忘れ物を探す旅(中編) #北海道マラソン2019

前編から続く】

スタート直後は抑え気味にしながら、後半は行けるところまで行ってみよう。最後は歩いてでもゴールできれば御の字なんだから。

突っ込み気味に出ることもなく、マイペースでスタート。まずは脚の具合を見ながらだ。
とはいえ脚にはやや違和感があるものの、幸いにして痛みはさほど感じない。
ただ、足取りよりも身体全体が重い感じ。確かに体重は減っていなかった。
完全に周囲の流れに乗る感じで5キロを通過。23分30秒は、まずまずといったところだろうか。

雨は止んだが風がやや強い。走っていても気になるぐらいだったので、結構な風が吹いていたということなのだろう。最初は南西から、続いて北寄りと、コロコロと風速も風向きも変わる。どうやらこのまま気持ちも天気も不安定な状態の中を走らなければならないようだ…。

7kmを過ぎ、間もなく創成トンネルに差し掛かるというあたりで、また雨が降ってきた。暑いのは嫌だが、雨で身体が冷えるのも嫌だ。豊平川に架かる橋上の風が冷たい。一刻も早く雨宿りしたい…雨から逃げるかの如く、創成トンネルを目指した。風もなく雨もない約1.6kmの長いトンネルに入る。ここで一旦呼吸を整え、少し気持ちを落ち着かせた。ああ、このままならどこまででも走れそうだ…一瞬妙な感覚に陥る。しかし、そんな感覚も長く続くはずがなく、トンネルを抜けると雨は止んでいた。札幌駅周辺の中心部、声援が多く飛び交うポイントの一つだ。
程なく10km通過。45分はちょっとペースが早いかも知れない。

いつもはセンターライン寄りを走るのだが、珍しくこの日は歩道寄りを走った。水たまりができていた箇所を避けることもあったが、何となく沿道の声援を力にしたいと思い始めていた。
ただ、相変わらず身体は重く、既にこの時点で残りの32kmを走りきる自信を失いかけていた。

実はこの後の記憶がほとんどなく、まるで走りながら寝ていたかのように、15km付近までは周囲の流れに乗って運ばれてきた感じだった。ところが、いよいよ新川通が目前と迫る17km付近から、再び雨が降ってきた。それも小雨ではなく、目を覚ませと言わんばかりの結構な雨だ。文字通り、冷や水を浴びせられるような感じだった。

あっという間に路面には水たまりが現れ、シューズやシャツがどんどん雨を吸い込み、更に重さが増していく。シューズの中がチャポチャポと音を立てながら走る心地の悪さは、何にも代えがたい。
新川通が近づくにつれて、徐々に雨脚は弱くなっていった。しかし、次なる試練が待ち受けていた。

いよいよ往復約13kmの新川通へと入る。20km、中間地点、25km、折り返し、30kmがこの区間に全て集約されている。ほぼ直線の単調な区間だが、目印さえ把握していれば、何とかやり過ごすことができるはずだった。ところが、新川通に入った途端に強烈な向かい風が吹きつけてきた。雨で濡れた身体にこの風は、かなりキツい。明らかにペースが落ちたことがわかる。
我慢、我慢と顔を引きつらせながら言い聞かせるが、脚が固まって前に進まない。何だ?どうした?痛みもないのに、何が起きた?

中間地点を通過した直後、思わず立ち止まってしまった。大きく深呼吸して足を伸ばしながら、大丈夫、まだ大丈夫と言い聞かせる。
よしっ!と大きく息を吐いて、リスタート。

しかし、一度途切れた集中力は、再び戻って来なかった。相変わらず向かい風が強く吹きつける。でも、これって他のランナーも一緒だよね。それに、今が向かい風ってことは、折り返した後は追い風じゃないか!

ようやく25km過ぎの折り返しを迎える。予想通りの追い風に変わった。この風は、大会最大のラッキーアイテム、ここで一気に挽回する…つもりが既にジ・エンド。脚が固まったまま前に出ないのだ。いや、出ることには出るのだが、すぐに止まってしまう状態。結局走っては歩き走っては歩くの繰り返し。

28km地点、コカ・コーラのエイドの横に、収容バスが待ち構えている。いっそこのままやめてバスに乗り込んでしまえばいいのだろうか。

それでも、「No Apple, No Life、頑張れ!」の声援に対して、「ありがとう!」と笑顔で答える余裕があるだけ、まだマシだろう。昨年はそれすらもできなかったんだから。

昨年並みに長いと感じた新川通が終わり、33km地点に差し掛かる。いよいよ前回駆け込んだ仮設トイレが近づいてきた。

あの時の悪夢が一瞬頭をよぎる。しかし、その方向には目もくれず、淡々と行き過ぎた。
右側には収容バスの車列。再びバスに乗るか乗るまいか、葛藤が始まる。

…ここでやめちゃうか?いやいや、それは絶対にダメでしょ!

(続く)