プリンスが語る平和的革命 「Welcome 2 America」 #prince #w2a


プリンスがこの世を旅立って5年が経過。
依然としてプリンスロスに陥っている人も多数いる中、何と「新譜」が発売されることがアナウンスされた。海賊盤のようなデモテープ起こしや、過去の未発表曲の寄せ集めなどではなく、正真正銘の「新譜」だという。
2010年に制作されながらお蔵入りとなったそのアルバムのタイトルは、「Welcome 2 America」(W2A) 。11年という月日が流れて、突如スポットライトが当てられることとなった。

プリンスが手掛け、この世に公式に発表されていない楽曲の数は数万曲とも言われており、今回のアルバムがほんの氷山の一角に過ぎないのは事実だが、それでも、これまで聞いたこともない作品が発表されたことは、素直に嬉しい。そして、過去のアルバムのリマスター盤に収録された、未発表作品集とはまた異なる趣、当時の世相や心境を強く反映したような楽曲で構成されている点、しかもそれが、今日においてもなお響いてくるということもまた、何とも心をくすぐる。

ところで、まず最初に思ったことは、なぜこのアルバムがお蔵入りすることになったのか、ということだった。流れからすると、2010年に発表した「20Ten」の次に発売されるかも知れなかったアルバム、ということになるが、プリンスが前作を踏襲した続編的なアルバムを制作することはこれまで一度も見たことがないので、「W2A」も「20Ten」とは全く異なる趣意で制作されたものだろう。ただ、「20Ten」にあったいい意味での軽妙さ(悪い意味でのチープ感)は影を潜め、全く異なる印象を抱く作品だ。
そこで考えたのは、このアルバムが社会的なメッセージをかなり強く打ち出したものとなったため、さまざまな影響(新たな敵を作るかも知れないリスク)を考慮し、お蔵入りにしたのではないか、ということ。あるいは単に、一気に台頭した音楽のデジタル化や、寡占が進む市場や社会に辟易してのことなのかも知れないが、真実は誰にもわからない。(プリンス自身が今は早過ぎると判断した結果、お蔵入りとなった、という説もあるが。)

プリンスは以前からインターネットやGoogle、Apple社などに対する批判を強くしていたが、このアルバムが制作された前後の頃と思しきインタビューでは、批判と皮肉を一層強めている。そして、この頃の音楽市場にうんざりしたプリンスは、レコーディングをしばらく自粛することにした、とも語っている。実際、「20Ten」の次にアルバムが発表されるまで、4年の月日を要することとなった。デジタル化に迎合し始めたレコード会社や音楽業界に対して、とことん嫌気が差したのかもしれない。

そういえば「20Ten」も当初は、レコード会社を通じたものではなく、紙媒体である新聞の付録として世に放たれたんだっけ。(ライブツアーの宣伝に一役買ったのも事実だが。)

さて、アルバムに収録された一つ一つの楽曲に対する解説や分析等については、ここでは割愛することとし、まず一聴してみての個人的な感想を綴ろうと思う。

限定生産のデラックス盤。CD、レコード盤、当時のライブを収録した未発表のBlu-rayを同梱。

それにしても、昨今の社会の混迷を予言するようなこのアルバムが11年前に作られたということは、ただただ驚きでしかない。恐らくその頃に世に放たれていたら、社会的な注目を集めていただろうし、社会に一石を投じるぐらいの反響があったかも知れない。ひょっとしたら、問題作のような扱われ方をしたかも知れないし。

ジャケットの裏面には、Welcome 2 Americaの歌詞が掲載されている。しかし、このPrinceの佇まいは…。

とはいえ、決してアルバム全体に重苦しさが漂っているわけではない。
発売されたばかりの彼の新譜を初めて聴いたときに感じた「ん?これは?なんだ?」という感覚から、「おー…おおっ!」というあの感覚。かつて何度も経験した、あのワクワク感が甦ってくるような感じ。
この感覚を得るのは、彼がこの世から旅立った後に発表された「Piano & A Microphone 1983」や「Originals」では難しいのですよ。だって、これらのアルバムに収録されているのは、知っている曲ばかりだから。

アルバムが発売される前、リードトラックとして配信されていた、カーティス・メイフィールドを意識したという「Born 2 Die」や、The Timeの「Shake」みたいなノリが感じられる「Hot Summer」など、これらの楽曲に関しても最初聴いたときは「ん?」という感じだったし、アルバムのトップを飾る「Welcome 2 America」然り。

アルバム冒頭から、どんよりとした空気感の中に響くベース音。
しかしその、「ん?なんだ?」という感覚が「お?これ、何かいいぞ!」に変わった時、この先何度も聴き続けていくであろうアルバムになるという確信を掴んだ。

アナログ盤2枚は、いずれもアルバムに収録。B面は…ムフフ。

何よりもこのアルバムに華を添えているのが、この時期にプリンスが関わっていた複数の女性アーティストたち。「20Ten」でもフューチャーされていたシェルビー・Jをはじめとする女性メンバーが相当前面に出ている感があり、まるで彼女たちをプロモーションするためのアルバムだったのではないかと思ってしまうぐらい、プリンスが控え目なようにも受け取れる。

アルバムは複数の形態で販売されており、2011年4月28日にロサンゼルスで開催された公演の模様が収録されたBlu-rayディスクが同梱されたバージョンも発売されている。

2011年4月といえば、日本列島がその年の3月に発生した東日本大震災による混迷期の真っ只中。
その頃に開催されたライブということが、何とも興味深い(→実はまだ観ていないのだが、画質の問題など、あまり評価は良くない雰囲気だ)。

まずはしばらくの間、このアルバムがへヴィーローテーションとなり、やがてこのアルバムから少し距離を置き、また再び聴き返すという、プリンスの新譜が出た時のいつものパターンとなりそうだ。

ちなみに、ジャケットの背表紙にはこんな文字が書かれている。
I’M TALKIN’ ‘BOUT A PEACEFUL REVOLUTION

しばらくは、彼が語ろうとしていた「A PEACEFUL REVOLUTION」を探りながら、このアルバムに色々な思いを馳せたい。