#1403 - 第2回イーハトーブ花巻ハーフマラソン

昨年9月、第1回大会が行われた岩手県花巻市の「イーハトーブ花巻ハーフマラソン」。
わずか8か月というインターバルを経て、今年は5月6日、よりによってゴールデンウィークの最終日に開催された。
花巻市で開催されるマラソン大会といえば、10月に「イーハトーブレディース駅伝」という女性限定の大会があるのだが、それとは一線を画した大会ということになる。

花巻市は、父の一番下の妹(つまり叔母)が嫁いだ先であり、忘れることのできない父とのエピソードがある街。その花巻市で行われる大会ならば、是非とも一度走ってみたい、いや、走らなければならないという妙な使命感に駆られ、エントリー開始早々に申込みをした。

今年の目標は、過去の自分より進化を遂げること。
僕にとって「走る」という行為は、健康診断の数値を改善することを目的とした手段の一つだった。
しかし今となっては、その目的が違う数値の改善(タイムの更新)という方向になりつつあることを否定するつもりはない。(まあ、結果として健康診断の数値も改善されているということでヨシとしよう。)

ただ、その「走る」という行為を継続する中で(気づいたら6年以上走り続けている)、大会に出ても結果に進化が見られず頭打ちになっていることに、何となく目標を見失いつつあるのかな、と考えるようになったのだ。

4月29日には大館市の「山田記念ロードレース」(ハーフマラソン)、そして1週間空けてこの「イーハトーブ花巻ハーフマラソン」(ハーフマラソン)、更に5日後(5月11日)には八戸市の「うみねこマラソン」(ハーフマラソン)と3連戦が続く。
ここ数年は春のオーバーワークが祟って怪我をするということが続いていただけに、さすがにムリはできないと思いつつ、一昨年の10月、「弘前白神アップルマラソン」で初めてハーフマラソンを走った際に記録した1時間36分12秒、この記録を更新できぬままダラダラと大会に出続けることに対する疑問というのが、ふつふつと沸き起こっていたのも事実だった。

その中で、花巻市で行われる大会にエントリーする機会を得た時点で、僕は一つの明確な目標を定めた。

「この大会で、自己ベスト(PB)を更新する。」

昨年4月、僕が各地で行われているマラソン大会で、ハーフマラソンに出場していることを知り、誰よりも驚きを隠さなかった叔母。
僕の運動音痴っぷりを知っているだけに、趣味の延長でチンタラ走っていると思ったようだ。
その叔母に僕の走りを見てもらう、いわば叔母を見返す絶好の機会だとも考えた。

山田記念ロードレースは2014年の初戦なので、自分の現状、走力を確認する。その上で、花巻ハーフでPBを狙う(八戸は状況次第ということで…笑)。こんなことを考えるようになった。
目標は、最低でも96分を切ること。願わくば95分を切ること。
その過程で僕は突然顎髭を伸ばしはじめ、PB更新するまでこの髭を剃らない、と決めた。

PB更新=髭を剃る。僕の中ではPBを更新する!と宣言するより、髭を剃る!と宣言した方が、少しは気が楽になるかな、と思っただけのことだった。(この髭がまた全く不評だったけれど。)

5月5日。先に届いていたゼッケンナンバー「#1403」を鞄に忍ばせ、いざ、花巻へ向かった。
盛岡までの高速バスのチケットを購入した時、ふとチケットの番号を見ると「3401」。何の因果か偶然か、ゼッケンナンバーと配列の異なる同じ数字が並んでいた。

ヨーデル号チケット
(右に記載された発券の整理番号が「3401」)

はて、これは何かの暗示なのかな…。
バスに乗りながら数字の並べ替えを始めてみる。
1043…3014…4013…0143…。
ん?0134!?…01時間34分!

