(いつもより更なる長文駄文お許しを)
新型コロナウイルス感染症の感染から約1ヶ月が経過。
この間、後遺症のような症状や感覚がずっと続いていた。
- 倦怠感
突然やってくる倦怠感は、仕事中が一番辛い。とにかく何も考えず身体を休めたいという気分に苛まれる。この倦怠感が辛くて、仕事を辞めている人も少なくないと聞いているが、なんとなくその気持ちがわかる。 - イライラ
普段であれば全く気に留めないような些細なことが突然気になり始め、無性にイライラすることが何度も。特に僕の場合、表情や態度に露骨に出てしまうため、顰蹙や反感を買い、家の雰囲気を悪くすることもある。 - 味覚障害
突然バカ舌になる。色覚や触覚は正常なのに、味がわからないという状況に陥る。先日、久し振りに訪れたラーメン屋で、スープの味がわからなかった時はさすがにショックだった。ちなみに嗅覚もまだ正常ではないような気がしている。 - 夜中の咳
毎日決まって現れるのが、午前3時前後の咳。一応咳止めの薬も服用しているが、今のところあまり効果は見られない。思い切り咳き込むほどではないにせよ、しばらくの間は咳が続くので、その疲労感を残したまま朝を迎える羽目に。これが寝不足を招き、倦怠感を呼び込んでいるのだろうか。
少しずつ後遺症からも脱却していると思うのだが、まだ完全な状態とは言えない。その日も、職場内に居ながらにしての倦怠感が半端ではなく、とにかく気分転換したくなった。
ふとなぜか、無性に海が見たくなった。業務の予定を睨みつつ、明日は何もないということを確認して、休暇を取ることにした。
一口に海と言っても、青森県は三方を海に囲まれているため、どこに海を見に行くかちょっと悩む。
弘前から最も近い海となれば、車で50分程度の鰺ヶ沢町から望む日本海。津軽半島を縦断する国道339号を北上すれば、竜泊ラインと呼ばれる風光明媚な景色を眺望しながら、北端の龍飛岬に向かい、そこから津軽海峡を一望することができる。青森市から隣の平内町にある夏泊半島を一周しながら、陸奥湾を眺めるというルートもあるし、思い切って八戸市まで足を伸ばし、太平洋沿岸を北上するというルートもあるだろう。
さて、どうしよう…。小さな悩みに心躍らせながら、朝を迎えた。
この日、県内で雨の警報が発表される可能性が【中】であることを確認。
何食わぬ顔で起床し、何食わぬ顔で朝食を取り、何食わぬ顔で家を出た。ただし、向かった先は弘前駅ではなく、鰺ヶ沢町。いっそのこと途中でジョギングでもしようかと、着替えやタオル、シューズも車に積み込んだ。どんよりとした雲が立ちこめ、今にも雨が降りそうな雰囲気。10分もしないうちに、雨がポツリポツリとこぼれ始めた。
車を進めるうちに、雲が徐々に高くなっていくのがわかった。雨も止んでいる。これは、鰺ヶ沢町に着く頃まで持ち堪えられそうだと思った。
しかし、鰺ヶ沢町が近づくにつれて、徐々に雨粒が大きくなってきた。出発から約50分後、津軽港に着く頃には、傘が必要になる手前の雨となっていた。
鉛色の空。鈍色の海。
灰色に包まれた景色の中に身を委ねる。
さて僕は何をしたいんだろう。この後、どこに行きたいんだろう。
行く当ても目的もない、一見無意味とも思える休暇が始まった。
ひとまず今日は何があっても職場に近づかないことにしている(万が一災害が起きても登庁できないことを宣言してきた)ので、反対方向に向かうことにしよう。せっかくなので「道の駅ふかうら」を目指して、そこで魚でも買って帰ろう。
海を見て少しは気分が晴れるのかと思ったが、雨のせいで気分はモヤモヤしたままだった。せめてもの救いは、好きな音楽を聴きながら、自分の好きなペースで自分の思うままに車を走らせることができること。
右手の眼下に日本海を望みながら、国道101号を南下する。雨脚は強くなったり弱くなったりを繰り返している。そういえば、6年前に深浦町で国民保護の訓練が行われた時も自分の車を走らせたが、その時よりも道路が改良されたような気がするし、沿道には大小様々な風車が圧倒的に増えた。
しかし、道の駅を目指すにはあまりに時間が早すぎた。時計を見たらまだ8時30分前。道の駅ふかうらの営業開始は、9時からだった。店が開くのを待っているのは時間がもったいない。仕方がないので、そのまま南下を続けることにした。
…あ、そうだ。いつか一度立ち寄ろうと思っていた驫木(とどろき)駅を目指そう。
道の駅を過ぎれば、目的地までは10分とかからない。ちょうど弘前に向かうと思しき五能線の列車とすれ違ったばかり。駅に誰かいる、ということもないだろう。
先日の雨の名残だろうか、道路脇の法面には崩れた箇所が複数見受けられた。
鰺ヶ沢町の中心部が冠水したのは去年の夏のこと。その影響がまだ残っているところもあった。
バイパスから分岐する旧道に入ってすぐ右手に、目的地の駅は佇んでいた。
