大規模な災害が発生すると、自衛隊の方々が被災地で活動する姿が報道される。それを見て、こういった認識を抱いている方も多いのではないだろうか。
首長や議員、幹部職員の中にこういった認識を持つ人が非常に多いのが実情と思われるし、住民の方々の多くも、自衛隊はスーパーマンのごとくやってきて、何でもやってくれるという認識を持たれているのではないだろうか。
しかしながら、自衛隊ほど組織としての指揮命令系統が確立されているところもなく、自衛隊に災害派遣を要請することは、決して容易なことではない。
そこで今日は、災害時における公助の一つとなっている、自衛隊の災害派遣に当たっての要件を今一度整理してみたい。少々堅苦しい内容になってしまうかもしれないが、結構大事なことなのでご容赦ください。
まずは、自衛隊の派遣に係る法的な根拠から。
◇都道府県知事等は、市町村及び都道府県の災害対応能力を活用しても対応できず、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合、自衛隊法に基づき部隊等の派遣を防衛大臣等に要請できる。 ◇また、市町村長は、災害対策基本法に基づき、都道府県知事に対し、自衛隊の災害派遣の要請を要求できる。 |
ただし、これらの要求、要請を行うには次のような要件が備わっていることが必須となる。
◇自衛隊の災害派遣については、
①緊急性(状況からみて差し迫った必要性があること) ②公共性(公共の秩序を維持する観点において妥当性があること) ③非代替性(自衛隊の部隊等が派遣される以外に適切な手段がないこと) |
を総合的に勘案して判断する必要がある。
自衛隊に出動してもらうためには、具体的にいつからいつまでどこで何をして欲しいのか、そしてそれは、上に掲げた①から③までの3つの要件(三要件)を全て満たしているのかを、要請する側において立証しなければならないということ。
特に発災直後は、どこで何をして欲しいのかが分からない状況にあって、とにかく来て欲しい、助けて欲しいと声を上げても、自衛隊はすぐにやってこない。事案が発生した直後に、情報連絡員として自衛隊員若干名が被災自治体に入ることはあっても、その隊員らはあくまでも自治体のニーズや被害状況等を把握するために派遣されており、前述のとおり、確立された指揮命令系統の下、与えられた任務以外を遂行することはない。よって、その隊員らが率先して支援するということは、まずあり得ないだろう。
災害発生から自衛隊派遣への流れをざっと整理すると、以下の通り。
①災害発生
⇒②人命の安全を脅かすような事案が明らかに
⇒③地元の警察、消防が出動
⇒④状況によっては県内の相互応援により対応
⇒⑤それでもなお市町村、都道府県の災害対応能力が不足する(警察や消防の力では足りない)場合に、初めて災害派遣要請を検討
この間、警察や消防はもとより県及び市町村の災害対応能力を最大限発揮すべく、人命最優先を目標に対応が取られる。更にこの時点では、被災都道府県に自衛隊の情報連絡員が到着しているはずなので、災害派遣に向けた3要件の妥当性に向けた下協議が行われる。
①緊急性 人命最優先の観点から、差し迫った状況にあるか
②公益性 公共の秩序を維持する観点で妥当か
③非代替性 自衛隊以外に講じられる適切な手段がないか(警察や消防、自主防災組織や消防団、災害ボランティアの手を借りても対応しきれない状況か)
この三要件が揃って、初めて災害派遣要請の判断となる。
市町村長(5Wを整理のうえ災害派遣の求め) → 知事(三要件の妥当性を判断したうえで、自衛隊へ派遣要請) → 自衛隊(状況に鑑みやむを得ない事態と認める場合に部隊を派遣)
自衛隊も「防衛省」という国の組織の一機関なので、役所的な段取りが出てくる、ということだ。
これが、災害発生により即自衛隊へ派遣要請、とはならない理由だ。
※ただし、地域との繋がりから、ボランティア的な立場で復旧作業に従事するケースを除く。
こうした一連の手順を踏まえ、自衛隊の災害派遣が決定される。特に発災直後は現場も混乱していることから、「まずは自衛隊を呼べ」という声が上がるのも理解できないわけではないが、実際には、様々な検討を経た上で派遣要請を行うほか、自衛隊もすぐそばにいる部隊であればともかく、場合によっては準備等を経て遠方から現場に向かうこととなるため、到着までには相応の時間を要する、というわけ。
次回は、自助の観点から「自主避難」について考えてみたいと思います。