Sign O’ The Timesのスーデラ盤に関して思ったこと #Prince #SOTT

プリンスが旅立ってから4年が過ぎた。この間、彼の遺した数々(というには足りないぐらい余りあるぐらいの)作品にまつわるすったもんだの末、思いがけず我々ファンはその遺作のほんの一部に触れる機会を得た。もしも存命であれば、こんな形で作品になることはないであろう数々の作品。決して我々の手に届くはずのないであろうそれらを耳にするたびに、ちょっと複雑な心境に苛まれる。

ピアノで即興を興じたデモテープを集めたような「Piano & A Microphone 1983」、そして彼が他のアーティストへ提供した楽曲のオリジナルバージョンを集めた「Originals」。更には、デラックス盤と称して発表された過去のアルバムのリマスター盤に収められた未発表曲の数々。その中には、海賊盤で耳にしたことのある曲もある一方で、全く聴いたことのない曲も多数あった。

プリンスといえば「Purple Rain」が代表作として知られているが、今回、彼のキャリアの中で最高傑作とも評されている「Sign O’ The Times」のリマスター盤が発売されることとなり、その内容にファンが騒然となった。

もともと2枚組のアルバムだったのだが、そのリマスター盤はもとより、シングル・バージョンとカップリングや12インチ盤の楽曲を収めた1枚、更には未発表曲を収録したCDが3枚、そして未発表のライブの模様を収録した2枚のCDと、CDだけで計8枚、これにDVD1枚を同梱した、完全生産限定の「Super Deluxe Edition」(デラックス盤)を発売するとアナウンスされたのだ。

税込19,800円という高額商品ながら、ファンとしてはこのアイテムはマストバイである。躊躇することなく予約を終え、発売される日を待ち続けた。

発売までの間、サブスクで作品に収録予定の未発表曲が先行で数曲配信されたり、雑誌で特集が組まれたりと、期待感をどんどん掻き立てられることとなった。デラックス盤については、「Purple Rain」や「1999」も発表されたが、今回の作品については、恐らくそのいずれをも上回る期待感が寄せられていることを、SNSを通じて強く感じた。

いよいよ発売当日、自宅に配送されてきたそれはずっしりと重かった。そりゃそうだ。8枚のCD、1枚のDVDが同梱されたLPサイズのデラックス盤なんだから。

開梱を終え、一つ一つのマテリアルを手にしてみる。

聞く話だと、同じディスクが入っていたり、一枚足りなかったりというトラブルもあったようだが、幸いにして僕の手元に届いたそれは、完全なる姿でパッケージされていたようだ。

全ての曲に対する感想を書いていたら、それこそ文字数がどこまで増えるかわからないし、「いつもダラダラ長い」という聞こえないフリをしている苦情もあるようなので、割愛。

8枚のディスクに92曲も収録されていることにも驚きだか、そのうち63曲が未発表曲だというのだから、ファンとしては垂涎どころか、身体中から溢れ出る汁と液を受け止めるバケツ一つぐらい抱えて聴かなければならないぐらいのボリュームなのである。(5枚のCDに収録されており、ライブ盤の23曲を含む)

しかしながら、この未発表曲の数々は、プリンスが生前に遺したいわゆる「お蔵入り」の楽曲であり、過去には「海賊盤」の音源として出回ったものも含まれている。もっとも、このアルバムが発売された1987年前後は、プリンスが最もワーカホリックを極めていた時期とも言われており、オリジナルの2枚組アルバムになる前は3枚組での発売を企画していたことや、それ以外にも複数のアルバムを発表できるだけの楽曲が揃っていたらしいし、今回のこのスーパーデラックス盤に収録された楽曲ですら選定されたものだというので、プリンスの楽曲群はもはや底無し沼と言ってもいいのだろう。

恐らくプリンスが存命であれば、こういう形での作品化はあり得ないと考えるのが自然だろうし、今は申し訳ないけれど、プリンスの「遺産」の一部、いや、「才能」の一部を思う存分堪能させてもらおう、というのが正直なところだ。

それにしても「Purple Rain」以降に発売された4枚のアルバム、個人的にはこの4枚がプリンスにとっての絶頂期だと思っている。事実、代表作が「Purple Rain」だとすれば、「Sign O’ The Times」はプリンスの最高傑作と呼ぶ声も少なくない(僕もそう思う)。

ただし、この後にプリンスは浮き沈みの激しいジェットコースターのような混迷期を迎えることになるのだが、前述のとおり、このアルバムが発表される前後に名前が挙がっただけでも、「Dream Factory」、「Crystal Ball」、そして発売直前に急遽お蔵入りとなった「Black Album」というタイトルのアルバムがあったことを考えると、実はこの頃から彼自身がどういう方向性のアルバムを出すべきなのか、悩み始めていたのかも知れないと思ってしまう。

裏を返せば、この頃は本当にいろんなジャンル、そしていろんな形態の音楽、様々なアーティストが世に出始め、そしてそれ相応のセールスを上げていたということも言えるだろう。

個人的にはこの「Sign O’ The Times」こそが、まさにプリンスにとってのレガシーであり、同時に、混沌とするその後の彼のキャリアへの「サイン(警鐘)」だったのかも知れないと勝手に思いを寄せている。

そもそもデラックス盤自体がプリンスのコアなファン向けの作品だっただけに、既に取引価格が倍以上に高騰しているため、ここでは通常盤をお勧めしたい。

もう一つ驚くべきは、このモンスターみたいな作品が出た直後に、既にファンの興味が「次のデラックス盤は何だろう」という方向に向いていたことだ。

プリンスファンの欲は、まさに飽くことはないのだ。