車から降りると、雨はほとんど降っていなかった。
1934年に開業した無人駅。ホームに立つと、海の音と風の音が聞こえてくる。
ようやく訪れることができたという満足感と、何とも言えぬ孤独感。不思議な気分に包まれながら、しばらくホームの上を行ったり来たりしていた。誰もいなかったから良かったものの、傍から見ればかなり怪しい人だったかも知れない。
さてと、ここからどうしよう。
何をしたいんだ。どこに行きたいんだ。答えの見つからない放浪はまだ続く。
ふと、温泉が頭を過った。
ジョギングすることを念頭に置きつつ、風呂道具も着替えも準備している。気温は20度を下回っているし、雨も降っている。行き当たりばったりでいいから、沿道にあるどこかの温泉に立ち寄ろう。
もう一つは、7月に起きた土砂崩れの現場をこの目で確認すること。そこまで目的が決まったら、そこから引き返すのはナンセンス。秋田県に入るしかないだろう。
鰺ヶ沢町が勤務地だった時、一度だけ秋田県境まで来たことがあるが、既に20年以上も前のこと。当時の記憶なんて朧気だし、実際、20年間の栄枯盛衰でさまざまな変化があったのだ。当時のことを思い出しつつ、ちょっとノスタルジックな気分に浸っていた。
県境の手前数百メートルに位置する災害現場を通過。すぐ右手にある路側帯に車を停め、遠巻きにブルーシートの被せられた斜面を見る。国道を挟んだ斜面の下には町道も走っている。現場が人家の密集しているところでなかったことは、本当に不幸中の幸いとしか言いようがない。
現場を離れ、いよいよ秋田県に入る。ここから先は、実はこれまで進んだことがない。
程なく現れたのは「道の駅はちもり」。
こぢんまりとした建物がぽつんとある。「お殿水」なる湧き水が有名で美味しいらしいが、この時点で雨は本降りに。肌寒さも相俟って湧き水どころではなく、すぐに退散した。
時刻は9時半。そういえば、温泉はどこだろう。岩館駅を過ぎ、海が広がっていた景色もだいぶ変わってきた。
…と、突如現れた温泉!
「八森いさりび温泉ハタハタ館」 とは何ともベタなネーミングだと思ったが、ここを逃したらしばらく温泉には辿り着けない、そんな予感がして車を停めた。駐車スペースも広いが、物販施設も充実している感じ。しかも、国道を挟んだ反対側には、五能線の「あきた白神駅」があるという利便性。
「道の駅はちもり」よりも道の駅っぽさがあると思ったら、どうやら実際に道の駅の移転計画が立ち上がっているらしい。
建物の中に入り、フロントで500円を払い、中へと進む。さすがに平日の午前ということもあり、客の姿はまばらだった。
サウナに露天風呂も備えた、結構立派な温泉施設。
温泉分析表によると、泉温は56.8℃ だか使用位置では42.0℃と、まずまずの熱さ。内風呂は泡風呂ほか浴槽が3つと、水風呂が一つ。
ちなみに、雨が降る外の露天風呂が一番熱く感じられた。
泉質は中性の硫酸塩泉そしてナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉
しばらく湯船に浸かりながら、沈思黙考。
…さて、僕はこの後何をしたいんだろう。まあ、いいや。
折角もらった休みなんだ、自分の好きなように使わせてもらおう。
45分後、風呂から上がり、再び車に乗り込んで南下を開始。所期の目的は達成された。あとは自由気ままに、と行きたかったが、雨脚がどんどん強くなってきた。青森県の天気も気になる。ほぼ間違いなく今日は、警報が発表されるのだ。
結局、国道101号を左折、八峰町役場前を通って能代市の東側へ。そのまま秋田道へと進む。
「道の駅ふたつい」に着く頃には、雨が本格的となり、さっき通過したばかりの八峰町でも警報が発表になったことを知る。
時間を見ると、まだ11時過ぎ。道中あちこちに立ち寄ったこともあり、疲れはほとんどなかった。
このまま弘前市内まで車を走らせるか、途中で昼食にありつくか。
再び秋田道に進路を取り、大館方面へ。大館能代空港ICで下車して母の実家を訪れることも頭をよぎったが、平日ということもあり、控えることにした。
最後の迷いは、大館市で振り切った。大館北ICで下車し、大館市中心部に入る手前の「ラーメン錦 大館本店」を数年ぶりに訪れ、味噌ラーメンを食らう。
…うまい。
舌の先から喉の奥まで、スープの味、ネギの食感、麺の喉ごしを堪能することができた。不覚にも妙な感動を覚えた。
帰路は国道7号を北上。14時過ぎ、約7時間半に及ぶ放浪の旅を終えて弘前に帰着した。
帰宅して程なく、予想通り大雨と洪水の警報が発表されたが、おとなしく自宅に引きこもっていた。
というよりも、一気に疲労がやってきたのか、急激に身体がだるくなり、ひたすら惰眠を貪っていたという顛末。
まあ、たまにはこういう休みがあっても、いいじゃないですか。