THE SUN / 佐野元春

B0002ADG4A THE SUN (初回生産限定盤)
佐野元春 and The HOBO KING BAND

by G-Tools

1. 月夜を往け
2. 最後の1ピース
3. 恵みの雨
4. 希望
5. 地図のない旅
6. 観覧車の夜
7. 恋しいわが家
8. 君の魂 大事な魂
9. 明日を生きよう
10. レイナ
11. 遠い声
12. DIG
13. 国のための準備
14. 太陽

(初回限定盤は、レコーディング風景が収められたDVDとの2枚組)


アルバムの合言葉はズバリ「Let’s Rock n’Roll」
レニー・クラヴィッツは唄う。「ロックンロールは死んだ。」
プリンスが返す。「ロックンロールは生きている。ミネアポリスに。」
佐野元春なら何と言うだろう。「ロックンロールならここにあるさ。」
差詰め、そんな感じだろうか。
でもこのアルバムは、ギュインギュイ〜ンでガンガンなロックンロールじゃない。いや、ロックンロールっていうのは、ギュインギュイ〜ンでガンガンなだけじゃないってことを、佐野元春は示してくれる。
アルバムに収められた14の短編集。羅列されたタイトルを見て真っ先に思ったこと。恵み、希望、魂、明日、太陽…。何とポシティヴなんだろう!4年半という沈黙を破って届けられたこの作品を聴くと、そこには純粋無垢なロックンロールだけではなく、彼なりに表現した優しさに包まれていることに気づかされる。それはまるで、幼い頃に感じた母の温もりにも似た、あの優しさ。
「SOMEDAY」「VISITORS」と、80年代を代表する彼のアルバムが、「Collector’s Edition」として立て続けにリマスターされ再発された。そして、間髪入れずに今回のアルバム発売が発表された。ところが、その後事態は大きく動いた。彼がデビュー以来20年以上も苦楽をともにした古巣エピックレコードを離れることを知った時、僕は正直とてもショックだった。いろんな想像が頭を駆けめぐった。でも、彼はまた何か、大きな仕掛けを動かそうとしている、そう直感した。いつまでも過去を引きずっちゃいけない。温故知新も大切だが、新しい道を歩もう。そして、独立レーベル「Daisymusic」の設立。さらには、ファンも驚くくらいの精力的なマスメディアへの露出。何が彼をここまで駆り立てるのか。僕にはわからなかった。意地悪な評論家なら、きっとこう言うだろう。「アルバムの売り上げを伸ばすための戦略ですよ。個人レーベルではプロモーションが手薄になりますからね。」
ああ。それも一理あるだろう。でも、たったそれだけでマスメディアに出てくるなんて、彼はそんな小さな人間じゃない、と言ってやりたい。今こんな時だから、彼なりの言葉で、彼なりの音楽で、そして彼なりのスタイルで、「何か」を伝えようとしている、そうじゃないのかな?僕には何となくそんな気がする。だって、彼はもう48歳の分別ある大人なのだ。音楽評論家でもなければ物書きでもないクセに、偉そうなことをつらつらと書いているけど、僕には何となくそんな気がする。
この作品には、佐野元春の「人間性」が充満している。そして、彼のソングライターとしてだけではなく、ポエトリーリーダーとしての実績によって築き上げられた自信に満ちあふれている。いつになくありきたりの風景が展開される中、リスナーである僕は、それぞれの断片に登場する「主人公」に自分の姿を投影させながら、じっくりと作品と対峙し、そして感傷的になる。
いつになくポップなシングルと言われながら、アルバムに収められた途端、壮大なラブソングに「化けた」8。僕はこの「化け具合」が大好きだ。アルバムの冒頭を飾る1の前向きさも好きだ。2の放つ力強さも好きだ。昨今の世界情勢を強烈に皮肉った13。この皮肉加減も好きだ。4や10の持つ、明るさの陰に隠れた、どことなく寂しげな雰囲気も好きだ。
残念ながらここには、9.11の同時多発テロにインスパイアされて作ったという「光」(期間限定で公式サイトで試聴することができた)が収められていない。でも、この選択は正しいと思う。なぜなら、このアルバムは犠牲者に捧げるための鎮魂歌ではないから。これは、今生きるものへのメッセージ。彼そして我々が進むべき道は、過去ではなくこれからの未来なのだ。
何度も聴いていくうちに、久しぶりに心揺さぶられる作品と出会った、そんな気がした。
社会における「和」が次々と崩壊し、各々が利己主義に奔走する今日。
でも、我々の頭上に注がれる「SUN」だけは、いつも分け隔てのない平等な光を与えてくれる。そして、佐野元春が4年半のうちに作り出した14の断片は、太陽より暖かな温もりを僕の心に与えてくれた。
このアルバムを糧に、錆びている心に火をつけて、我が道を行こう。
国のために準備をするつもりはないが、もう一度夢見る力を奮い立たせてみるのも、いいかも知れない。

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