岡村ちゃんと美里さんと私

(今回も長いです。原稿用紙約8枚、そして今回も敬称略ごめんなさい。)

僕が岡村靖幸のファンであることを公言して30年以上が経つ。

当時、岡村靖幸の凄さを同級生をはじめ同期の面々に広めたのは自分だという自負を抱いていたが、今思えば、それは僕の自惚れだったのだろう。

事実、岡村靖幸のデビューにはあまり興味がなかったし、お世辞にも歌唱力が高いとは言えないくせに、唯我独尊的フェミニズム全開の佇まい、斜に構えた気怠さのような雰囲気、そして当時、僕自身が大して興味もなかったプリンスに擬えられることの奇妙感が、デビューアルバムの「yellow」に、全くと言っていいほど食指の動かなかった要因の一つとなった。

しかし、伏線があった。

岡村靖幸がデビューする前、個人的に猛プッシュしていたのが渡辺美里だった。

ケニー・ロギンスのカバー曲「I‘m Free」でデビューを果たした彼女、続けて発表された「GROWIN’ UP」を初めてラジオで聴いた時の衝撃は、相当なものだった。

この曲ですっかりハートを鷲掴みされてしまった僕は、美里ファンを標榜するようになる。

1stアルバム「eyes」の後、満を持して発表されたシングル「My Revolution(ご存じ小室哲哉作曲)」で遂にブレイクを果たし、続く2作目のアルバム「Lovin’ You」は、彼女のオリジナルアルバムとしては、最初で最後の2枚組として発売された。

発売日当日にアルバムを購入した私、予約特典でもらったポスターを部屋の壁に貼り、すっかり意気揚々。クラスメイトに懇願して土曜日朝に「日弘楽器」でコンサートチケットを入手してもらい、初の青森公演にも足を運んだ。(今思えば、この頃から急に活動範囲が広がった気がする。)

そしてこの過程で、実は岡村靖幸がこのアルバムに深く関わっていることに気づく。

何と、20曲中8曲も楽曲提供しているのだ。(ちなみに岡村ちゃんが渡辺美里に提供した楽曲数は、23に上るらしい。)

更に、彼が作曲した楽曲がまた、彼女の作品の中でも名曲揃いなのである。

当時はあまり気にしていなかったのだが、熱狂していた「GROWIN’ UP」が彼の作曲だったということを知った時に初めて、岡村靖幸って実はスゴい人なのかも知れない、と思い始めた。

余談ではあるが、渡辺美里がブレイクしたあと、シングル盤のA面B面の作曲陣は、小室哲哉と岡村靖幸が顔を並べるということが幾度となく繰り返された。今思えば、すげえ贅沢な組み合わせだったんだなあ、と。

閑話休題。

1988年3月21日、鈴木雅之のアルバムを購入するつもりで訪れた、弘前市周辺の同世代なら知らない人はいないであろう土手町の「JOY-POPS」。欲しかったアルバムの発売が1か月遅れることをそこで知り、なぜか別に欲しくもなかった岡村靖幸のアルバムを購入して出てきたことが、岡村靖幸にハマるきっかけとなった。

何で興味もないはずの岡村靖幸のアルバムを購入したのかというと、渡辺美里に提供した「19歳の秘かな欲望」のセルフカバーがアルバムに収録されていたからだというのは、今だから明かします。

ちなみに渡辺美里は、TM Networkのアルバム「GORILLA」にコーラスで参加していたが、結局、岡村靖幸のアルバムには一度も参加したことがないはずだ。…というかこの頃は、岡村自身が独作にこだわっていたからなのだろう。(しかしこの頃のEpicは、泣く子も黙る飛ぶ鳥を落とす勢いだった。)

さて、僕が岡村靖幸にどっぷりハマる伏線となったのが、実は渡辺美里だった、ということを今日はお伝えしたかったのだが、渡辺美里と岡村靖幸がタッグを組んだ楽曲、知っている曲知らない曲も含め、ホントに名曲が多いので、今日は改めて僕が好きな岡村靖幸が提供した渡辺美里の楽曲を紹介したいと思う。

