名盤に罪はない #GeorgeMichael 『 #OLDER 』

1996年に発売されたGeorge Michaelの3枚目のアルバム「OLDER」。「Faith」「LISTEN WITHOUT PREJUDICE Vol.1」に次いで発表されたアルバムだが、「LISTEN~」のvol.2が日の目を見ぬまま、ソニーとの法廷闘争に突入した結果、前作から6年間も待たされることとなった。

元々アルバム発表のインターバルが短いことで知られる、大好きなもう一人のアーティストPrinceも、レコード会社とのトラブルという似たような境遇に陥り、名前を変えたり自分のレーベルを立ち上げたり、最大限の抵抗を試みていたような気がするが、この頃、密かに意気投合していたという噂も聞いたことがある。

いずれにせよ、PrinceもGeorge Michaelもレコード会社とのゴタゴタで大分心身への疲労が蓄積してしまった気もするが、なぜが双方ともに晩年には元の鞘に収まる不思議な巡り合わせもあったり。何よりも、そんな二人が相次いで早逝したことは、衝撃的過ぎたワケで。

さて、この度発表された「OLDER」のリマスター盤、何種類かパッケージが用意されていて、最も高価なものだと、レコード3枚とCD5枚、さらに写真集が同梱された「Deluxe Collectors Edition BOX」(しかもレコード3枚とCD2枚は音源が同一という、最近のデラックス盤にはありがちな、ファンのみ垂涎のコレクターズアイテム)が用意されたが、既に国内では発売する気がないらしく、輸入盤のみでの取扱となっていた。

しかし、一ファンとしてどうせ購入するならば、と1万円札3枚出してやっとおつりが来るというその作品に、迷うことなく触手を伸ばしゲット。

レコードはオリジナルアルバムである「OLDER」が2枚組で、「OLDER」に収録されなかった未発表曲、リミックス曲を一枚に収め、当時は「OLDER」とのパッケージで限定盤として発表された(おまけのような)「UPPER」とともに、180g重量盤として同梱されている。(これだけで既に540g)

CD5枚は、前述の「OLDER」と「UPPER」それぞれ1枚と、12センチシングルCDで発表されたシングル曲(計6枚)に収録された別バージョンや未発表の楽曲が3枚のCDに収められている。とはいえ、前回の「LISTEN ~vol.1」のデラックス盤が発表された際の(ある意味)目玉ともいうべき「MTV Unplugged」の音源がこの中にも再録されており、前回疑問に感じた「次作で発表された「OLDER」の楽曲も演奏されているMTVアンプラグドを、何で「LISTEN ~vol.1」に同梱したのか」が払拭されぬまま、ただ「曲を詰め込んだ」といった感も否めず、個人的にはこれで★の数を1.5個ぐらい減じたいぐらいの気分だ。

写真集でお茶を濁されてしまったような気もするのだが、どうせならば、未発表のライブ映像とかMV集なんかを同梱してもらった方がありがたかったなあ、と思ってしまう。

ソロになって3作目、元ワムの肩書きが外れ、ソロアーティストとしてのキャリア、実績を積んでいくはずだった矢先のトラブル。アルバムとして日の目を見るまで6年というブランク、そのことが作品に影を落としているのか、「Faith」のような高揚感は全く感じられず、作品全体が陰鬱な雰囲気を漂わせているような感じ。

改めてアルバム全体を通して聴いてみても、華やかさや煌びやかな雰囲気はあまり感じられず、どこか荒廃した、心の闇や痛み、苦しみといった、内省的なものが滲み出てくるような、ネガティブな作品のように感じられてしまう。しかし、そのことが逆に作品の芸術性を高め、新たな試みによる音楽スタイルの確立を打ち立てた、といったような評価もあったようで、評論家による評判はそれなりに高かったらしい。まあ、この辺は完全に「音に対する嗜好」の違いによるものだと思うので、僕自身の感想はあまり参考にしないように。

しかし、何でこの作品に対する印象がよろしくないのか、ちょっと考えてみた。

私事となるが、1996年頃というのは、結婚した直後で単身赴任が始まった一方、前年暮れから始まった投薬や通院など、精神的に一番落ち込んでいた時期。そういう自分自身の心理的な背景も、この作品がネガティブなものだと感じさせる要因の一つかもしれないし、この作品を聴くことで、自分自身の当時の陰鬱な状況を思い出してしまうことが、あまり「いい作品」だという思いを抱かせない理由なのかも知れない。そういう点では同様の理由で、Princeが同年に発表した「Emancipation」に対しても、いい印象を持っていないのだということを、この作品が発表された時期や背景を紐解いていくうちに気がついた。

そう、作品に罪はないし、いい作品だからこそ、こうやってリマスターされて再発されるのだ