病のコンビニ、大開店。

7月28日から29日にかけての深夜、突如腹痛に襲われた。
睡眠を妨げるぐらいの痛みだったので、相当のもの。
その症状からして、自分の身に何が起きたのかはおおよそ察知できた。前にも同じような症状で散々苦しめられているからだ。

29日はどうしても外すことのできない業務が入っていたため、市販の胃腸薬を服用し、騙し騙しの状態で出勤したが、その異変は周囲から見ても明らか過ぎるぐらいだったらしい。
「無理しないで。」の上司からの言葉に甘え、この日は早めに帰宅した。

ここで同じ轍を踏むわけにはいかない。咄嗟に僕は、「断食」という行動に出た。かかりつけの病院に行くまでの間、たった2食ではあったが、その日の夜に痛みで目が覚めるということがなかったということは、それなりに効果があったのだろう。

翌朝。朝一番で病院に駆け込み、診察の順番を待つ。

ああ、絶対「あれ」が原因だ。今回ばかりは、この病態を引き起こした要因に確信を持っていた。
診察が始まる。医師には次のような説明をした。
以前引き起こした大腸憩室炎のような症状(前回は「疑い」とされた)と同じであること、そして、20日に職場の健康診断があったこと、そしてその時、バリウムを飲んでしまったこと…。

それにしても、健康診断で不健康を引き起こすとは、何たる不覚。しかし、時は戻せない。一刻も早くこの痛みとサヨナラしなければ。
結局、健康診断にはなかった腹部のレントゲン撮影、そして腹部超音波検査を行うこととなった。なんか、健康診断の延長戦というか、プチ人間ドックというか。

血液採取を含めた一通りの検査を終え、待合室に佇む。時計は10時30分を回っていた。既に病院に来てから2時間以上が経っていた。

再度名前を呼ばれ、診察室へ入る。
張り出されたレントゲン写真を見て、思わず言葉を失った。
うっすらと浮かび上がるあばら骨。その中に、多数の白い点があった。まるで散弾銃で撃たれたようなその痕跡は、憩室に残留したバリウムだった。

医師からの説明によると、このバリウムを排出するのはもはや困難であること(何らかの弾みで排出されることはあるらしい)、しかしこれが悪さをすることはないと思うので、このままでも大丈夫だということ、そしてやはり、大腸憩室炎疑いであること。

更に、点滴を投与することになった。約30分で終わるものではあったが、3日間連続で病院に通い、午前中に点滴投与を終えて出勤する、という日が続いた。当然食事も制限。アルコールはもちろん、野菜などの繊維を多く含む食材や脂分を極力控えた。
憩室持ちを自覚している身としては、普段から腸内に溜め込むことのないように、食物繊維を中心とした食事を心掛けるようにしていたが、いざこの憩室に何かが起こると、真逆の食事制限となる。結局、お粥をメインとした食事に始まり、うどん、豆腐といった「白いもの」を段階的に口へ運んだ。
投薬は7日間。抗生物質を含む薬を服用することで、痛みは徐々に和らいでいった。

8月3日、一難去ってまた一難。
大腸憩室炎疑いの投薬は相変わらず続いていたが、この日は2本目の抜歯をすることになっていた。

(抜歯後、口腔内を殺菌するための薬。どこかの知事が「コロナに効く」とか言い放ったため、市中から姿を消した。自身の発言の影響を少しは考えてくれよ…。)

既に腹部の痛みはほぼなくなっていたので、抜歯に集中することができたが、その日の夜、腹部よりも抜歯した患部よりも痛み出した部位があった。

右脚の踵。

かつて同じ部位を痛めており、身に覚えのある症状だった。
きっと明朝には歩くのもままならないぐらい激痛が走ることになる。平日ではあったが、歯科で抜歯した患部の消毒があるということで、午前の休暇を取得済だったのは不幸中の幸いだった。なので、歯科で処置を終えたその足で整形外科に走るしかない。いや、走るどころか歩くことすらままならない状態になるのだろう。

翌朝、予想通りの痛みが待ち受けていた。結局、脚を引きずったままの状態で歯科へ向かい、その後、かかりつけではない整形外科へと駆け込んだ。

診察室で医師に症状を説明すると、「痛風」を疑われた。
「尿酸値が高かったこと、ないですか?」
「かなり前ですが、一時期高かったことはあります。」

…とはいえそれは、基準値をほんの僅か上回る程度で、今思えば「高かった」といえる程のものではなかったかもしれない。
血液検査とレントゲン撮影。考えてみると、約2週間で3度血液検査のための採血を行うこととなる。なんだかなあ。
レントゲン撮影は、痛みに耐えられず呻き声を上げながらの作業となった。

再度診察室へ招かれる。
「血液検査の結果が出ていないので断言はできませんが、痛風ではなさそうですね。これは、「偽痛風」ですね。」

偽痛風…?

初めて耳にする症状だ。
以前同じ部位を痛めた際に、石灰状のものが右踵の辺りに溜まっているということは聞いたが、今回も、モヤッとした物体がレントゲン写真に写っていた。カルシウムが溜まっているのだそう。そして痛風だと、こういう形でハッキリ写ることはないのだそうだ。

「血液検査の結果は明後日以降でないとわかりません。いつ来るのかはお任せします。とりあえず痛み止めを処方しましょう。」

診察を終え、薬局で薬を受け取る。いわゆる湿布等の貼薬は、処方されなかった。

職場にはそのまま車で向かうことにした。いや、そうしないと午後の業務に間に合わないと思ったからだ。道すがら湿布薬を購入し、以前購入した足首固定のためのサポーターを巻きつけて固定。診察してもらった後も薬を服用していないので、歩くたびに脂汗級の激痛が走る。

職場に到着すると、好奇の目に晒されることとなった。腹部の痛みを発症した時も苦悶の表情を浮かべていたが、今回はそれ以上に苦痛の表情を浮かべていたらしい。

しかし、立て続けに違う部位が痛むと、何か憑かれているのだろうかと思ってしまう。
憑かれているというよりも、疲れていたのかも知れない。

食事制限にも関わらず、体重はほとんど変わらなかった。しかし、もしかしたら2本の抜歯が影響しているのかも知れないが、かなり痩せこけたように見えるらしい。

結局車通勤は3日間続いた。4日目になり、ようやく少しまともな二足歩行ができるようになってきた。

半年足らずで50歳を迎える。腹痛に抜歯に偽痛風。これでは病のコンビニみたいなものだ。いよいよ自分の健康管理をしっかりと行わなければならないし、ケアも怠るわけにはいかないな、と思ったこの2週間。防災に身を置く立場上、自分の身は自分で守れ、と口酸っぱく言ってきたが、それが形を変えたブーメランとなって帰ってきた感じだった。

もう、若くはないのだな…(しみじみ)。