7月20日から3日間、東京を訪れていた。
21日にNHKホールで開催された山下達郎のコンサートに足を運ぶのが最大の目的だったが、思いのほか初日が最高に楽しい1日となってしまったので、コンサートの話はさておき、まずはそちらの話をしておこうと思う。
赤羽駅は、JR各線(京浜東北線、埼京線、上野東京ライン、湘南新宿ライン)が交錯する交通拠点。今回、その赤羽駅近くに宿を確保、ここを拠点に3日間を過ごすこととなった。
青森空港から羽田空港、そこから京急とJR線を乗り継いで、赤羽へと向かった。
JRの車内は、なぜか浴衣を着た若い男女が多く乗車している。赤羽にも近い荒川沿いで「足立の花火」が開催されるらしい。一瞬食指が動いたが、50万人前後の動員が見込まれるようで、近づくのはやめることにした。(結局、花火大会は落雷等の影響で開始20分前に中止が決定、約40万人の観客が騒然となった模様。)
さて、赤羽駅周辺のエリアは、老舗から新しい形態の店舗まで多くの居酒屋等が立ち並ぶ、酒好きには堪らない「聖地」として有名。
当然その地に足を踏み入れる以上、どこかに行くに決まってる。
ということで、この界隈でも代表格の「鯉とうなぎのまるます家 総本店」を訪れることは、青森を出発する前から決めていた。
この店にはルールがあるので、途方に暮れるほど待たされる心配はない。
- 飲食は90分制
- 酔っ払いの入店はお断り
- 飲み物の注文は1人3杯まで
- うち、ジャン酎(のちほど説明)は1本まで
- 支払は現金のみ
外で待っている間も、鰻の香りが漂ってくる。
店頭で鰻の対面販売も行っており、待っている間にも何人かの方が鰻の持ち帰りをしていた。土用の丑の日も近いし、この暑さだと鰻の力も借りたくなるというものだ。
約20分後、いよいよ暖簾をくぐり店内に足を踏み入れる。U字型のカウンター席が2列、そして4人掛けのテーブル席が幾つか置かれており、多くの先客が気持ちよさそうな顔をして飲食を楽しんでいる。入り口からすぐ近くのカウンター席を案内された。気温が34度前後まで上昇した外とは異なり、ちょうどいい具合に冷房が効いている。
店員さんによるルール説明や講釈は一切なし。ついでにいえば、お通し(突き出し)もなく、自分で食べたいモノ、飲みたいモノをカウンターの前に立つ店員さんにオーダーする。
着座1杯目の生ビールは、中ではなく大(750円)。慣れない暑さで喉の奥がビールの到着を待っている。
せっかくなので、普段あまりお目にかかれないものを…と思ったが、淡水魚の鯉は得意ではないし、まずは無難な選択を。
でもここの店名、「鯉とうなぎのまるます家」ですよ。
ということで、鰻の蒲焼きを注文することにした。鰻の大きさで価格が違うとのこと、一番安価なサイズを注文。白焼きもあるということだったが、グッと我慢した。

鰻蒲焼き(2300円) ふっくらでふんわり!
…あ、そうだった。さっき注文を取ってくれた店員さんに聞いてみる。
「すいません、今日、肝はありますか?」
「いやぁ、すいません。今日は入っていないみたいで…。」
「そうですか、、、わかりました。」
しかし、何気に聞いたこの問い合わせが、あとで逆転ホームランをぶっ放すことに。
気づいたら早くもジョッキのビールが空になっている。土曜日とはいえ、こんな時間から何だか申し訳ない。
初入店の分際で知ったかぶりの顔をしながら「ジャン酎モヒート」を注文。
程なく目の前に出てきたのは、1リットルのハイリキチューハイ(プレーン)と、ミント数枚ライム一切れが収まった皿。これが「ジャン酎モヒート」のセット。氷の入った空のジョッキが添えられている。
僕は初めてだったのでこれで終わったけれど、通い慣れたっぽい方々は更にレモンやモヒート皿を追加注文して楽しんでいるらしい。ついでに言えば、氷も追加料金でオーダーが必要です。
肝がないことを知ったら、何だか無性に「どじょう」が食いたくなった。
「どじょうとじお願いします。」
他のメニューはあっという間に目の前に運ばれてきたが、こちらは少々時間を要し、グツグツの状態で目の前に鎮座。どじょうとともに相性の良いごぼうが、溶かれた卵の中に鎮座。感動的な光景だ。
…とその時、ふと後ろに目を向けると、冷蔵ストッカーから何かを取り出す店主。
手にしたタッパーには沢山の串が敷き詰められている。
そ、その串って、紛れもなく肝ではないですか!
待て。えっ?どういうことだ?
思わず熱視線を送り続ける。
体制を戻し、正面を向いた途端、先ほど応じてくれた女性店員さんが顔を近づけてきた。
「(小声で)これから肝を焼くそうです。先にオーダー入れますので、何本欲しいですか?」
「(小声で)い、い、一本で充分です…。」
「(小声で)レバーもあるそうですが、どうします?」
「(小声で)そ、それも一本お願いします。」
そんなやりとりを経て注文した後、ふと思い直す。待て、肝とレバー?
他方、焼きが始まるとともに注文受付が開始されると、ほぼ瞬殺で売り切れた。
この場にたまたま居合わせた客のみが食することができるという幸運。
自分、何だか泣きそうなぐらい嬉しいっす!
店主によって丁寧に焼かれる串たちを、時々凝視する。
垂涎の的だったそれが、間もなく目の前に運ばれてくるのだ。

肝がじっくりと丁寧に焼かれている
さっきの店員さんが近づいてきたので聞いてみた。
「肝とレバーの違いって何ですか?」
「え?あ、、、ちょっと待ってください。」
厨房のそばで指揮を執るリーダーとおぼしき女性店員さんに聞いている。
結論から言うと、レバーが肝臓、肝はそれ以外の臓物(胃袋など)ということらしいが、酔いが回り始めていて、ちゃんと覚えていない。
先に運ばれてきたのはレバー。
一口運ぶ。初めての食感はあまりにもトロッとしていて、何も言えない。何なんだこの絶妙な焼き加減!
続いて運ばれてきた肝。

肝焼き(450円)
こちらは噛んだ最後に程よい苦みが出てくる。どっちもうまい!お世辞抜きでうまい!
あれやこれやと充分堪能したあと、なんとも言えぬ感動すら覚えつつ、会計を終えて店を出ようとする。
例の店員さん「余った酎ハイ、持って行ってください!」
最後まで本当にありがとうございます!
17時過ぎに店を出る。滞在時間約75分。
相変わらず外気は熱風を帯びているが、行列は続いていた。
「あっ!」
牛すじ煮込みの注文を忘れていたことに気づいたのは、その直後だった。
…これは、もう一回来いってことですね。