若かりし頃、渡辺美里と岡村靖幸の音楽があったから、今の自分がいるんです。といってもいいぐらいなのである、実は。

○GROWIN’UP

もともとプロの作曲家として活動を開始した岡村靖幸が初めてアーティストに提供したのがこの曲。何だろう、僕自分が50歳を超えてもなおこの曲に元気をもらえるのは、この曲から発せられるエネルギーと勢い、未だにそれに支えられている感じ。親友(My Friends)や自分の夢(My Dreams)とともに成長(GROWIN’ UP)していくという気持ちは、いつまでも失いたくないものです。

○Lovin’ You

2枚目のアルバムの最後を飾るタイトルナンバーは、「ジャニス・ジョプリンに捧げる」という副題が付された、ピアノの旋律が美しい曲。この曲を聴くたびに、高校に入学してから、僕の人生の礎と言っても過言ではない、無二の親友達と過ごした多感な時期を色々思い出す。ちなみに、岡村靖幸が発表したアルバム「操」の完全受注生産限定盤に収録されたカバー作曲集の中で、サザンオールスターズの「慕情」を披露した直後、この曲のライブでのピアノ弾き語りがシークレットトラックの如く収録されている。

○飛べ模型ヒコーキ

2週連続で1位を獲得した5枚目のアルバム「Flower Bed」に収録されたこの曲は、シングルではないのに非常に人気の高い曲。メロディライン、歌詞、光景が浮かび上がるような楽曲の奥深さは、どれをとっても他の楽曲に全く引けを取らず、彼女にとっての名曲中の名曲と言っても過言ではないだろう。ちなみに岡村靖幸本人は楽曲提供のみで全く参加していないが、佐橋佳幸の奏でるギターの音色が彩りに華を添える。

○シャララ

4週連続1位を獲得した4枚目のアルバム「ribbon」に収録されている。ちなみにこのアルバムでは、「19歳の秘かな欲望」の新録(The Lover Soul Version)がシャララの次に収録されおり、岡村靖幸の提供曲を続けて聴くことができる(岡村ちゃん提供曲のアルバム収録はこの2曲のみ)。「シャララ」というタイトルの楽曲は無数にあるが、これほど心地よい「シャララ」は恐らくないのではないか。これが岡村靖幸提供だというのが不思議なぐらい、爽快な曲。

○ジャングルチャイルド

8枚目のアルバム「BIG WAVE」に収録。アルバムのサウンドプロデューサーは小林武史、参加ミュージシャンは小田原豊に佐橋佳幸、山本拓、三沢またろうなど、超豪華メンバーが名を連ねる。そんな中、この曲は2曲目の「Overture」から続くファンキーな楽曲で、岡村靖幸本人も葛城哲哉とともにギター、そしてコーラスで参加。ある意味、一番岡村靖幸らしい曲というか、岡村靖幸の破天荒っぷりが垣間見える1曲ではないかと思っている。そしてこの曲に続く「BIG WAVEやってきた」も岡村靖幸による作曲で、サビのコーラスにはデーモン小暮が参加しています。

ちなみにこのアルバムを最後に、岡村靖幸の楽曲提供はされなくなり、僕もこのアルバム以降、渡辺美里のオリジナルアルバムに触手を伸ばす機会がガクンと減っていった。

先日、Spotifyに渡辺美里のカタログがあるのを見つけ、「eyes」から順を追って8作目までダウンロードして聴いてみたけど、10代から20代前半の若かりし頃を思い出しました、ハイ。

ということで今回は、岡村靖幸が渡辺美里に提供した楽曲から5曲紹介してみたけれど、岡村靖幸の提供曲のセルフカバーってほとんどないんだよね(前述の「19歳の秘かな欲望」、「ビバナミダ」の再発盤に収録されたMEGの「スキャンティブルース」と櫻井敦司の(BUCK-TICK)「SMELL」ぐらい)。作詞陣が異なるという壁はあるにせよ、今後、Princeの「Originals」みたいな作品にもちょっと期待したいなあ。

(←男性ボーカルの楽曲をカバーしたアルバム)