土曜日。未明に降った雨が、空気をひんやりとさせていた。ウィンドブレーカーに身を纏い、いつもより長い距離をハナとモモとともに散歩する。
吐く息が白い。寒い朝だ。
散歩の途中、どこからともなく何やら奇妙な甲高い声が聞こえ始めた。
「ホゲェ..ホゲェ…ホゲェ…」
ふと頭上に目をやると、9羽の白鳥が綺麗な連隊を組んで空高く飛んでいた。声の持ち主は、白鳥だった。いよいよ白鳥が飛来する季節になったか…。
灰色の空に、変形のV字型に連なって飛んでいく白鳥の姿を見ていたら、急に寒さが身に滲みてきた。

—
以前から妻が漏らしていた「新しいストーブ、買いたいなぁ」という念願が、いよいよ現実のものに。というか、知らぬところで妻と母が話を進め、気づいたら既に「取り付け作業までお願いしてしまった」とのこと。工事費込みで10万円って、どうやって捻出するんだよ…。
まぁ、それはともかく壁に穴を空けるような工事になるということだったので、そのスペースを確保すべく、結婚して10年で初めて大がかりな部屋の模様替えに取り組んだ。
とにかく僕は「無駄なもの」を集めすぎなので、それらを全部処分する、ということになった。
タンスや引き出しから、1年以上使っていないあるいは目を通していないものを処分対象として漁ってみると…。
出るわ出るわでゴミ袋2つ分！
これと並行して妻は、僕の衣料品の整理に取りかかり、同様の基準でせっせせっせとゴミ袋に詰め込んだ結果…。
こちらも何とゴミ袋2つ分！
これ以外にも既に故障して使えなくなっていたビデオデッキをはじめ、クリーニング屋のプラスチックハンガーが20本近く、全く聴くことなく、ただ無造作に放置されていただけの録音済みMDが約50枚などなど…。まあねぇ。MDはほとんど使わなくなっちゃったからなぁ。
「私たち、ゴミの中で生活していたんじゃない！」
あまりの量の多さに、チクリと言われる始末であったが、僕としてはこれまでの垢を一気に落としたというか、身辺整理をしたような気分で清々しかった。何でもっと早くやらなかったんだろう。まあいい。捨てたものには未練はない（多分）。9時前から進めた作業は午後まで時間を要し、掃除機をかけ終えたところでようやく終了。
その後、約2ヶ月ぶり（！）に散髪に出向く。伸びに伸びた髪の毛をバッサリと切り落とし、あースッキリした…というところまではよかったが、よく考えてみたら今朝から顔も洗っていなかったんだった…。
—
僕が散髪から帰宅して間もなく、注文していた2組のCDが配達された。

The Essential Plus Luther Vandross by G-Tools

S.S.T./Brand New Orleans Prince by G-Tools

プリンスのCDは、既に音源として持っていたものだったのだが、今回改めてCDが発売されるということで購入に踏み切った。僅かではあるが、カトリーナの被災者に対する義捐金として、である（あれ？確かそういうことですよね？）。
ルーサーのCDは、既に「THE ESSENTIAL」として発売されていたものにDVDがセットされたもの。「THE ESSENTIAL」というのは彼のベスト盤的なアイテムであるが、彼のベスト盤に関してはホントにもうウンザリで、発売当初は全く食指が動かなかった。ところが今回、改めてDVDが同梱されたということで躊躇なく購入を決意。ちなみに同梱されているDVDも、これまた既発のものらしい。まあ、このDVDだけ購入すれば済む話なんだろうけれど、そこはファン心理といいましょうか何と言いましょうか…。

