【ご報告】ホームタンクから灯油漏出の件

金曜日の朝、何の前触れもなく突然自宅のストーブが緊急停止した。何度点火してもスイッチが入らない。
故障か?と思いつつも、出勤の時間となっていたため、その後の確認を母に任せた。
メールを送ると、母から「ホームタンクが空っぽだった。」との返信があった。
え?12月中旬に満タンにしたホームタンクが、1か月ちょっとで空っぽに?
ざっと計算しても1日10リットル?それは絶対あり得ない!
しかし母は「今年は厳冬だったでしょ。あなたが仕事で不在の間も年末年始も、ずっと暖房は使ってたんだし。」と取り合わない。
半信半疑ではあったが、その言葉を一旦引き取ることとし、取りあえず至急ホームタンクへの給油をお願いしておいた。
その日の夜帰宅すると、ストーブは何事もなかったかのように稼働していたが、不安は拭えなかった。

土曜日の朝。新聞を取りがてら何気なくホームタンクを見て、異変に気付いた。
昨日満タンにしたはずのホームタンクのメモリが、既に4分の3まで減っているのだ。
やっぱりおかしい!何かが起きている!

何だ?まさか、灯油が漏れているのか?と、雪の塊で死角になってたホームタンクの下を覗き込むと、なんとタンクの下に据え付けられているレバーが、雪に押されて半開きとなり、そこから灯油がタラタラと漏出していた。数日前に降った雨と一緒に小屋の屋根から落ちた雪の塊が、ちょうどレバーの上に乗ってしまったらしい。
ざっと計算しても、漏れ出たのは100リットルどころの量ではない。

一気に顔から血の気が引いていくのがわかった。
これは、大変なことになった。

うちの北側約100メートル先には、川が流れている。
県内各地では、毎年のように川へ油(重油や灯油)が流れ込む事故が発生し、その都度消防が出動、オイルフェンスなどを張っていることを知っている。
危機管理という部局にいる立場の人間として、絶対にやってはならないことをやってしまった、と思った。
幸いにして、消防には昔からの仲間であるFがいる。まずはFに電話をして、対応を相談しよう、うん、そうしよう。

…しかし、2度電話を試みるも、彼は電話口に現れなかった。
そうか…きっと今日は出番なんだ。
ということは、ここで慌てて119番すると、通信指令の彼が対応する可能性がある。父の時もいち早く駆けつけてくれた彼に、下手な心配はかけたくない。
そこで、消防本部の代表電話へ直接連絡してみることにした。

これまでの経緯と状況を説明すると、電話口の隊員が優しく言ってくれた。

「わかりました。ではこれから現場確認のために消防車1台でそちらに向かいます。サイレンを鳴らして向かいますので、近くまで来たら道路に出て合図してください。」

サイレンを鳴らして…この言葉を聞いた母と妻の表情が一気に曇った。
たかだか灯油が漏れたぐらいでこんな騒ぎになるなんて…。

いや、違うのだ。
消防の方に現状を確認してもらうことで、近隣に対する「注意喚起」「警戒」にもなる。
そして、後日になってから、何で通報しなかったんだ、と責められる方がもっと辛い。

その時間は、僕にとっては1時間以上にも感じられるぐらい長かったが、約10分後に消防車がやってきた。サイレンを鳴らしながら近づいてくる消防車に、車が道を開ける。そしてその音が近くで消されたことで、近隣の住民も何事かと家から顔を覗かせている。
いや…何だか本当に申し訳ない。

消防士が3名やってきて、「現場検証」が始まった。
日陰になっているタンクの周りには、50センチ前後の雪が積もったままになっていたが、既に自分自身で周辺への油の広がりを確認したかったため、穴を掘っていた。
隊員の方々はその穴の周辺で、灯油の流出状況を確認した(といっても、目視では流出が確認できなかった)。
そして、川に向かって緩やかに傾斜している、ウナギの寝床の如く細長い敷地の数か所に穴を掘り、同じような確認を続けた。
他の隊員の方を呼び(トランシーバーに対応していた本署の通信指令が紛れもなくFだった)、川の状況の確認を依頼。
更には市役所の環境課の担当もこれからやってきて、現場の確認と対応策の検討をするという。どんどん大事(おおごと)になってきた気がしたが、逆にそこまでやって頂くことで、こちらが抱いていた大きな不安感は、ほんの少しだが解消されていった。

消防の方からは、幸い川への流出は確認されず、現時点では灯油が雪の下に隠れている状況のため、手の施しようがないこと、恐らく雪解けとともに油が浮いてくる可能性があり、それが広がることもあるので、注意してほしいこと、状況次第では再度消防に連絡して欲しいことを告げられた。
それから約40分後、市役所の担当者がやってきた。引継ぎを行った消防の方々は現場から離脱した。僕には、深々と頭を下げ、礼を述べることしかできなかった。
市役所の担当者と改めて現場を確認。消防の方と同じことを言われた。
名刺を頂き、何かあったら連絡すること、周辺で井戸を使っている人がいないか注意して欲しいことをお願いされ、担当者も現場を立ち去った。

応急処置でレバーをガムテープで固定。針金で固定せよ、とは消防からのアドバイス。使わないのなら外してしまえ、とは市からのアドバイス。

誰もいなくなり、独りホームタンクの横に佇んでいた。掘り返した雪からは、灯油の臭いが漂っている。
消防の方からは「故意ではないんから気にしなくてもいいよ」、そして市役所の方からは「こうやって通報してくれるだけでもありがたい」と言われたが、気持ちは全く晴れなかった。思い切り泣きたい気分だった。
ホームタンクの下にあるレバーの存在に気付かず、それを固定していなかったこと、何よりも、タンクの周囲に雪が降り積もる様を漫然と見過ごしていたことなど、こちらの落ち度を言い出せばキリがない。

何よりも、自分が防災という職場でそれなりの立場にあること、危機管理という部局に所属する身でありながら、こういった事態を引き起こしてしまったことによる自責の念は、恐らくこの先もしばらく消えることはないだろう。

起きてしまったことは仕方がない、と言われればそれまで。しかし、それを起こらないようにするための措置、予見を怠ってしまったことは、どう責められても仕方がない。
正直、このまま雪が解けないで欲しいと思ったぐらいだが、今はじっと、春が来るのを待とうと思う。
…いっそのこと、雪が解けるタイミングで自分も消え入りたいぐらいだ。

お前には言われたくない、と思われるかも知れないが、例年より雪の多い今年、ご家庭にあるホームタンクの周囲には皆さんも気をつけましょう。