アルバムレビュー 2020_01 「宮本、独歩。」 #宮本浩次


これほど発売を待ち焦がれていたアルバムも久し振りじゃないだろうか。

既に耳にしたことのある曲ばかりなのに、作品に対する期待度が日に日に高まっていたのは、そのマテリアルを一年越しで待ち続けていた思いの反動なのだろう。

バンドとしてデビューしてから30年以上が経ち、初のソロアルバムを発表した宮本浩次。子細を述べる必要はなかろう、エレファントカシマシのフロントマンとして異彩を放ち続ける奇才だ。

エレファントカシマシがデビューした頃からずっと動向を追い続けていた僕からすると、彼のソロデビューはとても意外だったし、(計算されているのかも知れないが)自由奔放な彼をコントロールする人がいないということは、謂わば獰猛な野獣を社会に解き放つのと同じぐらい不安であると同時に、何をしでかすかわからない、何かをやってくれるかも知れないという期待が複雑に交錯していた。
特に、ソロとして椎名林檎と共演したことは非常に衝撃的で、その二人が2018年の紅白歌合戦に出場したことは驚愕でしかなかったが、彼らはやはり期待を裏切らない化学反応を起こし、そして年末にふさわしい、とは言えないかも知れないけど、渾身のパフォーマンスを見せてくれた。

そのステージに彼がいる、彼が立ち振る舞うだけでも存在感抜群なのに、あのパフォーマンスは本当に反則だと思った。

その後も東京スカパラダイスオーケストラとの共演では、ゲストボーカルでありながらスカパラを凌駕する圧倒的な演者っぷりを披露してくれた。

もうこれだけでもお腹いっぱいなのに、その後は完全にソロでの活動を開始し、次から次へと作品を発表、エレカシとは全く異なる世界観を誇示し続けたといっても過言ではない。
とりわけ、俳優の高橋一生に詞と楽曲を書き下ろした「きみに会いたい -Dance with you-」では、本人もバックコーラスとして参加しているのだが、ここでも強烈な宮本節を炸裂させ、高橋一生を食ってしまいそうな勢いだった。ちなみにこの曲のカップリングは、エレファントカシマシの「赤い薔薇」のカバー。これもまたいい味出しているんだよ。高橋一生のエレカシ愛を感じてしまった。

さて、20年前にエレカシが発表したアルバム「good morning」に数曲収録された、彼個人による打ち込み。あの作品はもしかしたら、彼がソロ活動を開始する伏線となっていたのかも知れないと、今更ながら思うわけで。

今回発表された、2018年からこれまでのソロ活動の集大成とも言えるアルバム「宮本、独歩。」。

当初は他のタイトルも候補に上がったようだが、「独歩」という言い回しが何とも彼らしいな、と思った。文学にも造詣が深いことで知られる彼、敬愛して止まないという国木田独歩から拝借したのだろうか、と余計な詮索をしてしまう。そしてこのアルバムのタイトルは、今は「独り歩き」しているけれど、戻る場所はやっぱりエレカシなんだという意思表明のように取れるのは、気のせいだろうか。

それはともかくこのアルバム、収録曲の半数以上がCMやテレビ番組、そして映画のタイアップとなっていて、結局これまで発表された彼名義の楽曲で今回のアルバムから漏れたのは、インスト曲とビートルズのカバー「If I Feel」(「Do you remember? 」のカップリング)のみなので、ソロ名義のデビューアルバムにしてベスト盤といっても差し障りはないだろう。

通常盤のほか、誕生日である6月12日に恵比寿リキッドルームで行われた「ソロ初ライヴ!宮本、弾き語り」が完全収録されたDVDをコンパイルした2枚組(CD+DVD)の「 612バースデーライブatリキッドルーム盤」と、ライブの楽曲からチョイスしたライブ盤CDにライブ映像やミュージッククリップ、インタビュー等を収録したDVDを同梱した3枚組(2CD+DVD)の「 2019ライブベスト盤」の3種類が同時発売。更に100Pにわたる写真集が同梱された、レコード会社限定発売の「受注生産限定盤」があり、4つのプロダクトが存在することに。最近、CDそのものの売上が低迷しているとはいえ、この手の販売手法が増えるとファンとしては泣きたくなる。頼む。少し多く払ってもいいから、一つにまとめてくれませんか…と。

販売店によって、絵柄が異なるA4クリアファイルが数量限定で特典としてついているということで、どこまでファンを泣かせるつもりなんだ!といった感じ。(現時点ではほぼすべての販売店で提供終了)
かくいう私、結局CDも聴きたいしDVDも観たい!ということで、2種類の作品に手を伸ばしてしまいました、ハイ…。

(こちら、密林から送られてきたクリアファイルの裏表)

【収録曲(通常盤)】
1. ハレルヤ
2. 冬の花
3. 夜明けのうた
4.きみに会いたい -Dance with you-
5. Do you remember?
6. 獣ゆく細道(椎名林檎と宮本浩次)
7. going my way
8. Fight! Fight! Fight!
9. 解き放て、我らが新時代
10. 明日以外すべて燃やせ feat.宮本浩次(東京スカパラダイスオーケストラ)
11. 旅に出ようぜbaby
12. 昇る太陽

最後に、僭越ながら確信めいて言えることを一つだけ。
今回のソロ活動の土台にあるものは、当然のことながらエレファントカシマシである。
そして今回のソロ活動は、エレカシの一員としてバンドを更に昇華させるための手段であり、このソロ名義の作品も、宮本浩次の揺るぎないアイデンティティの証であると同時に、エレカシのフロントマンとしての懐の深さ、そしてエレカシに対する愛の片鱗を感じてしまうのは、この作品から惜しげもなく放たれる彼の熱量のせいであり、時折垣間見える優しさが散りばめられているからだろう。その証として、バースデーライブのほぼラスト、エレカシのセルフカバーとなる「友達がいるのさ」をギター1本で演奏していた時、突如彼の目から涙が溢れ、頬を伝うシーンがある。ああ、やっぱりこの人はエレカシが大好きなんだな、と胸が熱くなった。

エレファントカシマシの今後の活動が、ますます楽しみになった。