よし、明日は思い切って94分台を狙ってみよう!実にくだらないこじつけではあるが、そんな数字の巡り合わせに宿命のような感覚を覚えた。

…盛岡到着後、迎えに来てくれた叔母夫婦の車に同乗し、一路花巻へ。
「コースの下見、しておいた方がいいんじゃない?」
そう言ってくれた叔母の厚意に甘え、ハーフマラソンのコースを下見。(実際レースが始まった後、下見しておいて本当によかったと思いました…。)

その日は叔母夫婦との談笑もそこそこに、翌朝の準備を済ませ、22時前に就寝。

花巻ハーフゼッケンナンバー
(#1403はどうやら、ハーフマラソン40代の部で3番目に早いエントリーだったらしい。)

5月6日レース当日。
夜に降った小雨は晴れ上がり、幾分冷たい風が吹いている。天気はまずまず良さそうな感じだ。
8時15分頃、叔父の車でスタート地点である日居城野陸上競技場に到着。

花巻ハーフ出走前
(実はかなり緊張しています。)

何とも例えようのない妙な緊張感に苛まれつつ、ウォーミングアップを兼ねてトラックを半周したあたりで、同じ弘前公園RCのNさんとSさんに声を掛けられた。

僕はもちろん、NさんもSさんも今日のレースに向けた目標タイムを持っている。
あとはそれに向けて、ひたすら走り続けるしかない。
誰に勝つ、負けるじゃなく、ここでのライバルは自分自身なのだ。
走っている時は孤独だ。でも、こうやって仲間がいる、決して独りじゃないという安心感が、さっきまでの緊張感を一気に和らげた。

8時50分、いよいよ号砲が鳴らされ、ハーフマラソンにエントリーした750人ほどのランナーが陸上競技場を飛び出した。
頭の中に思い描いていたのは、ここ最近の常套作戦である、前半抑えて後半ペースアップのイメージ。
特に7キロを過ぎた辺りから10キロ過ぎの折り返し、そして14キロまでは何ともイヤらしい起伏が続くので、ひたすら脚を温存しつつ我慢をするという作戦。そして、13.5キロ付近の給水を過ぎた後の下りでペースを上げ、そのまま一気呵成に直線を駆け抜けるという作戦。

…入りの1キロが4分20秒。ちょっと想定していたよりも速いが、それほど苦しさは感じない。既に他のメンバー二人は、僕の遙か先を走っている。しかし、ここで無理にスピードを上げず、中盤の起伏を考え、若干ペースを抑えた。
この日は予想以上に北西からの風が強く、日差しが強い割には気温がそれほど上昇していなかった。
結果、3キロから折り返しまでの往路はずっと向かい風となり、かなり苦戦を強いられることとなった。

3キロからダラダラと続いた直線も、7キロ付近で右折。いよいよここから細かいアップダウンが続く。

程なく現れた第3給水所。
この日、某団体のボランティアに駆り出された叔母の姿をロックオン。明らかに僕がやってくるのを待ち構えている表情だ。
走りながら「おい!」と声を掛け、叔母が手に持つスポーツドリンクをしっかりと受け取った。背後から「頑張ってー!」という叔母の声が聞こえた。

これで充分。もう、これだけでもこの大会に出た目的を果たした。
そう思いながら歩を進める。前を走る他のメンバーの足取りも全く衰えない。
10キロ過ぎの折り返し。Sさん、そしてNさんと擦れ違う。若干ではあるが差が縮まっていたようだ。
そして、13キロ付近でSさんの背中に追いついた。

折り返した後の第5給水所に、再び叔母の姿を発見。
他の方から水を受け取り、叔母とハイタッチ。
「余裕なんじゃない~?」と笑顔で声を掛けてくる。いや、正直言って余裕なんてまるでない。

しかしここから何かスイッチが入ったように一気にペースを上げ、Sさんの横に並ぶ(実は給水所で叔母が僕に掛けた声を聞いて、前を走っていたSさんが僕が背後についていたことに気づいたらしい)。
14キロの交差点を左折すると、再びほぼ平坦(実際は緩い下りになっているようだ)な道が続く。1キロを4分10秒前後でしばらく走り続ける。先方にNさんの背中が見えるが、なかなか追いつけない。

16キロ付近で時計を確認。1時間10分を越えていた。頭の中で逆算を始める。残り6キロをキロ4分半のペースで走ると、27分。1時間37分になる。しかしそんなうまく足運びが進むわけがない。
…ということは、全然間に合わないじゃないか!!なぜだ!!!

