【自助を考える】避難をしろ、とは言うものの。

2022年8月3日そして9日と相次いだ今回の大雨災害で特筆すべきことが一つ。
それは、県内各市町村での避難者が合計で最大で約1000人いたこと。
これまでは、警報や避難指示が出ようとも、避難する人は皆無で、多くてもせいぜい30名前後だった。

特に、弘前市だけで約250名の人が避難したという事実。少なくとも自分が防災関連の業務に携わるようになったここ5年では、聞いたことのない数だ。
それだけ身の危険を感じ、生命身体に危機が及ぶ可能性が高まっていると判断したことの裏返しだろう。

一方で、「この辺りはこれまで災害に見舞われたことがないから」と避難行動を起こさない人たちが大多数だったことも事実。

数年前までたびたび西日本を襲った洪水や浸水の被害が、本県をはじめ日本の各地で起こりうるということを自覚する必要がある。もはや災害発生のスキーム、規模が変わりつつあるというフェーズにあることを認識しなければならない。

口では「備えよ」とはいうが、何を備えればよいのか。そして、その「備え」はいつ、どのタイミングで活用されるべきなのか。今さらそんなことはもう分かっている、という内容ばかりかも知れないが、今回の災害を通じて感じたことを、つらつらと。
【鉄則】避難指示が出たら速やかに行動を開始せよ。

マイヘルメットと「あおもりおまもり手帳」

一つ目の「備えよ」:避難所では「大人の振るまい」を。

ご存じのこととは思うが、いざ避難となった時、慌てて手ぶらで避難所に向かうと大変な目に遭う。

自治体が指定避難所としているのは、地域の学校の体育館や公民館が多い。しかし、いざという時にこれらの施設には一人ひとりの衣食住を満たすようなものは揃っていないと思った方がよい。

いわゆる「非常用持ち出し袋」の類いは、用意していますか。
最低限の食料や飲料水、毛布、寝袋等はもちろん、更に準備しておきたいのは、普段から服用している薬や入れ歯の容器など、日頃当たり前に使っているもの。衛生用品も自分で準備しましょう。(公助が機能していて、すぐ避難所に物資が届けられるようであればいいが、こればかりはわからない。)

また、大規模な災害になればなるほど、避難所は混雑する。この場合、板張りの床の上に長時間滞在しなければならない、というケースもあり得る。痛みを和らげるためのエアークッションなどを持参する、ということも考慮した方がよい。(体育館のマットは、思った以上に固い。)

最近はホテル等に避難する人も増えているのが実情だが、残念ながら指定避難所は、ホテルでなければ食堂でもない。更に避難所には、いろんな人が集まる。乳飲み子から歩くのもやっとのお年寄りまで、さまざま。災害時は緊張や恐怖から、往々にしてピリピリしている。人が変わったような態度を露骨に表す人も出てくる。

こういう時こそ、自分だけなんとかなればよい、という浅はかな考えは捨てたい。思いやりの気持ち、大人の振る舞いを。長丁場になればなるほど、「共助」の精神が大切になる。大人たちによる一時の罵声や怒号が、居合わせた子供たちの心を深く傷つけていることも忘れないで。

二つ目の「備えよ」:複数の選択肢を常に持つ。

まずは避難所までの複数のルート、更には複数の避難所をあらかじめ想定しておく。
災害時は、日常の風景が一変する。道路だと思っていたところが冠水していたり、ブロック塀が倒れて通行できなくなっていたり。普段通れるはずのところが通れない、ということもあるだろう。

また、水没した路面には、「落とし穴」があることにも気をつけるべし。マンホールの蓋が外れていたり、側溝の蓋がずれていたり、普段全く気にしていない水路があったり。こういうところに誤って落ちたら最後、ひとたまりもない。どうしても水の中を進まなければならない場合は、折りたたみではない長い傘などで、進行方向の路面を突きながら歩くこと。そして、水の中を歩く時はサンダルや長靴を履くことは極力避けたい。浮力によって歩きにくいことこの上ない。

避難とは、避難所へ向かうこと、だけではない。自宅内の階上に逃げる垂直避難のほか、近所の知り合いや親戚宅に避難するなど、あらゆる選択肢を検討する。

避難する際に、「○○へ避難しています 連絡先××…」とわざわざ張り紙をするご家庭もあるようだが、これは、やってはいけないこと。なぜなら、「この家は空っぽですので、どうぞ泥棒さん空き巣さんご自由にどうぞ」とお知らせしているようなものだから。残念ながら世の中には、こういう隙を虎視眈々と狙っている人がいるのですよ。

三つ目の「備えよ」:先を読んだ早めの行動を

よく聞く話が、「気がついたらあっという間に水が上がってきて、避難できなかった」という話。当たり前の話だが、そうなる前の避難は鉄則。地震はともかく風水害は、あらかじめ予報が出ている。今の世の中、PCはもとよりスマートフォンやタブレットを用いて様々な情報を得ることができる。3時間先はもとより、24時間、72時間先も見越して行動を起こし、そして、避難に時間を要する人たちに行動を促す必要がある。

ちなみに今回の災害では、急激に水量が増えた結果、避難所の開設が間に合わなかった(=解錠できなかった)ところもあったと聞く。しかし、既に避難所に足を運んでいた人が複数名おり、陸の孤島よろしく周辺の水かさがどんどん増え、自分の身に危険が及ぶと判断した結果、窓ガラスを割って中の建物に入ったそうだ。

一方で、課題も浮き彫りになった。

・大雨洪水警報発令中にもかかわらず、「浸水想定区域内」にある指定避難所が開設されていた
・避難所まで距離のある地域があった
・垂直避難も働きかけているが、平屋建ての建物で垂直避難は不可能
・避難を頑なに拒む人たちが相当数いた

こうした課題に対してどう取り組むべきか。色々知恵を出し合わなければならないだろう。

「自助」とは、自分で自分の身を助けることであり、他人の力を借りることなく、自分の力で切り抜けることである。

しかしここで、三つ目の「備えよ」の矛盾とぶち当たる。自分で自分の身を助けることが困難となりつつある方、すなわち高齢者がどんどん増えているという状況が既に起きているのだ。【鉄則】の言うとおり、すぐに動ける人がどの程度いるか。「自助」に取り組むことができない人たちをどう救えばよいか。

次回は「共助」について考えてみよう…かな。