコード店を巡ってみたり、実際に非正規のよろしくない作品を購入してみたり。そういえば、通信販売で購入した初めてかつ唯一の海賊盤は、雑誌「rockin’on」に広告が掲載されていた「Black Album」だった。

5000円前後で購入しただろうか。送られてきた商品を見て、息を呑んだ。

ペイズリーパークのエンボス模様か不規則に打刻された真っ黒なジャケット。
黒く塗られたディスクには、明朝体の文字をワープロで打ち込んだようなオレンジ色の文字が打たれていた。Made in GERMANY、そしてなぜかWarner Recordsの文字。確か、品番も書かれていた記憶がある。そして、For Promotional Use Onlyだったかは忘れたが、わざわざ油性マジックで見え消しされる手の込みようだった。
その後も、レコードでしか世に出ていない12インチの音源をCDにまとめたものや、スタジオで録音されたと思しきデモ音源をメインとした数種類の海賊盤を購入したが、作品によって当たり外れのムラが大きく、ほとんど興味が沸かなくなってしまった。

Prince自らがネット上で未発表曲の配信を開始したり、海賊盤そのものへの批判が高まるようになったのも、その要因だったかも知れない。本人が旅立ってから、数多あると言われる未発表曲の行方に注目が集まった。

考えてみると、その後に未発表曲がベスト盤に収録されたり、廃盤となった作品が再発されたりしてきたが、他者への提供曲がアルバムという形でまとめられて世に出されたのは、本作が初めてということになる。

既に海賊盤で出回っていた曲があったのかも知れないが、少なくとも僕は、ほぼ全ての楽曲を今回初めて耳にした。
多分本人が存命であれば、きっとこういった作品が日の目を見ることはなかっただろう。
THE TIME, SHEILA E., Mazaratiといったペイズリー・パークレーベルのアーティストをはじめ、もっともPrinceらしさが影を潜めていると個人的には思っている、THE BANGLESへの提供曲まで収録されている。
他アーティストへ提供した楽曲のセルフカバー、という位置付けとも取れるが、むしろデモ音源をマスタリングしたもの、と考えた方が良いのだろうか。


(ジャケットと同じデザインのポストカードが同梱されていた)

いずれにせよ、こういう未発表曲に光が当たることはファンとして嬉しいけれど、しつこいようだが本人が存命だったら、こんな作品を発表することはあっただろうか、いや、多分なかっただろうな…と考えると、ちょっと複雑な気持ちになる。

実のところ、他人へ提供した他の楽曲は、既に海賊盤で聴いたことがあるし、今回収録されたものとバージョン違い(ボーカルが違う、など)も聴いている。日本人で唯一プロデュースされた、青森県出身の女性ボーカリストへの提供曲のデモ音源も聴いたことがある。

だから、最初にこの作品を聴いたときに、何だかそんな海賊盤を聴いているような居心地の悪さ、申し訳なさみたいなものを感じてしまった。
もちろん、この作品自体はとても貴重な内容であり、Princeの歴史の一端を探ることのできるものだということは全く否定の余地がない。
しかし、こういう作品を聴いてしまったがために、申し訳なさと同時に次なる疑問と期待が渦巻いてしまったのだ。

つまり、こういうことだ。
彼が(変名で)プロデュースしたTHE TIMEの曲が2曲収録されているが、それって2曲にとどまらないよね。多分、全ての楽曲において、Princeバージョンが存在するのでは、ということだ。そしてそれは、他のアーティスト然り。

更に、前述のとおり他のアーティストへの提供曲が海賊盤で出回っていたということは…ねえ。
そう思ったら、ひょっとしたらこれから更に世に出てくるかも知れないPrinceの楽曲に、どんな期待をしたらいいのだろうか、と考えてしまった。

いっそのこと、「Crystal Ball」のような、コンセプトも何もない、雑多なんだけれど何だか凄い!という作品が出ることを期待すれば良いのだろうか。今回の「ORIGINALS」の続編、更にはデラックス盤なんていうことにはあまり期待しないようにしよう。

事実、廃盤となってしまった作品を再発するだけでも、我々ファンにとっては事件なのだから。

ジョンガリアンの憂鬱 -平川市・たけのこマラソン-

自分の中ではあまり意識したことがないのだが、僕は脚だけが異常に発達しているらしい。

「脚だけ見ると…速そうだねえ。」と言われたこと、数度。「脚、凄いっすね!」と言われたこと、数度。
周囲に言わせると、大腿部からふくらはぎにかけての筋肉が隆々としていて、もの凄い健脚の持ち主のように見える、のだそうだ。
ただし、「ように見える」だけなので、凄い健脚の持ち主ではないことだけは断言しておこう。

平川市碇ヶ関で行われた「たけのこマラソン」。
前日までの雨は未明までに上がり、涼しくも多少蒸し暑い大会当日を迎えた。例年この大会は暑い、といった印象が強いけれど、今年は例年に比べるとまだ走りやすそうな気がした。