From Luther With Love: The Videos Luther Vandross by G-Tools

この作品はプロモ集みたいなものだが、僕にしてみれば彼のプロモなんてほとんど興味がなかったから初めて観るものがとても多かったし、何よりも「動くLuther」を観られるというのは素直に嬉しかった。
ルーサーは好きな人がいる時といない時では、体型が全く異なっていたという話を聞いたことがある。なるほど観ると確かに体型が別人のように変わっているプロモがある。それはそれで微笑ましい話ではあるけれど、そんな彼の唄う姿を見ながら、彼がもうこの世にはいないんだということを思うと、本当に偉大なアーティストを失ってしまったんだなぁと、改めて落涙にむせんだ。
—
模様替えしたのを機にこの日から、西の方向に足を向けていたのを東の方向に足を向けて眠る。
夜中、変な夢と大量の汗を掻いて何度も何度も目が覚める…。
地球には磁場がある。思うに、毎日毎日ずっと同じ方向に枕を向けて眠ると、身体がある程度磁気化されてくるのではないか、と。だから急に枕を反対にして眠るということは、その体内の磁気が乱れることになりかねないから、色んな症状（発汗や睡眠の妨げ）が出てくるんではないか、と。
すいません。これ、僕がずっと思い込んでいる勝手な理論です（笑）。
—
日曜日朝。断続的に雨が降っていたが、朝方雨が止んだのを見計らって再びハナと散歩に出かける。モモとチョコは、昨日から家の中を二匹で駆けずり回っているので、留守番。ハナ1匹だけなので、相当長い距離を散歩してもいいんだよ、と思ったが、意外にも一番短いコースを散歩して終了。一匹だと不安なのだろうか。
帰宅後は昨日の続きということで、若干だけ残っていた部屋の整理をする。既に読み終え、本棚の肥やしとなっていた書籍をまとめて売ることに（この際CDも…という話になったが、取りあえずご勘弁願った）。某大型中古本店に持ち込んだ結果、18冊で1,300円也。まぁ、こんなものだろう。
合間を縫って、菊花賞の馬券をネット購入。武豊騎乗のディープインパクトは別格として、他の馬をどう絡めるか悩んだが、結局フォーメーションで3連単を購入。しかし、悩みに悩んだ挙げ句アドマイヤジャパンを斬ったことで、儚くもゴミ馬券となってしまった…。1〜5着のうち、2着馬だけ外すというチョンボ。7千有余円が手許からスルリと落ちた。嗚呼、俺のバカバカバカァ！
—
買い物に出かけたついでに、閉店を今月末に控えた弘前駅前のダイエーに立ち寄る。一応目的ありきで立ち寄ってみたが、予想通り店内はかなり商品が減っており、最後まで売れ残るだろうな、といった程度の商品ばかりが目に付いた。しかし、人間というのはつくづく欲に満ちた調子のいい生き物だな、と思う。平常営業時はほとんど人がいなかったのに、閉店が決まるとともに○割引や閉店セールの札に魅せられた人たちが、ここぞとばかりに集まってくる。嗚呼…でも、俺も一緒か。
ダイエー撤退後、来春には新しいテナントが…という張り紙を見つけたが、アテはあるのだろうか。地元商店街を再生せず、ないがしろにしてきたツケが回ってきた。ふとそう思った。3階4階はそれなりに活気があるだけに、何とか立ち直って欲しいものだ。
—
帰宅後。ハナとモモと散歩に出かける。3匹と散歩は無茶だということは身をもって体験済みなので、チョコは途中で合流することに。
17時近くになると、既に周囲が暗くなっている。
「ホゲェ..ホゲェ…ホゲェ…」
頭上から、再び白鳥の声が聞こえてくる。
ハナもモモも空を見上げる。
「ホゲェ..ホゲェ…ホゲェ…」
声は聞こえるが姿は見えない。その声も、どんどん遠くなっていく。周囲はうっすらとした闇に包まれ、空は灰色から漆黒へと変わりつつあった。
寒さでブルッと身体に震えが走った。
…次に聞こえるのは、冬の足音だろうか。
いや。聞こえてきたのは妻とチョコの足音だった。