Daily Archives: 2011-02-14

津軽のソウル・ミュージック

津軽のソウル・ミュージックと言えば。

恐らく津軽地方に根を張り生活している人の大半は、この問いかけに対して「津軽三味線」と答えるのではないだろうか。
津軽三味線と言えば、名実ともに津軽三味線のルーツの根源、といっても過言ではないであろう高橋竹山が有名である。
その後津軽三味線は全国各地に伝播し、後世に伝えられるとともに、いわゆる我流(亜流?)が主流を占めるようになった。

現在、弘前市内で三味線演奏を聴かせる居酒屋は5件ほどあるようだ。
昨晩、ひょんなきっかけから、その先駆けとも言える弘前駅前の「ライブハウス 山唄」に行く機会を得た。
実のところ生まれて40年、一度も「山唄」には足を運んだことがなかったので、楽しみな反面、やむを得ず一人で行かなければならないという心細さ、不安も胸の中に去来していた。

18時30分少し前に「山唄」に行くと、玄関前には「本日貸し切りのため一般のお客様は入店できません。」との張り紙が。

入り口に通じる階段を上り、恐る恐る扉を開けると、既にたくさんのお客さんが飲食を始めている。ライブハウスとは言うが、むしろ「民謡酒場」といった雰囲気だ。
名前を確認したあと、上の席を案内される。2階席(正しくは3階席)の一番前、落下防止用の透明なプラ板が張られたカウンターのような座席に通された。
雰囲気を撮影しようと携帯電話を取りだしたところ、目の前に「写真撮影・録音はご遠慮下さい」との張り紙があったため、この場での撮影は遠慮する事にした。

高い場所から客席とステージが一望できるその位置は、プラ板の「くすみ」を除けば、絶好の位置と言っても過言ではないだろう。
取りあえず目の前に置かれていた弁当を広げ、「けの汁」と生ビールで流し込む。これらは全て料金に含まれており、飲み物はメニューにあるものなら何でも「飲み放題」なのだ。

約30分後。ビール(中ジョッキ)は2杯目に突入。周囲には知る人もなく、黙々と飲み食いしていたので、いい感じで酔いが回ってきた。

ちなみに種明かしをすると、この日の山唄は「元気会」という貸切イベントだった。何でも、創業者である故山田千里氏の体調が悪くなってから開催していなかったとかで、約10年ぶりの開催なのだそうだ。
ということで本日の客層は、「山唄」の常連客(というよりも、何らかの形で強固な縁を持つ方々)とお得意様の集まりで、総勢約90名。県外客はほとんどいないはず、とのことだった。

裏を返せば、僕のようにチケットを頂いたようなひよっ子以外は、皆さん耳も口も(敢えて言えば身体も)肥えた方々ばかりということなのだろう。実際、年齢層は50~60代以上の方々が大半を占めていた、ということを付記しておこう。

ここでようやく、本日のメインイベントとも言うべき演奏が始まった。

まずは四人での津軽三味線演奏に引き続き、男性二人による津軽三味線の演奏。一気に引き込まれる。
しかしさすがお客さん、間の手、拍手のタイミングを実に心得ておられる。聞いていると、二人での演奏は何となく「前座」といった印象があって、三味線素人の僕の耳でも、まだまだ荒削りな感じに受け取れた。とはいえ、見事な津軽三味線の演奏に、酔いもどんどん回り始める。

続いて登場したのは、手踊りちびっ子名人の「モカ」ちゃん。
パッと見たとき、中学生か高校生?イヤ、それにしてはあどけないな、と思ったら、何と小学6年生だそうな。
…というかこんなところでこんな時間に、いいのか?と思ってしまった(笑)。

彼女の登場で客席のボルテージは一気に急上昇。続いて登場は鰺ヶ沢町の佐藤信夫氏。民謡の歌い手として、数々のタイトルを獲得したこのオジさん、黒い紋付きの下に描かれた荒々しい海が、いかにも「民謡!」って感じで何とも素敵♪

佐藤氏はリクエストにも応えて3曲を熱唱後、ステージを下りた。再び「モカ」ちゃん登場し、1曲手踊りを披露。またしても拍手喝采。

続いて山田千里氏最後のお弟子さんだったという二人が登壇、津軽三味線を聞かせる。これがまた何とも泥臭くもあり力強さも感じさせるバチさばきで、「うーん、さすが!」といった感じ。歌い手も加わり、演奏に花を添える。

最後は、山田千里氏の妻である福士りつさんを加えた5人での演奏。しかも福士りつさん、三味線演奏しながら民謡を披露。
どうやら今日のお客さんの目当てはこれだったようだ。80歳を超えた福士さん、三味線の演奏が非常に優雅というか、他の人たちが三味線そのものを激しく揺さぶりながら演奏しているのに対して、竿がほとんど動いていない。バチも滑るように動いている。

それよりも福士さん、声量が凄いのね。座ったままながら、よくあんな声が出るものだと思わず感心。

冒頭、津軽三味線が津軽のソウル・ミュージックだと例えたが、彼女はさながら津軽のアレサ・フランクリンといった感じだろうか。もっとも、風貌はジェームス・ブラウンっぽかったが(爆)。

ただ、残念なのは酔いが回る毎にどんどん閉鎖的、というか内輪だけの盛り上がりになり始めていたこと。舞台正面の一番いい場所にいた方々、恐らくかなり濃厚な関係者なのだろうが、酒が進むにつれて、演奏そっちのけで大声を上げ、歌っている最中もうるさいことこの上なかった!

しかし、家を出発するときは「すぐ店を出ると思う。」と弱気な発言をしていたのだが、気がついたらジョッキ3杯とチューハイ1杯を平らげ、アンコール演奏が終わるまで腰を据えていたという…。
結局店を出たのは20時40分頃。約1時間30分の演奏をバッチリ堪能した。

百聞は一見にしかず、とはまさにこのことなんだろうね。三味線の音色を聞いて、久しぶりに心が「ジャワメグ」感じがして、面白かったです。

ライブハウス 山唄

津軽三味線の名手 山田千里氏の弟子たちによる合奏曲や、全国大会チャンピオンたちのソロ、津軽民謡のベテランによる唄など、迫力のある生演奏が魅力。
営業時間 17:00~23:00
演奏時間 お客様とのタイミングを見て1日2回~3回
定休日 月曜日
住所 弘前市大町1-2-4
TEL 0172-36-1835
駐車場     なし