『海辺のカフカ』 / 村上春樹

海辺のカフカ (上)
村上 春樹

海辺のカフカ (下)
村上 春樹

今更なのだが、「海辺のカフカ」を読み終えた。いや、貪るように読破したといった方がいいかも知れない。僕が村上春樹の作品を読み始めたのは、確か高校に入学する前後だったような気がする。その頃も、とにかく馬鹿の一つ覚えのように村上春樹作品ばかり読んでいた記憶がある。その後僕は、ダニエル・キイスに目覚め、そして沢木耕太郎の「深夜特急」を経て、それ以降は現実的な新書ばかり読み漁るようになり、いわゆるフィクションの小説とはしばらく疎遠となった。それでも、「ねじまき鳥」「アンダーグラウンド」と、合間を縫って村上作品は読み続けていたような気がする(ただし、ベストセラーとなった「ノルウェイの森」と、翻訳作である「キャッチャー・イン・ザ・ライ」を除いては)。


「海辺のカフカ」は、平成14年の作品である。実はこれまで、村上氏の作品は全て文庫化されてから読んでいる。そして、今頃になって文庫化された「海辺のカフカ」を読み終えたのだから、特に村上氏に肩入れしているというわけではない。でも、何だか気になる作家の一人であることには間違いない。ただ、そういったこともあるので、極力事前の情報を入手しないよう努めている。
率直な感想からいうと何だか、とても重苦しい内容だった。だから、読み終えた後には何だか後味の悪さが残った。それでも、村上作品特有の世界観、そして二つの全く異次元の話が同時に進行するという内容が、電車で惰眠を貪ることさえ忘れさせるほど、僕を熱中させたことは間違いない。
毎朝電車の中でふと周りを見回し、日本経済新聞を広げてインテリを気取りながら、「愛の流刑地」を読んでニヤついている中年オヤジを発見すると、ちょっと失望にも似た感情がわき起こり、蔑視にも近い視線を送ってしまう。どうせお前の勃起なんて小指程度だろう。ここで描かれる勃起は、なんて言ったって15歳。親指級の勢いなんだぜ(意味がわからない人には、ごめんなさい)。それも、相手だって凄いんだぜ…。でも、この作品での性描写は、渡辺淳一ほど生々しくはないはずだ。そしてもう一つ、ここで描かれる「死」は、とても淡泊だ。それは、読み続けているうちにある程度予想され、だから結果としては来るべくして訪れた死であり、悲しみに満ちあふれているものではない(ナカタさんの最期を見届けたホシノさんを除いては)。
そして、主人公の田村カフカは、その死から生を見出し、そして…。というところで話は終わっている。
かなり端折ってしまったが、彼の作品の特徴の一つとして、風変わりなキャラクター、そして音楽がある。やはり印象に残るのは、主人公がトレーニング中に聴くPrinceの「Little Red Corbette」だろうか。ただし、彼が聴いていたのは「ベリー・ベスト・オブ…」だったというのが、ちょっと腑に落ちないけれど(笑)。さらに印象に残るのが、「あり得ない」事件そして人間描写である。空から降ってきたイワシにヒル、そして雷。妙な風貌のジョニー・ウォーカーにカーネル・サンダース。特にカーネルには、願わくば一人旅の時にでもお会いしたいものだ(笑)。それ以外でも、いろいろな場所、アイテム、人物が、この物語を見事なほど深く謎めいた作品に仕上げている。
そういうわけで、久しぶりに印象に残る作品を手にしてしまった。だからこそ、もっと中身が知りたくて、気分が重苦しいのだろう。これは近いうちに、間違いなくもう一度読みたくなるだろう。そして何度も何度も読み返すことだろう。
うちの猫にも話しかけてみた。当たり前だけど、何も反応はなかった。
それじゃぁと、犬に話しかけてみた。じっと顔を見つめられただけだった…。
とりあえずは、「少年カフカ」を読んでからもう一度読み返してみよう。
後味が悪いだのスッキリしないだの嘯いてみたが、間違いなく僕は、田村カフカという主人公、そしてこの作品に興味を持ってしまった。
少年カフカ
村上 春樹

2 thoughts on “『海辺のカフカ』 / 村上春樹

  1. mash

    わたしも一年位前に読んで、
    凄くひき込まれました。好きな小説のベスト5に確実に入る作品です!
    プリンス、ベストっていうのだけは、私もやっぱり気になりました(笑

    Reply
  2. nonvey

    正直、あんまり小説は読まないのですが、この作品には強く魅せられるモノがありました。15歳の少年がプリンス聴いてトレーニングっていうのがまた、何とも洒落てるじゃないですか(笑)。
    私の中でも、他の人にお勧めできる小説5本に入ると思います。

    Reply

Leave a Reply