#ビート詩人 #佐野元春 の放つ日本語の煌めき


今年デビュー40周年を迎えた佐野元春が所属していた2つのレコード会社からベスト盤が同時発表された。1つはデビューから長年所属していたソニーミュージック(当時はエピック・ソニー)から3枚組、もう1つは現在所属するデイジーミュージックから2枚組というボリューム。

前者については、これまで幾つかのベスト盤が発表されている中での「40周年記念盤」とのことだが、正直「またか…。」という思いが巡るのも事実。それでも実は、まだ網羅されていない「隙間」があることを知らされることに。

「デンデゲデンデゲデンデゲ…♪」と始まる「アンジェリーナ」なんて、自分の所有する何枚のCDに収録されているのかな、というぐらい聴いているし、その他の楽曲も然り。

とはいえ今回(も)リマスターやらミックスやらが施されており、低音部が少し強調されたそれらの楽曲は、今まで聴いていた同じ楽曲とは異なる側面が引き出されている。まさに今改めて聴いても全く古さを感じさせない仕上がり、といって良いだろう。ただし、原発問題を取り上げ、国の政策を痛烈に批判する「警告どおり、計画どおり」は今回も収録されず。この曲に関しては、40周年を飾るには似つかわしくない、という判断だろうか。そしてもう1曲、手塚治虫生誕70周年のトリビュート盤に収録され、シングルとしても発表された「僕は愚かな人類の子供だった」。ポエトリー・リーディングという独特かつ異色な作品だが、こちらも収録されず。いずれの楽曲も、40周年のキャリアを振り返る上では非常に重要なのではないかと思うんだけどな。

もう1つの作品であるデイジーミュージック盤、こちらは移籍後に発表した4枚のオリジナルアルバムから、デジタル限定配信を含むシングルのみならずライブでも人気の高い楽曲を満遍なく選曲している。

ただし、新曲1曲を含むとはいえ、僅か4枚のアルバムから2枚組のベスト盤はちょっと無理があったのではないかという気がするし、直近で言えばデジタル配信された「愛は分母」、この曲が収録されなかったのが個人的にはかなり残念。ついでにいえば、雪村いずみとコラボレーションした「トーキョー・シック」も収録して欲しかった、かな。

ちなみに、こちらのベスト盤もリマスターが施されており、より音域がクリアになりそして広がりを持った感じ。まあ、40周年だからこれで良しとしよう。参考までに、この2作をシャッフルして聴いてみると、世代を感じさせない、全く違和感のない仕上がりになっているということ自体が実は凄い、と個人的には思った。

僕が佐野元春の曲を積極的に聴くようになったのは、国際青年年のテーマソングとしてNHKでたびたび流れていた「Young Bloods」のPVを目にしてからなので、ざっと計算すると35年ぐらい。デビュー当時からのファンの皆さんからすると、ヒヨコみたいなものだ。

この曲も収録されたアルバム「Café Bohemia」は、発売当初友達からレコードを借りてテープに録音、テープが擦り切れるほど聴いたし(買えよ、と言われそうだけど後でアルバムは買いました、ハイ。)、従姉の部屋にあった「No Damage」のアナログ盤にいろんな思いを馳せていたし(勝手に聴くことは憚られたので、ジャケットとレコードスリーブを眺める程度)、「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」に至っては、一時期なぜか部屋に販売形態の違うCDが3枚見つかったこともあった。

この方の楽曲に魅力されるのは、編曲が素晴らしいことはもちろんだが、やはり唯一無二の歌詞だろう。

マーク・コスタビのジャケットが素敵な、カセットブックという形のみで限定発売された、不思議なデジタル音に載せてひたすら歌詞を読み上げるという「Electric Garden」に始まり、この作品も再録されたCD「Spoken Words Collected Poems 1985-2000」などに収録された数々の作品に象徴されるように、彼の歌詞はとても独創性に溢れている。

例えば代表曲の一つ「アンジェリーナ」の一節「今晩誰かの車が来るまで 闇にくるまっているだけ」のように、韻を踏むような独特な歌詞もあれば、先に取り上げた「警告どおり 計画どおり」に象徴される政治批判など、テーマは非常に幅広い分野に及ぶ。

その中にあっても、日本語を駆使した独創的な歌詞こそが、彼を「ビート詩人」と表現する所以なのだろう。

「米国歌謡の伝統の中に新しい詩の表現を創造した」ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞するのであれば、「日本の音楽の歴史の中に日本語独特の詩と新たな表現の方法を築き上げた」佐野元春がこの賞を受賞してもおかしいことではないな、と思ったりする。

もっとも、毎年候補が名前が挙がる某作家のように、世界的な知名度もなければ英訳された作品があるわけではないので、可能性は極めて低いのだろうけれど。