『Ebony&Ivory』 / 鈴木雅之

毎日少しずつ書き足していったレビューが、ようやく完成しました(笑)。
今日紹介するアルバムは、シャネルズでデビューしてから25周年を迎えた鈴木雅之の、節目となるアルバムです。
作家陣にはゴスペラーズの面々、同年代の角松敏生、Charといった錚々たる顔ぶれが名を連ね、他にも、かつての彼の作品に関与した多くの作家陣が、再び彼のもとへと集結しています。文字通り、25周年(四半世紀)を凝縮した作品に仕上がっています。


ソロとして作品を発表して以降、大沢誉志幸、山下達郎、小田和正などといった名うてのアーティストによるプロデュースを経て、ソロアーティストとしての地位とキャリアを確立していった鈴木雅之。しかしその土台、骨組み、基礎にあるのは、Rats&Starであることはいうまでもありません。
彼が今回のアルバムで一番やりたかったのは、今回果たすことのできなかった、そのRats&Star(シャネルズ)のリバイバルだったのではないか、そんな思いがひしひしと感じられました。特に、ゴスペラーズのメンバーが絡んでいる曲を聴いていると、その想い(無念)が伝わってくるようです。
事実、デビューから四半世紀という節目に際し、Rats&Starの再集結などのプロジェクトも予定されていたようです(昨年のライブでも本人は、そういったことをやってみたいと言っていました)。
でもそれは結局、幻となりましたが…。
そして、その補いきれない「穴」を少しでも埋めようと、今回はゴスペラーズのメンバーが惜しみないバックアップをしています(もちろんそれでも鈴木自身の「穴」を埋めることは不可能でしょうけれど…)。
その他をみると、角松敏生が作詞作曲プロデュースした曲(6)では、鈴木聖美がデュエットとして参加しています。前作の槇原敬之のように、角松自身のコーラス参加もあるのかな?と思っていたのですが、結局コーラスの参加はありませんでした。それだけ鈴木姉弟の作り出す雰囲気には立ち入る余地なし、ということでしょうか。ただ、この曲に関してはイントロを一聴しただけで「あ、角松の曲だ」ということがわかりました。私の耳も、ちょっとだけ肥えたかな(笑)。
もっとわかりやすかったのが、Char作曲の作品(8)。ラブソングやバラードの歌い手を自負する鈴木にとっては珍しい、Charのギターを全面に押し出したアップテンポな曲。いきなりChar節が炸裂し、鈴木のボーカルが乗るといった感じのこの曲に関しては、最初ちょっと違和感があったのですが、慣れてくると「この手もアリか」と感服。今後の作品の方向性に、多少なりとも影響を及ぼすかも知れません(ということは、次作はいよいよ布袋が登場か?なーんてな)。
とはいえ、彼の真骨頂であるバラードは、ますます円熟味を増すこととなり、25年という歳月を過ぎても未だ変わらぬ声量、そして声質には、日本でのR&Bというジャンルを切り開いた先駆者としての自信さえ窺えます。
中でも私が一番驚いたことは、前述のプロジェクトを結果的に水泡に帰す原因となった、例の彼に捧げる曲(9)が収録されているということです。実際昨年のライブでも、鈴木雅之は彼の話題を取り上げ、世間がいくら見捨てても、仲間として彼のことは見守っていきたい、そんなことを言っていました(ところがその後彼は、再び同じ罪を犯してしまったわけですが…)。
この節目に、Rats&Starのリーダーとしてではなく、ソロアーティスト・鈴木雅之としてこの作品を出すことの無念、そして隠された悲哀は、きっと我々の想像をはるかに超えた、底知れぬものがあることでしょう。でも、どんなことがあっても、たとえ矢面に立とうとも、彼の味方であり続けよう、そんな決意も伺えるこの曲を聴いていると、ラブソングよりも深い、慈悲にも満ちた愛情(それは下世話な意味ではなく)、そして友情が感じられます。
もう一つ驚いたのは、他界した井上大輔の作曲した作品(11)が収録されていることです。00年に井上大輔が急逝した翌日、鈴木は青森のステージにいました。彼から井上に対する哀悼のコメントがあるのかな?と思っていたのですが、彼はその哀しみを押し殺すかのように、井上の曲を歌い上げたことを思い出しました。彼らのデビュー曲「ランナウェイ」を作曲したのが、他ならぬ井上大輔。そう考えるとこれも、25周年という節目を迎えた彼なりの、井上に対する感謝を込めた鎮魂歌なのでしょう。
そしてカバー曲は、ご存じBen E.Kingの名曲(10)ですが、これまでの25年間の彼の足跡を考えると、妥当な選曲なのかなと納得。
聴きどころ満載のこの作品。その背景や中身を知れば知るほど、どんどん聴き惚れていく、そんな作品です。
祝・25周年。
6月19日は、青森で彼のデビュー25周年をお祝いしたいと思います。

Ebony&Ivory
鈴木雅之
B0007WZWZY
1.Prologue〜君を抱いて眠りたい〜
 作詞:松井五郎、作曲:UZA、編曲:橘 哲夫
2.その愛のもとに(With Your Love)
 作詞:安岡 優、作曲:黒沢薫・妹尾武、編曲:中野雅仁
3.明日 〜Find our way〜
 作詞:西尾佐栄子、作曲・編曲:中崎英也
4.涙
 作詞・作曲:ハマモトヒロユキ、編曲:村山晋一郎
5.Ebony & Ivory
 作詞:松井五郎、作曲:村上てつや・妹尾武、編曲:K-Muto
6.最後のレビュー
 作詞・作曲・編曲:角松敏生
7.夢追い人
 作詞:大下きつま、作曲:松尾清憲、編曲:大野宏明
8.Body TALK
 作詞:松井五郎、作曲:Char、編曲:有賀啓雄
9.Unforgettable
 作詞:松井五郎、作曲:鈴木雅之、編曲:大野宏明
10.Stand By Me
 作詞:Ben E.King・Jelly Leiber・Mike Stoller 編曲:大野宏明
11.Passage of Time
 作詞:松井五郎、作曲:井上大輔、編曲:大野宏明
12.君を抱いて眠りたい
 作詞:松井五郎、作曲:UZA、編曲:大野宏明

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