それまではハーフマラソンにエントリーしていたが、昨年から10kmにエントリーするようになった。

このコースを走り終えた(翌日ではなく)翌々日からの筋肉痛や疲労度がハンパではなく、しばらく尾を引くこと、なぜか大会の前後にケガをすることが多いことなどがその理由だった。

もっとも、昨年はケガで走ることができなかった。だから、今回がこの大会での10km初挑戦ということになった。

何となくコースはわかっていたが、10kmを侮るなかれ。
一番の問題は、自分自身のモチベーションが全く上がっていなかったこと。
「ケガをしないためにも、無理しない」という言い訳を、走る前から何度も反芻する。

設定タイムは、45分。前半は抑えて3kmまでの上りに耐え、そこからしばらく続く下りで加速、勢いのまま残り3kmの上り下りをやり過ごす、というプラン。

9時40分、10㎞がスタート。4分半のイーブンペースが理想だけれど、コースのアップダウンを鑑みるとそんなにうまく行くはずがない。

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山下達郎というジャンルの音楽

「こんばんは青森!1年振りの青森、どうぞよろしく!」

2019年6月16日、青森市にあるリンクステーションホール青森(青森市文化会館)で開催された山下達郎のライブに足を運んだ。

実は1年振りじゃなくて2年振りなんだよなあ…なんてことを思いながら、結局ドップリと3時間以上、彼の音楽に浸った。

サザンオールスターズの札幌公演からわずか1週間後。

二つの音楽的なジャンルは異なるし、ノリも規模も全然違うが、どちらも日本国内のエンターテイメントの最高峰だと僕は勝手に思っている。その両巨頭のライブを立て続けに鑑賞するということで、果たして自分の中での気持ちの切り替えができるものなのかと思っていたが、いざ始まってみると全く違和感なくコンサートの雰囲気に溶け込むことができた。

ここ数年、達郎氏のライブにはなるべく足を運ぶようにしている。青森市の会場は毎回リンクステーションホール(青森市文化会館)だが、会場の規模や音響も気に入っているようで、かつては2日間続けて公演を行ったこともあった。あの青森で、だ。

しかし冒頭で触れたとおり、毎年のようにコンサートツアーを開催している中、昨年は青森県内での開催がなかったため、仙台に足を運ぶこととなった。

今年のツアーは6月6日の千葉県市川市を皮切りに5か月間、26都市50本の長丁場となる予定だったが、キーボードの難波弘之氏が病気療養に専念した結果、6日の市川市と10日の宇都宮市での公演が延期となった。結果、14日の盛岡市での公演がツアー初日となり、青森市での開催はツアー2本目となった。大瀧詠一さんの生まれ故郷である岩手県から始まったというのも、何だか因縁めいている。そういえば、声が出なくなって途中で公演を中止、延期したのも盛岡だった。

さて、2本目の青森公演は、ある意味肩慣らしみたいなものだろうか。肝心の難波さんは大丈夫なのだろうか。齢を重ねたことを言い訳にして、例年より短めで済ませてしまうんじゃないだろうか。
結局そんなこちらのアホみたいな邪推を嘲笑うかのように、いつも通りパワフルなステージを繰り広げた。
全幅の信頼を寄せているであろうバンドメンバーの安定感たるや、もう…。

そういう意味では、誰よりも浮き足立って見えたのがご本人だった、とも言えるかも知れない。

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サザンの翌日は、ノーザン。 #ノーザンホースパーク

サザンオールスターズの札幌公演翌日。
この日は、市内で開催されていたYOSAKOIソーランの最終日だった。全国各地からやって来た方々の迫力ある演舞を観覧するというのもこの時期でなければできないことだ。

しかし、僕の中ではこの日、どこで何をするかということが既に固まりつつあった。実は、昨年8月の北海道マラソンの際、新千歳空港に到着した直後に向かおうとしていたのが、そこだった。ところが運悪く、そこだけ集中的に雨が降るという事態に見舞われ、訪問を断念したという経緯がある。更にその3週間後のこと、北海道胆振東部地震での支援活動のため厚真町に向かうとき、毎日「社台スタリオンステーション」の前を通っていた。朝、広い牧草地に放牧されている数頭の馬の姿。いつか落ち着いたら、ゆっくりこんな光景を眺めたい、という思いが強くなっていった。

