(前編から続く)
10㎞過ぎまでは努めて冷静に、リラックスしながら走っていたのだが、そう簡単に事が運ぶはずもなかった。
【走り方を忘れた?】
15kmを通過した辺りから、足裏に少し違和感を覚え始めた。いつも準備していたワセリンを今回持参していないことに、大会当日の朝になって気付いたという失態。恐らく、終わる頃には足裏に水ぶくれができていることだろう。
前半はずっと上り基調のコース。最高地点は20㎞の手前となる。相変わらず老若男女問わず、たくさんの方々が沿道から声援を送り続けている。17㎞付近でコース最南端に到達し、右折すると上りに入る。この辺りから、少し余裕がなくなってきた。追い越すよりも追い抜いていくランナーの方が多くなってきた。ただ、それすらも別にどうでもいいと思い始めるようになってきた。とにかくゴールさえできれば、今日はそれでいいのだ。ただ、上半身と下半身が連動していない違和感がある。走り方を忘れてしまったのかも知れない。
20km手前の上り、いよいよ息が切れる。集中力が散漫になってきた。ヤバい、と思ったところで沿道から声が掛かる。
「最後の上りです!あとは下るだけ!」
走るペースを落とし、一度歩きながら息を整える。足が止まったわけではない。大丈夫、まだ行ける。
【何とか中間地点通過】
20km通過は1時間50分。ここからしばらく惰性で下り坂を走り続ける。
中間地点の平和祈念公園に差し掛かると、せっかくの日曜日なのに、沿道の小中高生はどこの誰なのかも分からないランナーのために、なりふり構わず声援を送ってくれる。それが何だか嬉しくて、グッと胸が熱くなる。
しかし、22kmを過ぎた辺りでいよいよ足が動かなくなってきた。左の足裏はかなり火照っている。思わず沿道の方からコールドスプレーを借りて両脚に噴射する。
これで少し和らいだのか、再び足が動き始めたが、その効果も短時間だった。
【遂に発見!そして、悪魔の囁き】
25km手前、ひめゆりの塔付近に到達。見つけた大きな私設エイドで思わず足が止まった。
念願の「沖縄そば」だ!3度目にして、ようやくこのエイドを見つけた喜びで、自分の中の悪魔が囁いた。
この後はファンランに切り替えようよ、と早くも妥協。
28km過ぎ、左手に広がる海に再び足が止まる。スマートフォンのカメラを向けていると、「撮りましょうか?」と声を掛けられる。嗚呼、私は何をしているんでしょう。
【2度あることは3度ある】
30km地点、ここからは暫く平坦な道が続く。
これまで2度走って学習していたはずなのに、またしてもここに辿り着いた時点で余力が残っていない。30km以降を颯爽と駆け抜けるのは、またしてもお預けとなってしまった。(いや、一生掛けても無理なような気がする)
そしてここから、誘惑のゾーンへと突入。私設エイドの充実がハンパないのだ。果物類、氷、コーラ、黒糖、塩飴、中には泡盛、ビール、たこ焼きに、ゆし豆腐、流しそうめんを提供しているエイドも。
コーラは何杯頂いただろう。コールドスプレーは何回借りただろう。その間にも、最南端の吉野家で牛丼を平らげ、歩いて走ってを繰り返す。残り10km。中間地点通過の時に4時間切りもチラリと頭をよぎったが、練習もロクに積んでいないのに、そんな好タイムが期待できるはずもなかった。
【朦朧とする意識の中で】
首筋や肩口を刺すような日差し。決して熱中症になっているわけではないが、疲労と暑さが相まって頭がボーッとしてくる。走り方すら忘れてしまった53歳は、もはや時計に目をやることもなく、ゾンビのごとくうなだれながら、声援にもまともに応えられず、黙々とゴールに向かうしかなかった。
残り1km。中学生か高校生が列をなして声援を送ってくれる。
ようやく42km超えの一人旅が終わる。いや、終わってしまうのだ。ボーッとする中、ハッと我に返る。
【今までで一番辛かった42.195km】
沿道でずっと声援を送ってくださった皆さんに対する感謝の気持ちと、自分に対する不甲斐なさが複雑に入り交じり、思わず顔が歪む。ありがとう。何とかここまで辿り着くことができました。涙と嗚咽をこらえつつ、ようやく陸上競技場へ。
結局ゴールラインを超えたのは、4時間28分31秒。想定していた4時間30分以内で何とかゴールした。
フルマラソンを走るようになってから一番遅いタイムでのゴール。これまでのフルマラソンで一番辛かった。実力を伴わない上に、気持ちが追いつかなかったのだろう。でも、無謀だったとは思っていない。
実年齢に抗うことも、今年の自分に打ち勝つこともできなかった。それでも、1年ぶりにフルマラソンを完走(といっても3分の1ぐらいは歩いたか)できた充実感、満足感は沸き上がる。走り終えたことで、気持ちも晴れた。うん。今はこれでいいのだ。
【NAHAマラソンはここが凄い】
総括すると、よくもまあこんな状態で走ったものだ、と苦笑いしたくなる。来年は他のレースで何とか結果が出せるよう頑張ってみようかと。実年齢に抗い、以前の自分に打ち勝つために。
最後に、NAHAマラソンの備忘録。
- 小中高生によるエイサーの演舞が減り、代わりに生演奏するオジさんたちが増えた気がする。ただ、中にはちょっと聴くに堪えないのも…。
- 30km以降は「客引き」ならぬ「ランナー引き」がハンパない。エイドを使わずとも、補給食を持参せずとも、沿道には私設エイドが延々続くため、飲食に困ることがない。「食ってくれ!飲んでくれ!」が凄い。
- 今年もチキンラーメンカーは見つけられなかった(撤退したのかも)。そして、ゆし豆腐を食べられなかったことは、心残り。
- 各所で民家からの散水(シャワー)が繰り広げられるため、汗をかかなくてもずぶ濡れになる。もっとも、気温が23度を超え、太陽がカンカン照りだったため、汗をかかないなんてあり得ないけど。
- ゴール後、会場に隣接する広場で展開するキッチンカーや出店もかなり魅力的だよ。ちなみにアサヒビールのノンアルを1本無料で頂きました。って、食べて飲んでばっかりじゃん。
- 余談ですが、帰宅後に体重を計ったら1.5kg増えていました、とさ。
暑い中、沿道で声援を送ってくださった皆さん、そして私設エイドを設けてくださった皆さんには、感謝しかありません。本当にありがとうございました。