夕張市の財政破綻は対岸の火事?

※前々から書こう書こうとずーっと加筆修正していたのですが、昨晩報道ステーションでも取り上げられていたので、ようやくアップする気になりました。長文駄文失礼。

新聞やテレビなどで報道されているとおり、かつて炭坑の町として賑わった夕張市が財政破綻し、そのツケが市民に押しつけられるということで、騒ぎになっている。

しかしながら、夕張市の騒動は、夕張市だけが抱える問題ではなくなるだろう。なぜならそのツケは、近い将来北海道民、そして国民に回ってくることが予想されるし、同じような財政基盤に不安要素を抱える自治体は、潜在的に沢山あると思われるからだ。

かつて、財政再建団体に転落した福岡県赤池町(現在は合併して福智町に)。
この町も、炭坑の閉鎖に伴う地場産業の喪失から脱却すべく、地域活性化を謳った公共事業を乱発したことが仇となり、借金地獄から逃れられなくなった。
財政再建団体に転落後、公共事業は極力圧縮、委託していた道路管理や草刈り等、全て町職員が自分たちの手で行うようになった。
結果、10年の再建計画を2年短縮し、2000年に再建団体から脱却した。
そこに生まれたのは、町と住民の一体感だという。


旧産炭地域が過疎化に至るケースは、珍しいものではない。
しかしその一方で、そこから再生するケースというのは、むしろ稀だと思う(赤池町の事例も、完全に立ち直ったワケではないと思われる)。
夕張市の場合、炭坑から観光の町への転換を図るべく(この語呂合わせだけは見事)、兎にも角にもハコ物ハコ物と、財政事情を鑑みない性急な政策転換が裏目に出たことは明らかだ。
ただ、昨晩の報道ステーションでも取り上げていたが、同じような自治体は、北海道内にまだいくつかあるらしい。

夕張市を見ると事態はかなり深刻だ。
小中学校は統合しそれぞれ1校に、公立病院は民営化、公衆トイレは全て廃止、市民税に軽自動車税、固定資産税といった市の財源となる税金は軒並み増税。4年間で270人いる市職員を70人まで削減し、公共サービスの低下は免れない。しかも補助の削減により、市民への負担は更に重くのし掛かる。

かつて12万人近くあった夕張市の人口は、1万3千人にまで落ち込んだ。問題が発覚してからも、人口の流出には歯止めがかからないという。

典型的な過疎地域、それも冬場は外部からの観光客が見込めない積寒地域にありながら、延々と続けられていた無秩序とも言うべきハコ物行政。しかも、どれを取ってもとても採算を取れるとは思えない観光施設ばかりだ。

元夕張市民だという人は、「市民でもない人が夕張市職員でいることがおかしい。市民税も払わずに市から給料を貰うなんてとんでもない話。そういう人から人員削減すればいい」という。

なるほどそれも一理ある話だ。しかしそれでは、「夕張市は今後一切市民同士の自給自足でやっていきますから、外部の者は一切介入しないで下さい!」と言っているようなものではないか。もはやそういったレベルの話ではないと思うのだが、どうだろう。

ヤミ起債(一時的な借入金を歳入に計上することで、黒字会計に見せかけること)の繰り返しにより生じた360億円の借金を約20年で償還するという再建計画。単純計算で、年間18億円もの借金を償還することになる。しかし、それに見合うだけの財源、収入をどこから確保するのか。
結局のところ、外部に頼るしかない。

僕は夕張とは何の利害関係もないので、敢えて辛辣な意見を言わせて頂くならば、今回の一件、夕張市民は被害者でもあり、共犯者でもあると思う。

市の運営方法、市長の行政手腕に異論や疑義を唱える者はいなかったのか。
あれほどまでの不要と思われる公共施設を、何故建設することを黙認したのか。住民がヤミ起債を見破ることは容易ではないことかも知れない。しかし、大した観光資源もなく、人口流出にも歯止めが掛かっていない状況で、起爆剤かどうか知らないが次から次へと観光施設が建てられていくことに対し、誰も不思議に思わなかったという方が不思議でならない。
それを制止できる人は一人もいなかったのか、今更悔やんだところで、手遅れである。

今となっては、市民の間には市そのものの運営に対する懐疑、不信ばかりが募ることとなり、一体となってこの問題を解消しようという空気は、微塵も感じられないように思える。自己責任といった平易な言葉で片付けられるほど、生温い問題ではないのに。

ちなみに。
こういう事態を引き起こしたのは、恐らく既に鬼籍に入っている前市長の功罪によるところが大きい。もっとも、仮に前市長が存命であれば、恐らく責任問題だけでは済まされないことになっていただろう。
しかしながら、先を顧みない行政運営を行っていた前市長に、6期24年も託していた夕張市民、そしてチェック機能を全くと言っていいほど果たしていなかった夕張市議会には、当然それ相応のペナルティ(増税など)は致し方ないと考えて頂く他ないと思う。

