クロスオーバー・イレブンと「America」 #prince


2010年に制作されたにも関わらずお蔵入りとなり、昨年、突如発売されたPrinceのアルバム「Welcome 2 America」。発売直後に小恥ずかしいレビューじみた内容を投稿したが、そういえば僕がPrinceにのめり込むきっかけとなった曲のタイトルが「America」だった、ということを思い出しながら、ふと感慨に耽っていた。

Princeの名声と地位を確固たるものとしたアルバム「Purple Rain」の次に発表されたアルバム「Around The World In A Day」に収録され、85年にシングルカットされた「America」は、12インチの曲の長さが21分を超えるということで有名。曲調はといえば、延々と同じループが続き、そこにギターをはじめ色んな音が少しずつ被さるというもので、単調といえば単調なのだが、個人的には不思議なことにずっと聞いていられる音なのだ。

シングルのジャケットを飾るのは、アルバムジャケットの裏面に登場していた少年

昔むかし…といっても今から40年近く前、僕が洋楽にのめり込むきっかけとなったのが、中学1年の時に出会った洋楽好きの同級生に感化されたこと、そしてもう一つが、FMラジオだった。とはいえ、その頃の青森県内はNHK-FMしか聴くことができなかった時代。(県内初の民放FMとなるエフエム青森がサービス放送を開始したのは87年3月。)

弘前市内にレンタルレコード店はいくつかあったとはいうものの(レンタルCDが出てきたのは確か高校2年の頃からだ)、音楽のソースをほとんどFMラジオから得ていたということもあり、日々のタイムテーブルが掲載されたFM雑誌を購入しては、エアチェックの毎日だった。

そんな中でも、NHK-FMで23時から放送されていた「クロスオーバー・イレブン」は、実に貴重な番組だった。米英のチャートを賑わす楽曲や、発表されたばかりの新曲をいち早く流していたのはもちろん、国内ではなかなか入手が困難なリミックス盤、すなわち12インチに収録されていたバージョンの楽曲も惜しみなく流していた。僕が色んな音楽に出会い、そして色んなアーティストを知るきっかけとなった番組であったことは間違いない。

曲の間に織り込まれる津嘉山正種さんのストーリーテラーも、いかにも深夜番組っぽい感じで全体にオシャレ感を出していた。

FM雑誌のタイムテーブルに掲載されていたのは、楽曲名、アーティスト名と曲の長さ。そんな中で目が点になったのが、Princeのこの曲だった。1曲で22分近くって、どういうこと?この曲だけで、わずか1時間の音楽番組の3分の1を潰してしまうってこと?印刷間違いじゃないのかなあ。…放送当日、カセットテープをセットし、録音に勤しむことに。…結局ノーマルカセットテープの片面23分は、丸々この1曲が収まってしまった。やっぱりなんか変わってるわ、Princeって。

これが、Princeに対してふつふつと湧き始めた「興味」の第一歩だった。

中学1年生だった当時、誰もが知る世界のスーパースターとしてMichael Jacksonが世の中を席巻する中、Princeはヒールというかヴィランのような扱いで、僕自身も当時チャートを賑わせていた「Purple Rain」には全く興味がなかったし、全米1位を獲得した「Let’s Go Crazy」を聴いた時も、雄叫びのような奇声、金切り声を上げる気色悪い人、という、むしろ嫌悪感ばかりを抱いていたぐらい。

しかし、「食わず嫌い」は損をする、人は見た目だけで判断してはいけない、ということを教えてくれたのは、Princeだった。

参考までにPrinceの楽曲では、1998年にPrinceの変名プロジェクトでもある The New Power Generation名義で発表した「The War」という楽曲が、1曲の長さとしては26分に及んでいる。公式サイトからオンライン購入したCDに同梱されていたプロモーション用のカセットテープには、両面に同じ曲が収録されていた。

多くのファンが持っているであろうカセット

冒頭で出てきたアルバム「Welcome 2 America」「The War」そして「America」をはじめ、Princeの楽曲には、その時々のアメリカ社会や世相をつぶさに読み解き、そのことによって生じている混迷や混乱に対して警鐘を鳴らすようなものが多い。(ある時期を境に宗教色の濃い楽曲も一気に増えたが。)

世界は相変わらず混迷を極めているけれど、Princeだったら今のこの状況をどう俯瞰し、そしてどういう音楽で表現していただろうな、ということを、没後6年経った今でも思うことがある。

Americaの12インチは33回転

最後にお知らせ。
僕のプリンス仲間はさまざまな人がPrinceにまつわる書籍を発刊していて、実はまだ読み切れていないのもあるのだが、アルバムをはじめとする関連作品の全レビューを掲載した画期的な書籍がつい先日発刊されたので紹介。通勤途中の電車内でもめくれる新書サイズというのが、僕にとってはとてもツボなのだ。もしよかったら手に取ってみてください。