エレカシ・宮本浩次が唄う、おんな唄 #宮本浩次 #ROMANCE

エレファントカシマシのボーカルを務める宮本浩次が初のソロアルバムを発表したのが今年3月。繊細さ2割その他1割といった内容で、残りの7割を占めていたのは、圧倒的な「勢い」だった。横山健のギターが暴れる曲、スカパラや椎名林檎との共演作、更には俳優の高橋一生への提供曲など、ソロ名義で最初のアルバムなのに、ベスト盤の様相を呈している!と個人的には思ったぐらい。(というレビューを前回投稿している。)

新型コロナウイルスの感染拡大により全国に緊急事態宣言が出された時期、それは宮本にとって初となるソロでの全国ツアーを開催する時期と重なった。結局ツアーは中止となり、恐らく観客を圧倒していたであろうステージが日の目を見ることはなくなってしまった。

更に、6月12日のバースデーライブも「作業場」での開催となり、オンラインでの配信そしてWOWOWでの放送と相成った。ちなみにこのライブの完全版は、先に発売された「P.S. I love you」の12cmシングルの初回限定盤にDVDが同梱されており、こちらも入手困難となっているようだ。(この作品も面白いので、12月30日のWOWOWでの再放送をご覧いただき、興味が湧いたら是非購入してみてください。今回のアルバムに繋がる伏線もあります。)

さて、その「作業場」でも制作が進められたというアルバム、僅か8か月というインターバルでの発表の充分驚きに値するところだが、全曲カバー、それも全て女性アーティストの楽曲という構成で、昭和から平成にかけて、いわゆる歌謡曲からポップナンバーまで、かなり幅広い選曲になっている。そんなアルバムのタイトルは、「ROMANCE」。ほぼすべての楽曲のプロデュースを小林武史が務めている。

【作品紹介】
信頼する人たちと厳選と研鑽を重ね、カバーアルバムは形となっていった。
収められた楽曲のオリジナルは、すべて女性が歌った楽曲。
1リスナーだった少年時代の宮本が親しんだ楽曲から、今回新たに出会った楽曲までも含むが、いずれも宮本が愛してやまない楽曲が揃った。
オリジナルの歌に最大限のリスペクトを払いながら、1曲1曲を歌い込んだこのカバーアルバムは、宮本浩次のもつ歌い手としての力、魅力が、最大限に発揮されたものとなり、プロデューサー陣のアレンジ、ミュージシャンの演奏と相まって、カバーアルバムの最高峰と呼べる作品となっている。

驚きついでに触れるならば、全ての曲においてアレンジはされているものの、ほぼ原曲のキーが保たれているということ。先のアルバム「宮本、独歩」では、「Do you remember?」を筆頭に巻き舌、絶叫系の楽曲が含まれており、実際に発表されているライブ音源を聴いても、喉を潰しそうなぐらいの勢いで、かなり声を出し辛そうにしながら歌っている曲もある。が、今回のアルバムでは、裏声をを交えながら、素直に、丁寧に、そして忠実に歌いきっており、一つ一つの楽曲を大切に扱っているといった空気が窺える。

あの男臭さを全面に醸し出す宮本が、何で女性アーティストのカバー?と思ったが、NHK-BSで放映されている「Covers」では、今回収録された楽曲の幾つかが既に披露されていたし、エレファントカシマシだって荒井由実(松任谷由実)の「翳りゆく部屋」をカバーしているわけで、決して奇をてらったというか、意表を突いたものではないことは断言できるだろう。

それにしても、収録された楽曲を改めて聴いてみると、一つ一つの楽曲で繰り広げられるドラマというか人間模様が垣間見えるというか、とにかく歌詞が「重い」ということを改めて感じた。

松本隆や阿久悠といった男性作詞陣の他、小坂明子や松任谷由実、中島みゆきといった面々による描写は、いかにも昭和の空気感を醸し出しつつも、歌の中で光景として浮かび上がってくるのが不思議であり面白みもある。

僕にとっては、幼い頃から耳にしていた曲ばかりが収録されていて、ほぼストライクの世代なのだが、当時は深く歌詞を掘り下げることなくBGMさながらに聴いていた曲ばかりなので、改めて歌詞を読み返してみると、今も昔も人間の本質ってあまり変わらないのかも知れないと気付かされる。

もっとも、小坂明子のそれなんて完全に「妄想ワールド」の展開だし、「P.S. I love you」のカップリングとして収録され、アルバムの発表に先駆けたリードトラックとなった太田裕美の「木綿のハンカチーフ」は、男女の手紙(メールではない)の内容が交互に繰り広げられるといった感じだし、恐らくこの時代の曲を聴いたことのない若い人たちにとっては、かなり斬新な内容なのではないかと思う。

男・宮本浩次が唄う女性アーティストのカバーアルバム、特に僕と同世代もしくはやや上の世代の男性陣に、是非とも腰を据えて聴いて頂きたいところ。初回限定盤には、「作業場」で収録した弾き語り6曲を収録したCDが同梱されており、個人的にはせっかくであればこちらを購入することをお薦めします。テレビなどで観る彼の姿とは異なった、「唄い手」としての宮本浩次を堪能できる秀逸な作品だと、僕は思う。(敬称略)

【CD1】
1.あなた (作詞:小坂明子 作曲:小坂明子)
2.異邦人 (作詞:久保田 早紀 作曲:久保田 早紀)
3.二人でお酒を (作詞:山上路夫 作曲:平尾昌晃)
4.化粧 (作詞:中島 みゆき 作曲:中島 みゆき)
5.ロマンス (作詞:阿久悠・作曲:筒美京平)
6.赤いスイートピー (作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂)
7.木綿のハンカチーフ-ROMANCE mix-
(作詞: 松本隆 作曲: 筒美京平)
8.喝采 (作詞:吉田 旺 作曲:中村泰士)
9.ジョニィへの伝言 (作詞:阿久 悠 作曲:都倉俊一)
10.白いパラソル (作詞:松本隆 作曲:財津和夫)
11.恋人がサンタクロース (作詞:松任谷由実 作曲:松任谷由実)
12.First Love (作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル)

【CD2】
「宮本浩次弾き語りデモ at 作業場」
1. September (作詞:松本隆 作曲:林哲司)
2. 思秋期 (作詞: 阿久悠 作曲: 三木たかし)
3. 私は泣いています (作詞:りりィ 作曲:りりィ)
4. あばよ (作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき)
5. 二人でお酒を (作詞:山上路夫 作曲:平尾昌晃)
6. 翼をください (作詞:山上路夫 作曲:村井邦彦)