さて、改めてライブ当日に時計の針を戻そう。

数万人の観客が訪れた札幌ドーム。
22時を過ぎてもなお、行き交う人で溢れる札幌駅。
正直、これ以上の人の波に揉まれることに、嫌気が差していたのかも知れない。

「やっぱりノーザンホースパークに行こう…。」

実は、ライブ翌日の行動をどうするかは、ギリギリまで悩んだ。妻は一度ノーザンホースパークを訪れているし、本場のYOSAKOIソーランを目の当たりにしたことはない。二者択一となりつつあったが、自分の心からの願望に正直になろうと決めた。
そうと決まったら即行動。時間は限られている。8時半過ぎにバタバタとホテルをチェックアウト、8時50分発の快速エアポートに飛び乗った。新千歳空港に到着したのは9時27分。9時40分には、1時間おきに運行されるノーザンホースパークへのシャトルバスが出発する。
バス乗り場へと急ぎ、乗車。4名の乗客が既に車内にいた。9時40分に新千歳空港を出発したバスは10時過ぎ、目的地に到着。

ロッカーに荷物を預けて身軽になり、園内の散策を開始。まずは、「馬見の丘」を目指した。広々とした牧草地に佇む馬の姿を想像しただけで、ワクワクが止まらなくなった。階段を上り、馬見の丘に到達。
ドキドキしながら広い牧草地に目を向ける。

…あれ。いない。目を凝らすと、牧草を貪る1頭の馬。もっとこう、数頭の馬が戯れる光景を想像していたんだけど…。
でも、心地よい風の音だけが聞こえる高台は、我々以外に誰もいない。まさに独り占めの優越感に浸りながら改めて撮影した一枚は、このブログのバナーとして登場する。

さて、馬見の丘を離れ、厩舎に向かった。
引退した馬たちがのんびりと過ごす厩舎。

単に馬齢を重ねた訳ではない、純真無垢な瞳と、齢を重ねて深く刻まれた皺。
その馬たちの優しい目に、強く惹かれた。淡い恋心を抱きそうになるぐらい、美しい瞳。

まさに僕が渇望していた、「癒し」がそこにはあった。
かつて競走馬としてしのぎを削り、最高峰であるGIを何度も制した馬。レースに出場するも、一度も勝利することなく引退を余儀なくされた馬。

ここには色んな馬がいる。しかし、どの馬も優しさに満ちていた。
わずか2時間の滞在時間ではあったが、心の疲れを洗い流すには充分過ぎるほどだった。

パドックでは、馬術の練習なのか何かの検定なのか、若い子たちが馬に跨がり、凛とした手綱捌きを披露していた。

もう一度厩舎に戻る。いよいよお別れの時間だ。
「また来るからね。元気でね。」
格子状の網の向こうに指を伸ばし、そっと馬の額を撫でながら、心の中で呟いた。

残念ながら反応はなかったが、まるでこちらの心中を察しているかのような馬の佇まいに、最後までメロメロだった。

ノーザンホースパーク
〒059-1361 北海道苫小牧市美沢114−7
0144-58-2116
https://maps.app.goo.gl/MdCjHFuUZVHX4EmT6

サザンオールスターズ LIVE TOUR 2019 札幌公演(初日)鑑賞記

ネタバレはしていないつもりですが、もしもネタバレと感じてしまったらごめんなさい。

サザンオールスターズのライブを6年ぶりに鑑賞してきた。昨年9月、北海道胆振東部地震の支援活動で厚真町を訪れて以来、約9か月ぶりの北海道。
移動中の機内、そして車窓から北海道の風景を眺めながら、当時のことだけではなく、なぜかぼんやりと父のことを色々思い返していた。


僕にとってサザンオールスターズは、晩年の父と交わした数少ない言葉の媒体だった。無期限活動停止を発表した後の最後のライブ。雨降る日産スタジアムで観た、最初で最後のサザンオールスターズ。

「面白がったが。」「ああ、いがったよ。」

そんな短い会話のやり取りだったような気がする。しかし、ライブの余韻に浸る間もなく、2週間後に父がこの世を去った。

それから5年後、サザンオールスターズは復活を遂げた。復活ツアーのファイナルとなった宮城スタジアムで観たライブ。5年前の横浜が、僕自身にとって最初で最後のサザンではなかったと感涙に咽びながら、父が二度と戻ってこないことへの寂しさを、ひしひしと感じることとなった…。


札幌に到着したのは15時近く。開演は18時だが、ここからの移動を考えるとあまり時間がないと思い、手早く用事を済ませてホテルにチェックインした。初めて訪れる札幌ドームへは、地下鉄南北線(さっぽろ→平岸)250円と、シャトルバス(平岸→札幌ドーム)210円で移動した。

地下鉄東豊線を利用すれば、札幌ドームの最寄り駅となる福住駅まで15分もかからずに移動できると聞いていたが、混雑を鑑みれば他のルートで移動した方が良い、とのアドバイスを受けていた。結局往路は40分ぐらい、復路は30分ぐらいを要しただろうか。行きも帰りもバス(普通の路線バスの車輛)は立ち席となってしまったが、まあ、駅までの行列に苦悶し、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車に揺られるよりはマシだったかな、というのが率直な感想だ。

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