人の言い分、クマの言い分

クマの被害が相次ぐ秋田県。
ついこの間「東北OMマタギ体験合宿」で訪れた北秋田市でも、クマの出没が相次いでいる話を聞いた。その影響もあり、2日目に予定されていた森の散策が中止となった。正しい決断だとは思ったけれど、少し身体も動かしたいと思い、ジョギングでもしようと阿仁前田温泉駅から国道105号を少しだけ往復してきた。木々が生い茂る周囲は霧が立ち込め、肌寒さを感じるぐらいであったが、クマに襲われる危険性も孕んでいたわけで、ちょっと軽率な行動だったと反省した。

霧が立ち込める山間部。

それから約1週間後、北秋田市役所から程近い鷹巣地区、いわば北秋田市の中心部ともいえる住宅地にクマが出没、4人が襲われ重軽傷を負ったとの報道に戦慄が走った。
更に同じ日、岩手県八幡平市では、キノコ採りのために入山した女性がクマに襲われて亡くなったことが報じられていた。

青森県内もクマの出没が相次いでおり、連日のように新聞の記事になっている。
東北森林管理局が20日に公表したブナの結実状況は、福島県を除く東北5県で「大凶作」だったとのこと。

昨年はブナの実が豊作・並作だった。この翌年の春は子グマが多く生まれる可能性があるとされており、結局、クマの主要な食糧であるブナの実がないことで、冬眠前にエサを求め人里近くまで現れる、ということが、今般の相次ぐクマ出没に繋がっているようだ。

青森県西目屋村。
世界自然遺産の白神山地を抱える人口1250人の農村であり、父の生まれ故郷だ。「神からの授かりもの」と呼ぶクマの狩猟を一定の期間だけ行うマタギも生活する地域。
先日報じられたところでは、その西目屋村では、既に60頭のクマが捕獲されているという。そういえば村を訪れた先日、道の駅の販売所にある冷凍ストッカーで、クマ肉が売られていたのを見た。

ざっと計算すると、人口の4.8%に相当するクマが捕獲されたことになる。
単純計算できるものではないことは承知の上で、皆さんの住んでいる地域の人口に4.8%を掛け算して欲しい。人口10万人換算だと、4800頭のクマが地域のあちこちに現れることを想像してみてください。

「うちらの住んでいるこの界隈にはクマなんかいないよ」という人がいるかも知れないが、ともあれそれぐらいのクマが出没し、農家の生計の礎となる畑を荒らし、農作物をダメにし、更に時には人を襲い、最後は人までも喰い散らかすのだ。

少なくとも東北各地に出没するクマは残念ながら、くまモンでもなければテディベアでもない。まして、くまのプーさんのような愛嬌なんてあるわけがない。「森のくまさん」みたいなメルヘンは童謡の世界でしかなく、「お嬢さん、お逃げなさい」なんてクマが言うはずもない。

僕自身、実際にクマに遭遇したことは幸いにしてないが、熊に遭遇した人にまつわる話は、いくつか聞いたことがある。
理容店を営む親戚のところには、かつて頭部にクマの爪を立てられた人が客としてやって来るそうだ。正直、その傷跡が生々しく、思わず散髪を躊躇するぐらいだという話を聞いた。
もう一つ。
かなり以前の話になるが、岩木山麓にある名産の「嶽きみ(とうもろこし)畑」がクマの食害に遭い、猟友会に対してクマの駆除の依頼があり、数名で畑に入ったそうだ。しばらくすると、畑の中から「パン!」と発砲音が聞こえ、その方向に向かってみると、急所を仕留められたクマが死んでいた。しかしその傍では、猟銃を構えたまま、クマに顔をえぐられた猟友会のメンバーも倒れて亡くなっていたそうだ。

その一方で、クマを駆除すると「かわいそう」だと苦情を言ってくる人がたくさんいることに驚いている。それも、クマの被害がどれほどかを知らないような地域の人たちらの苦情が多いという。

動物園にいる白クマにパンダ、みんなクマ科。だからクマは優しい動物だとでも思っているのだろうか?

でも、断言しよう。
人里に出没するクマは、可愛さなんてまるでない。単なる害獣でしかないですよ。
「駆除されたクマがかわいそう。保護すべきだ。」などと宣う皆さん、そんなにかわいそうだと思うなら、自治体に電話で苦情を入れるより、実際に現場にやってきて、住宅地を逃げ回るクマの保護でもすればいいんですよ。「クマさん、どうぞ森へお帰りなさい」とクマの耳もとで呼びかければいいんじゃないですか。

苦情の電話を入れたところで、クマの被害は減らないんだよ。

しかしながら、残念ながら我々人間は、長年にわたり罪を犯してきた。
地球温暖化に異常気象、こういう状況を招いたのは、一体誰だ。
そう考えると人間にとって、こういう状況を招いたのは自業自得なのかも知れない。

青森県では八甲田山に大規模な風力発電の開発計画があったが、複数の自治体の反対を受け、事業者が撤退した。自然が護られて良かったとはいうが、一方に目を向けると、ソーラーパネルがあちらこちらに設置されている。秋田県だって、高速道路だ風力発電だと、どんどん山や森が切り拓かれているじゃないですか。野生動物も、目の前に道が開け、さぞかし人里に下りやすくなったことでしょうねぇ。

そもそもクマをはじめとする野生動物の棲み処である森林を切り拓いた人間が、その棲み処を追いやった。その結果として、それまでの棲み処を失い、食糧も失った野生動物がそれらを求めて人里に現れるのは、ある意味当然といえば当然のことと言えるだろう。

一方では増え過ぎたクマの被害に頭を抱え、一方では絶滅が危惧されると保護に走る。
そんな人間の都合に振り回されるクマをはじめとする野生動物も、迷惑を被っているのかも知れない。