ただし。
現市長も、前市長のブレーン(市の要職、とりわけ1995年から財政の鍵を握る総務部長を歴任)だったので、給与5割カットだけでは済まされないだろう。とっとと辞任しろ!の声も聞かれるが、今ここで市長が辞任したところで何の問題解決にもならないし、大体にして次期夕張市長に名乗りを上げる勇敢な輩なんているんだろうか。それだけ夕張は、行政母体としての質、魅力を失ってしまっているような気がする。

では、こういった問題は赤池町や夕張市に限ったことかと言えば、それは違う。

青森県もかつて、財政再建団体に陥ったことがある(都道府県レベルでは、和歌山と青森のみ)。5年で立ち直ったが、今もなおその危険性は十二分に孕んでいる。
もちろんそれは、ハコ物中心のバラマキ行政の顛末であり、ムダな公共事業が未だに進められている代償でもある。

無意味としか思えない青森空港の滑走路3,000m化。
年間数えるほどしか船舶が着岸しない日本一の公共天然釣り堀、七里長浜港。
大して車も走っていないのに、地元議員の顔を立てるためだけに進められているとしか思えない高規格道路建設事業。

東北新幹線が新青森まで開業すれば変わる、という楽観的な意見もあるが、代償として県が運営することになる「青い森鉄道」が黒字経営となる可能性が極めて低いことを考えれば、更に財政を逼迫することは間違いなく、危機的状況にかなり近いと言っても過言ではないだろう。

夕張市のケースに見るように、少なくとも役所は潰れない、という神話はあり得ないことが明らかになった。

今後同様のケースを減らすためにも、総務省は夕張市に対してかなり手厳しい計画を求めているらしい。

もちろん、役人は襟を正す必要があるし、自治体のトップは、自らが運営する自治体の財政健全化を図るべく取り組まなければならない。
しかし現実はどうだろう。とりわけ、過疎地域に行けば行くほど、未だハコ物への依存体質から脱却できぬまま、お役人や先生(議員)にしがみついている人たちが蔓延しているのではないか。

「財政の健全化に努めている」と言い張るお役人。
公共サービスは自治体が行うのが当然と考える住民。
「ムダな公共事業はやめろ」と声高に叫ぶ住民団体。
「地域の発展のために…」という大義名分で、形ある物を作りたがる議員先生…。

そんなことはない、うちの市区町村は大丈夫だ、と思っている人も多いかも知れない。
しかし、恐らく夕張市のような事例は、今後また出てくるものと思われる。
ハコ物で客寄せしようという採算度外視の無謀な施策が行われているのは夕張市だけではないし、猫騙しのような見せかけの黒字経営を行っている自治体、つまり自転車操業状態に陥っている地域は沢山あるからだ。
景気回復したという言葉を最近聞くが、それは都市型社会が進む大都市圏、それも太平洋ベルト上にある地域に限られたもので、実際地方都市に目を向けてみると、全然景気回復の気配すら感じられない。
そう考えると、地域格差というのは縮小どころかますます開いていっているような気がしてならない。

しかし実のところ、夕張市や赤池町、財政再建団体予備軍よりも酷いところがある。

それは、日本という国である。
借金だらけの国が主導して財政再建団体の再生に取り組ませるという事実。
借金で首が回らないようなヤツに、借金から逃れる方法を指南されているようなものだ。

日本が借金漬けであり、既に手遅れの状態、末期症状に陥っているということ、つまりは我々が既に、泥船の上で躍らされている状況にあるということを、今一度考えてみる必要があると思う。

2 thoughts on “夕張市の財政破綻は対岸の火事?

  1. nonoda

    来年から地元の市役所に転職しますが、夕張市の現状を対岸の火事とは思わずに、コスト意識を持って行政の仕事に携わりたいと思います。
    しかし、市民に納税の負担が増え続けるなら、夕張市が人口最少市に転落する日も遠くないかもしれないですね。
    名物の夕張映画祭もありますが、もうそれどころではないでしょうね。

    Reply
  2. nonvey

    長々ダラダラにコメントありがとうございます。
    行政のコスト意識というのは非常に重要でありながら、どうもそれまでの慣習にとらわれすぎて、端から見るとムダだと思うようなことでも当たり前に継続されていることがあります(国や県が起因している場合もあります)。市役所となれば、住民に一番近い公署ですね。ありきたりのことしか言えませんが、どうぞその気概をいつまでも忘れずに。
    夕張は一度、綺麗さっぱり清算してしまった方がいいのかも知れません。市のトップも外部から招聘する。それぐらいやらないと、立ち直れないような気がします。

    Reply

Leave a Reply