JAM & LEWIS VOLUME ONE #jamandlewis #おすすめアルバム 

今は昔。

80年代から90年代にかけて、名うてのプロデューサーがしのぎを削る時期があった。

歴史を紐解くと、80年代前半にマイケル・ジャクソンのプロデュースや「We Are The World」を手掛けたことで知られるクインシー・ジョーンズ、80年代中盤はいわゆるユーロビートの牽引役となったPWLレーベルのストック・エイトキン・ウォーターマン、そして音楽市場における栄枯盛衰の典型的なカテゴリーとも言えるニュージャックスウィングの火付け役となったテディ・ライリー、猫も杓子も大物も小物もみんなが縋ったベイビーフェイス、そして、裏稼業の如く別名義でのプロデュースにより、密かにヒット曲を出し続けていたプリンスなどなど。

今回紹介するジャム& ルイスも、80年代前半、プリンスによって手掛けられたバンド、ザ・タイムの一員として参加していたジミー・ジャムとテリー・ルイスの二人によるプロデュースコンビ。
プリンスの傘下で活動していた時期はそれほど長くはなく、自らのレーベルを立ち上げてプロデュース業に力を入れていた頃、ザ・タイムの公演に参加することができず、バンドを解雇となった話はプリンスファンの間では既知の事実。その後プリンスは映画「パープル・レイン」の大ヒットにより、名実ともにトップミュージシャンとなるが、ジャム&ルイスはこの映画に出演していない。
がしかし、ジャネット・ジャクソンのアルバム「コントロール」を全面プロデュース、大ヒットを収めたことで「時の人」となり、続く「リズムネイション1814」でもヒットを記録、他のミュージシャンのプロデュースを手掛けることとなった。

個人的に一番驚いたのはジョージ・マイケルのアルバム「FAITH」に収録されていた「Monkey」が、5曲目のシングルとして発表された時だった。アルバムの中では、猿の鳴き声から始まるそれほど派手さのない楽曲だったのが、シングルではジャム&ルイスによる大胆なアレンジが施され、ダンサブルかつキャッチーなサウンドに生まれ変わっていたのだ。

ジャム&ルイスも参加したザ・タイムが1990年に発表したアルバム「Pandemonium」は、プリンスのレーベルである「ペイズリーパーク」レーベルから世に出された。かなりジャム&ルイスの色が濃いと感じられるこの作品ではあるが、プリンスとジャム&ルイスが交わることは、結局その後なかったようだ。

ジャム&ルイスの活動としては、90年代後半になると活況を見ることはなくなったが、1999年には宇多田ヒカルの楽曲を手掛けたほか、2007年に発表されたチャカ・カーンのアルバム「FUNK THIS」を全面プロデュース、第50回グラミー賞では最優秀R&Bアルバムを受賞するなど、地道に存在感を示していた。

さて、前置きがだいぶ長くなってしまったが、そんなジャム&ルイスが先日初めてアルバムを発表した。

タイトルは「VOLUME ONE」。

今まで発表されていなかったのが不思議なぐらいなのだが、全10曲、これまで手掛けたミュージシャンやかつてからの盟友、そして今回初めてタッグを組むミュージシャンなど、バラエティに富んだアーティスト群が名を連ねる。
先陣を切るのは、90年代初頭にジャム&ルイスのプロデュースによってメジャーデビューを果たしたSOUNDS OF BLACKNESS。彼らの十八番であるゴスペルスタイルが繰り広げられる。その後メアリー・J.ブライジ、ボーイズⅡメン、マライア・キャリーと、これまで彼らがプロデュースに携わったアーティストが登場する。
前半戦最後で、驚愕のキャスティング。既に先行でも発表されていたが、かつてしのぎを削り合ったベイビーフェイスが登場する。
熟成された生本マグロの刺身に、おろしたてのワサビの組み合わせ。これが不味いわけがないのである。

その後もトニ・ブラクストン、ミュージカル女優も務めるヘザー・ヘッドリー、R&Bシンガーのチャーリー・ウィルソン、更にはアッシャーが登場。
最後を飾るのは、ザ・タイムのリードボーカルを務めるモーリス・デイとジェローム・ベントンに、クエストラヴも所属するヒップホップバンドのザ・ルーツが華を添えるという展開。

1. Jam & Lewis x Sounds Of Blackness – Til I Found You
2. Jam & Lewis x Mary J. Blige – Spinnin
3. Jam & Lewis x Boyz II Men – The Next Best Day
4. Jam & Lewis x Mariah Carey – Somewhat Loved (There You Go Breakin’ My Heart)
5. Jam & Lewis x Babyface – He Don’t Know Nothin’ Bout It
6. Jam & Lewis x Toni Braxton – Happily Unhappily
7. Jam & Lewis x Heather Headley – Maybe I’ve Changed (Or Did You)
8. Jam & Lewis x Charlie Wilson – Do What I Do
9. Jam & Lewis x Usher – Do It Yourself
10. Jam & Lewis x Morris Day & Jerome + The Roots – Babylove

全体の収録時間が50分足らずと、何となく物足りない部分もあるが、今回のアルバムタイトルが「VOLUME ONE」であること、そして、まだまだ参加していない所縁のあるミュージシャンが多数いることを踏まえながら、「VOLUME TWO」の登場を早くも心待ちにしたいところ。
インナースリーブのクレジットにプリンスの名前が出てくるかな?と一瞬期待したが、名前はなかった。というか、もはやジャム&ルイスとしての名を確立させている以上、今更プリンスの名前を出しても…ですもんねぇ。

しかし、懐かしくもあり新しくもあり、ジャム&ルイスここに在り!を強く印象付ける、とても聴き応えのあるアルバムだった。ごちそうさまでした。