日別アーカイブ: 2014-12-26

世の中には、繰り返さなくてもよい歴史がたくさんある。

僕の中では今年一番の衝撃だった、平川市の選挙違反事件。この事件は青森県に暗い影を落とすこととなったし、「津軽選挙」という悪しき風土が未だに根強く残っていたことを裏付けるとともに、平川市はもちろんその周辺地域に対する心証を地の底まで叩き落とすこととなった。

<平川市長選違反>倫理観欠如に裁判官あきれ(河北新報 12月26日(金))

芋づる式に次々と議員が逮捕されていく様を見て呆れ、未だにこういう人たちがいたということにも呆れ…。対岸の火事と思って見てはいたものの、正直ここまで来ると被告たちに対して、怒りを通り越した情けなさや憐れみを覚えるようになった。恥の上塗り、とはこの人たちのことを言うのだろう。


今から十数年前、社会人の身分ながら、僕が弘前大学大学院に籍を置いていた頃の話。

主に行政法の教授の下でいろいろ学びながら、一方で、社会学のフィードワークの一環として某自治体に聞き取り調査に入ったことがあった。その内容はのちに、「リーダー生成過程としての選挙と地域づくりの展開」というタイトルで弘前大学の人文社会論叢(社会科学篇)に掲載され、更に再構成されたものが「津軽、近代化のダイナミズム―社会学・社会心理学・人類学からの接近」という書籍に掲載された。

この時実は、「津軽選挙」の風土がとことん根付いていた(と考えられていた)N村への潜入調査を試みようとしたのだが、共同作業を行った准教授が既にこの地で先行調査を行っており、村内ではちょっと知られた存在であること、そして何よりも僕の父の出身地ということで僕や父の身に危険が生じても困るということから、この村への潜入調査を諦めた、という経緯がある。

この村では、選挙(特に村長選挙)が始まると、村を二分するような騒ぎとなり、お互い違う候補を応援しなければならないという事情から、家の中ですら険悪な空気に包まれることや、ウソかホントか知らないが、飲ませる食わせるはもちろん、お帰りの際の「お土産」は当たり前、選挙直前になると、双方の陣営がスパイのように暗躍するといった話を聞いたことがある。特に、津軽の水瓶とも言われる大規模な工事を抱え、それもこれも全てはその工事を巡る利権争い、勝てば官軍負ければ賊軍といった有様で、負けた候補者を応援した者には、次の選挙までの4年間、村からの仕事が一切来なくなるといったこともあったようだ。そんな村役場の職員だった伯父も、その渦中で振り回され続けたということを、今だから明かそう。

結局、やむなく他の自治体での潜入調査を行い、その過程において、行政のトップがどういった経緯で選出されていったかを探っていったのだが、これがまた「津軽選挙」の片鱗に触れる実に興味深い内容だった。
例えば、「ちくわやおにぎりの中にお札が入っていた」ことや、「A陣営が5,000円を配ると、直後にB陣営は10,000円を配り、その際、A陣営の5,000円と交換する(つまりA陣営の賄賂を同額でB陣営にすり替える)」ことなどが頻繁にあったらしい。

一番興味深かったのは、高い投票率だった。選挙ともなると、「出稼ぎのため県外にいた連中がみんな戻ってくる」ぐらいの騒ぎ。いわば一種の「お祭り」か「娯楽」の一つと捉えられていたのだろうか。小さな自治体とはいえ毎回95%を超える高い投票率は、「普通ではない何か」がそこで起こっていたことを感ぜずにはいられなかった。


あの調査から十数年が経った。僕が調査した自治体は、市町村合併によってなくなった。
一方、選挙にエネルギーを注いでいた人たち(つまり、何らかの利権を求めていた人たち)の高齢化が進んだこともあってだろうか、N村では無風選挙が続くようになった。
そしてこの間に、市議を務めていた父が亡くなり、共同執筆した教官の方々も青森県を離れた。

この状況を見て、父は一体どんな思いを馳せていることだろう。一緒に研究に携わった院生の皆さん、そして教官の方々は、この状況をどんな目で見つめていたことだろう。

来年4月には統一地方選挙が待ち構える。
僕は今のところ選挙に出馬する予定はないが、将来のためにも、今回のことを他山の石と捉えたいと思う(爆)。

投票箱

最後に、よほど神奈川県というところが都会過ぎるのか、青森県をとことんコケにしたブログ記事を紹介。
ま、僕みたいに青森県以外のところで生活したことのない人には、何を言っているのかよくわかりませんが。
もっとも、批判するのは勝手だけど、卑下する相手マヂガッチュンデネガ。

http://gudachan.hatenablog.com/entry/2014/07/21/114806