cure jazz / UA × 菊池成孔

プリンスがラスベガスで再始動し始めた。来年2月まで、毎週末のようにライブをやるという。
もちろん行きたい。それなりに資金は蓄えてある。
しかしどうやらそれは、行きたいという「思い」だけで終わりそうな予感、というか確信。
時間的余裕、そして何よりも、行ったことのない米国本土に足を踏み入れるという、勇気がない。

多分僕はこうやって、一生国外に出ることのない生活を送り続けるのだろう。
何かそんなことを考えても癪なので、お気に入りの一枚で気を紛らわせようと思う。


以前から興味があって仕方がなかったのだが、どうしても踏ん切りがつかずに購入しそびれていたUA × 菊池成孔による「cure jazz」。車の中で、ラジオから流れていたこのアルバムの収録ナンバーを偶然聞いたのを機に、iTMS(今はiTSか)でDL購入した。


cure jazz
cure jazz
UA×菊地成孔

Amazonで詳しく見るbyG-Tools

ボーカリストUAと、サックス奏者菊池成孔との出会いは、2年前だという。

僕は、妻が購入したUAのデビューアルバムを幾度となく聴いていたが、彼女の声は、当時何かと持て囃されたR&Bスタイルよりも、むしろJAZZの方がしっくり来るということを、素人なりにもイメージしていた。

しかし聴けば聴くほど、彼女の個性あるその声に一種の嫌悪感(陰鬱さ)を覚え、その作品以来、全く彼女の作品に興味を示すことはなかった。今思えばそれは、当時流行のR&Bというジャンルに、何でもかんでも押し込めてしまおうということに対する嫌悪感でもあったのかも知れない。しかも、彼女はその後AJICOというロックバンドを結成、僕のイメージしていた側とはある意味対極の方へといってしまった。

一方の菊池成孔という人物については、正直何者なのかということを全く知らなかった。

菊池成孔(きくち・なるよし)

音楽家/文筆家/音楽講師。1963年千葉県銚子市生まれ。
デートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン、ぺぺ・トルメント・アスカラールを主宰。
最近では映画「大停電の夜に」、「パビリオン山椒魚」などの音楽監督でも知られる。

UAがデビューして10年。紆余曲折を経て、UAと菊池が手を組んだアルバム。
これは、タイトルが示すとおりれっきとしたJAZZのアルバムである。
それは、僕が待ち望んでいた一枚であったことを、ラジオから流れていたナンバー、あの一曲で確信づけてくれた。

スタンダードナンバーとオリジナルナンバーを織り交ぜた全12曲。
特に、10分を超える「Over The Rainbow」でのUAの歌声そして独特のリズム感は、聴く者の耳にそっと息を吹きかけるような官能的感覚、更には時折耳の周りをそっと舐められるような悩殺的煩悩へと誘う。
一枚を通して聴いてみると、菊池は、UAというボーカリスト(メインディッシュ)を見事に捌ききっているのがよくわかる。それでいながら、素材の味を決して損ねぬように見事な調理を加えている。まるで、塩と胡椒だけで味付けした魚のソテーに隠された、素材の深い味わいのような。

そこには、今流行のチャラチャラとした機械音もなく、雑音のような効果音もなく、モノクロのジャケットが表すように、白と黒のみで表現されたシンプルな音楽。

白は塩、黒は胡椒。メインディッシュの素材の味わいは、実に奥深い。
白は星、黒は夜空。このアルバムは、夜に聴くことで趣きを増す。
白はUAのボーカル、黒は菊池のサックス。二人の相性は、見事なまでにマッチングしている。

UAという一ボーカリストの、類い希なる才能が開花した作品。
「cure」という言葉に偽りはなく、まさに癒しの一枚となった。

僕がUAの声を聴いて最初に思ったことは決して間違いではなかったことを、今になって証明してくれたことが素直に嬉しい。

Leave a Reply