…実はここで大きな勘違いをしていたことにお気づきの方もおられるだろう。
16キロ過ぎなので、残りは5キロ。僕はこれを残り6キロだと思い込んで一生懸命逆算していたのだ。

勘違いに気づいていない僕は、もはや夢潰えたかのような気分。しかしながら、ここで脚を止めるわけにはいかない。

18キロ付近の最後の給水所。ボランティアの高校生たちが手に手に紙コップを持って、ランナーに手渡そうとしている。スポーツドリンクのブースで「いらない」の意思表示をして、水のブースで一人の男子高校生を指さし、しっかりと紙コップを受け取る。左折すれば、もうすぐゴールが近づいてくる。

しかしここで再び向かい風が僕の走りを遮る。

とにかくここでのペースダウンを最小限に食い止めないと、95分どころか100分すらも危ういかも知れない(この時点でスタートから何分経過したのかは、わからなかったというか、時計を見る自信がなくなっていた)。

残り2キロの表示が見える。あと2キロもあるのかと思うと、心が折れそうになる。
「…そう、そうやって最後は自分自身に妥協して手を抜いて、あとで後悔するんだよな。」
脳と心が小声で囁いてくる。

いや、今日は絶対折れない。自分の進化を自分自身に見せつけてやる!
20キロ地点でNさんが僕の存在に気づいたらしく、ペースを上げたのがわかった。僕も必死にそれに食らいつこうとするが、どうやら余力僅かだったようで、まるでペースが上がらず、Nさんの背中が遠くなっていく。

ゴール地点の陸上競技場が見えてきた。今どれぐらいのタイムなんだろう?自分が身につけていた時計のことも忘れ、必死にゴールゲートを目指す。先行していたNさんがゴールする姿が見える。

「…最後ぐらいは笑ってゴールしようよ。」
脳と心が再び囁く。必死の形相の中に自然と笑みがこぼれ、両手が上に伸びる。

遂にゴール!
と同時に、ハッと自分の時計に目をやる。
1時間34分12秒で、一時停止ボタンに指がかかった。

ここで自分が誤った計算をしていたことに初めて気がついた。何とも言えぬ苦笑いを浮かべながら思わずガッツポーズ。PBを2分更新して、目標クリア!!(正式タイムは1時間34分08秒。)
何と、バスの車内でぼんやりと考えていた「#1403」の並び替えが、これでピッタリとはまった。

立ちはだかる95分の壁に何度も何度も押し返されたが、初めてハーフマラソンを走ってから、2年越しでようやくその壁を越えた。

花巻ハーフゴール後
(やっと髭を剃れるという安堵の表情です。)

たかが2分、されど2分。
10キロメートルでタイムを1分縮めるということは、1キロメートルで6秒縮めるということ。100メートルで0.6秒縮めることがどれだけ大変なことかおわかりであれば、この2分という差がどれだけの重みを持つか、ご理解頂けるだろうか…。

前半抑えて後半上げる展開、前回のレースに続いて今回もこれを実践できたことが大きかった。
しかも、先週よりペースを上げても、何とか持ちこたえられた。
ただ、風の影響があったとはいえ、後半のムラのある走りは、まだまだ改善の余地ありといったところだろうか。
次のレースも4日後に控えているが、この大会に的を絞っていた手前、今はちょっと次のレースでどうのこうの、という展開が頭に浮かんでこない。
まあ、せめてコンスタントに95分を切れるような脚を作りたいんだけど、当面の目標はそこではないので…。

ということで、遠くから応援して下さった皆さんに心から感謝申し上げます。
そして、レースの間僕を引っ張ってくれた弘前公園RCのNさんとSさん、本当にありがとうございました!

20140506花巻ハーフ
(風の影響が結構あったとはいえ、このムラを何とかしないと…。)

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