#吉川晃司 「OVER THE 9」ツアー #仙台公演 (2)更なるサプライズ

【ツアー中なのでセットリストの公開はありませんが、ネタバレとなる要素が一部含まれています。ご留意ください。】

いつか行こうと思いながら、なかなか踏ん切りがつかないまま29年。ようやく2度目となる吉川晃司のライブに足を運ぶことができた。

50を超えたいい年扱いたオッサンが、独りで吉川晃司のライブに足を運ぶということへの躊躇を捨て、こんなオッサン一人ぐらいいてもいいだろうという開き直り。行く以上は思い切り楽しもう、と思った矢先に発生した、座席が重複するというあり得ない事態。

開演前から思い切り出鼻をくじかれたワケで、もしもこのまま公演中止になったら、騒乱が起こるんじゃないかといった不穏な空気も一瞬流れたが、大半の人は結構冷静沈着で、そこは皆さんがいい大人になった証左。

そういう意味では、吉川氏本人もさることながら、我々観客も齢を重ねた、ということなのだろう。もしもこれがもっと若い世代ばかり、例えば10〜20年前に起きていたら、間違いなく騒動が大きくなっていただろうし、収拾がつかない状況、そして公演中止という事態にも陥っていたことだろう。開演前の1階席で、席を巡る怒号を一切耳にしなかったのは、せめてもの救いだった。

仙台出身のサンドウィッチマンより。

さて、普通であれば起こり得ないそんな騒動も何とか収束の方向に向かったようで、開演時間から約40分遅れでようやく客電が落とされ、ライブが始まった。冷静沈着に状況を理解したファンの寛大さに感謝するのみ。これで中止になっていたら、間違いなくその場で泣き崩れていたと思う。

さて、肝心のライブの内容。

29年前のライブの記憶はほとんど薄れているが、もっと刺々しさがある感じだったのだろうけれど、黒を基調とした衣装を身に纏ったその佇まいに、思わず息…いや生唾を飲んだ。か、格好いい!

最初のMCで「チケットのトラブルがあったようで、申し訳ない。」と謝罪したけど、吉川さんは何も悪くないから。

しかし、確保した2階左寄りの席からは残念ながら、ステージの全貌が見えない(背の高いスピーカーと、ドラム、ベースが丸被り。よって、彼らの動きはほとんど見えずじまいだった)。更に、本人は右足を前にして立ち振る舞うため、横顔ばかり眺めているような感じだったが、この会場で、同じ空気を味わえればそれで充分だった。加えて、力強さに円熟味が備わった圧倒的な声量は、破壊力抜群。開演前に起きたことなんぞ忘れかけていた。

ツアー中なのでセットリスト全てを明かすのは止めておこうと思うが、新しいアルバムを引っ提げてのツアーなので、半分近くはアルバムからのナンバー。それ以外にも、ここに来てその曲をやるのか!といった、長年のオールドファンが喜びそうな楽曲から、誰もが知るあの曲まで、実に幅広い選曲だった。

強いていえば、個人的にもっとも好きなアルバムに挙げる「MODERN TIME」や「A-LA-BA・LA-M-BA」からの選曲もあれば良かったのになあ、と思ったけれど、あれとかあれとかも聴けたので、もう満足。というか、20枚もアルバムを発表していたら、むしろセットリストに加える楽曲をチョイスする方が大変だろうし。

いっそのこと誰かみたいに、アルバム丸々1枚演奏する、なんていうライブのもあったら面白そうだなあ、とか思ったりして。

それにしても、会場全体に響き渡る圧巻の重低音ボイスといったら、もう唯一無二と言っても大げさではないのではないか。身体のキレも相変わらずで、シンバルキックを決めること複数回。失敗もあったけど、それも含めて、一つ一つの所作が格好良すぎなんだって!

ハードなナンバーが続いたからだろうか、MCの回数が思ったよりも多かったが、その内容は決して尖ったものではなく、バンドメンバーとの掛け合いでステージ上からも会場からも笑いが起こるという、以前であれば考えられないようなものだった。年齢を重ねる毎に棘や角が取れ、さまざまな物事も許容する、帝国重工の財前部長のように真面目で謙虚、そして、大河内教官のように厳しさと優しさを兼ね備えた男性。

57歳となった吉川晃司は、そんなカッコいいオトナになっていた。

東日本大震災の後、石巻市で密かにボランティア活動をしていたことは有名な話。COMPLEXの復興支援ライブの際、「今日この会場に集まった我々は、同じ志を持つ、同志となりました」と語っていた。かなり誇張した言い方をするならば、僕にとっての吉川晃司とは、いつまでも憧れであると同時に、こういう人物像でありたいと思わせるような「同志」なのだ。

ライブそのものは約2時間と、ここ最近観ているライブの中ではかなり短いようにも感じられるが、何せ中身が濃いので、終演後に時計を見て、「えっ?たった2時間しか経ってないの?」と逆に驚いた。

既にTwitterなどでも情報が上がっているのでここでも明かすと、アンコールの時に吉川氏から「陰のバンマス」と紹介され、ステージの袖から登場したのは、何とサンドウィッチマンのお二人!(贈り物の花は伏線!?)しかも、登場するなり富澤さんまでもが「チケットどうもすいません」と謝罪する始末。

伊達さんは「いやぁ、今日こそ『白松がモニカ』を持ってくれば良かったですね!」と会場の爆笑を誘い、ホントいい感じでアンコールの最後を迎えることとなった。しかし、ライブの途中から何かフワフワした様子に見えていたのは、このことがあったからなのかな。

一度ステージから下がった二人が再び呼び寄せられ、あの曲を3人で歌うという、何だかとーっても不思議なステージを観ながら、最後は万雷の拍手を浴びながら皆さんがステージから去っていった。

ステージ下でカメラを回している人がいたので、恐らく番組(これまでの流れを考えれば、多分TBS系列の「バナナサンド」かな)で取り上げられるのではないかと、ちょっと期待したいな。

いやぁ、いいライブだったなあ、と感慨に浸ろうとしていたところに、吉川氏と入れ替わりで主催者が登壇。もはやどうでも良くなったのか、「大変申し訳ありませんでした!」との謝罪に、なぜが拍手が起こるという、違う意味でのカオスを見ながら、少しでも余韻に浸りたく、そそくさと会場を後にしたのでした。

ツアーファイナルは武道館。翌日の撮影は、WOWOWかな?

次、いつ観られるかわからないしこれが最後になるかも知れない。そんな思いで足を運んだ吉川晃司のライブ。

色んなことがあったが、それも全部引っくるめて、本当に行って良かった。

ちなみに、今回の顛末については主催者とアーティスト側双方がサイトに掲載。
アーティスト側の内容は、主催者の発表を転載したものとなっていたが、経緯はともかく、関係する会社名を明らかにしたところで、もはや誰の得にもならないし、溜飲を下げる内容ではないよね、主催者さん…と思ってしまった。

主催者発表と同じ内容を掲載。

まあそれはともかく、久し振りに生で観た吉川晃司はやっぱりとても輝いていたし、一生に一度あるかないかのトラブルも含め、決して忘れることのできない、屈指のライブとなったことは間違いない。(一部敬称略)

余韻に浸るため、牛タン。美味しかった。