地域再生をちょっとだけ考える。 #地元がヤバい本

今から20年近く前のこと、僕がまだ20代の頃だった。
父が弘前に持ち帰ってきたのは、東京都内にある商店街でのある取組が記録された約30分のビデオテープ。一緒に観た(いや、観せられた)記憶があるが、正直言って内容はほとんど覚えていない。
その後、父は何かに駆り立てられたかのごとく奔走し、「土手町に空き缶回収機を置く。」という形にしてしまった。

概要は2015年9月の記事の冒頭で触れているので、興味があればご参考に。

一つ言えることは、このことが契機となり僕自身が何となく地域づくり等の分野に興味を持ち始めた、ということだろう。そう考えると、やはり父は僕の反面教師…いや先生であり、礎だった。

数年後僕は、商工関係の業務に就いた。
ここで商工会議所や商工会等といった関係機関の方々と接し、さまざまな地域の取組があることを知り、更にはそこで実を結ぶもの、結ばないもの、色々事例があることを改めて知ったのもこの時だった。
実際に現地へ足を運び、そこで人を知り、地域を知ることの重要性、何となくそんなことを学んだような気がした。業務に就いたのは僅か3年間だったが、僕にとってとても充実したものだったし、今だから明かすと実は、残留を希望したぐらいだった。

一言に地域振興といっても、その背景にあるもの、例えばその地域の地理的な要因や歴史、更には人間関係といったさまざまな要素が相まっている…と、まるで知ったような口を利いているが、所詮僕は単なる凡人。別に地域振興や地域活性化に対する造詣が深いわけではなかった。

最たる例は、まだ「十和田バラ焼き」が今ほど知名度を高めていたかった頃、商工会議所が「十和田バラ焼き」をB級グルメとして売り込もうとしていた時に、「そんな、バラ焼きなんて何が珍しいんですか?」と反応してしまったことだ。地域の特性や歴史、文化を全く知らないままこういった発言をしてしまったことは、恐らく地元で嘲笑の対象となったことだろう。思い出しただけでも赤面してしまうが、裏を返せば同じ青森県内ですらそれだけ知らないことがたくさんあった(いや、今もある)ということだ。

ましてや日本国内に目を向ければ知らないことだらけ。そう考えると、極端な例だが国が音頭を取りつつ、同じ切り口、同じ着眼点で堰を切ったように「地域活性化」を声高に叫んだところで、本当に反響があり、そして未来志向の結果を生み出すところなんぞ、片手に余るかどうかではないだろうか。

冒頭で紹介したビデオテープの内容に携わっていた方が、木下斉さん。その木下さんの書籍「地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門 」は、恐らく地域振興、活性化という名目の何かに携わったことがある方はもちろん、そういったことに興味を抱いている方であれば、誰もが共感する部分が必ずどこかにあるはずだ。

かく言う僕の家も、後継者のいない零細自営業を、今もなお細々と営んでいるという実情がある。
だからこそ読み終えて最後のページを閉じた時、快哉を叫びたくなるような気分だった。さて僕は、何ができるのだろうか、とも…。

ページを読み進めていくうちに、行政に携わる者として「嗚呼、そういえば似たようなことがあったな」と頷きつつ、当時のことを思い出して感慨に浸ったり、思わずグッと胸に迫り目頭が熱くなりそうになるページもあった。それだけ感情移入していたのかも知れない。
しかし、その中でも幾度となく複雑な心境を抱くことになったのは、行政に携わってきた者に対する「何らかの問題提起」を突きつけられたからかも知れない。

実際、この本の中に登場する街や光景は、全国各地に数多あるはずだ。


(書籍版)

地域の活性化とは名ばかりで、補助金の獲得に奔走する自治体。
大した結果を出すことなく、1年後には忘れ去られてしまうような中身のないイベント。自戒を込めて言うならば、とかく行政の仕事はPDCAのDで終わっちゃいないか。

正直、中心市街地活性化とはいうが、昨今ではどの地域においても、一体どこが中心なのか完全にぼやけてしまっているし、まして中心商店街となると殊更ではなかろうか。

書籍の中に登場するリアルな事例には、当時、「コンパクトシティ」の成功例として大きく取り上げられ、のちに「墓標」と化した青森市にある「アウガ」が登場している。青森駅前の中心市街地にあるあの建物を巡る官民を巻き込んだゴタゴタは、全国に知れ渡った。(ちなみに空洞となった商業スペースには今、市役所機能の一部が移転。)

実は当初の計画で、あの建物の隣接地に、とある系列の有名百貨店を招致していたことを知る人は、どれぐらいいるだろう。
結果として先方から手を引かれる形となり叶わぬ夢となったが、それはそれで良かったのではないだろうか。百貨店業界の昨今の状況を鑑みるに、もしもその百貨店が進出してきたところで、数年後には閉店し、それに引きずられるように街全体が総崩れ、という事態に陥っていたかも知れないわけだし。

それだけ大手百貨店の持つ力には魅力があり、特に地方が羨む何かを持っている一方で、地方なんていとも簡単に斬り捨てられるという現状を、今ここに来てまざまざと見せつけられていると思いませんか。

閑話休題。

この書籍で行間を読み説く必要は全くない。むしろまっさらな気持ちで、自分の身を書籍の中に投影して読んでみるといいだろう。
縦書きの各章の間にちりばめられた、横書きのコラムは必読。多分このコラムを読むだけでも、地域を良くしたいと思っている人たち、あるいはそういう活動に取り組んでいる人たちの強壮剤になるのではないだろうか。

勘違いしてはならないと思ったのは、タイトルにあるとおりこの本は、あくまでも「入門」であり、皆さんが抱えている課題や悩みを、あたかも快刀乱麻を断つかのごとく解決に導くものではないということ。
そして、この中に登場する様々な事例を何らかの形で模倣しようとしたところで、当たり前のことだけれど結果が出るはずはないということだ。

同じ行政職員や議員はもちろん、関係団体、そして地域活性化に少しでも携わったことがある、又は興味がある人たちに、是非とも読んでいただきたい一冊。帯の後ろにちりばめられたキーワードに思い当たる節があるならば、絶対に読んだ方がいい。

嗚呼、何だか凡人っぽさが前面に出た感想となってしまいましたね。
しかし、百聞は一見に如かず。まずは手にとって読んでみなさいって。


(Kindle版)