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Prince / ザ・ヴェルサーチ・エクスペリエンス (THE VERSACE EXPERIENCE : PRELUDE 2 GOLD)

昔、弘前市の中心市街地に、Tというレコード屋さんがあった。
中学2年の時だっただろうか、同級生と初めてその店に入った。
恥ずかしながら、当時各地に林立し始めたレンタル屋さんと間違えたのだ。

そういう店ではない、ちょっと違うと気づくのに時間は要しなかった。しかし、世間知らずの青みがかったクソガキにとって、その時目の当たりにしたレコードやカセットテープは、垂涎の的となった。

ちょうどその店舗の向かいには、小さな電器屋さんがあった。今は学習塾になっているところだ。その2階にも、レコードや音楽カセットが置かれていた。そういったアイテムを買う余裕すらなかったクソガキは、FMラジオから流れる音を録音するため、いわゆる生テープと呼ばれる46分、時には60分のノーマルやハイポジ(メタルを使いこなす機材がない)を物色しながら、店の棚に並ぶレコードやカセットテープに手を伸ばし、色んな思いを馳せていた。そしてあの時、一度手にしつつも購入することなく棚に戻したレコードやカセットの数々は、今でもその感触や重みが鮮明に蘇ってくる。

時は流れ、カセットが衰退、CDが席巻するようになった。一時期MDやDATといった新たな媒体も台頭したが、デジタル化が進むとともに、音楽はハードを手にして楽しむのではなく、ソフトとして提供される音源を楽しむ時代に変わっていった。

Albums, Remember Those? Albums still matter. Like books and black lives, albums still matter.
アルバムって覚えているかい?アルバムはまだ大事なものだ。本のように、黒人の命のように、アルバムはまだ大事なものなんだ。

今から4年前、2015年2月のグラミー賞でプレゼンターを務めたプリンスのこの発言は、世界の音楽業界を皮肉り、そして米国社会が抱える特有の問題を際立たせることとなり、示唆に富んだ発言だとして注目を浴びた。

残念ながらプリンスは、それから1年2か月後にこの世に別れを告げたが、それからの音楽状況を見ると、あの時の警鐘に呼応するような潮流が生まれつつあり、まるでそれを見透かしたような発言だったんだな、と改めて感じている。

事実ここ最近、レコードに対する再評価がめざましい。

デジタル音楽ではなく、マテリアルとしてのアルバムを手にしたときの興奮、例えば購入したレコードをジャケットから引き出す時の緊張感や、ライナーノーツや歌詞カードを引っ張り出した時の、あの時の感動を、皆さんは覚えていますか?

昨今の、音楽の重みが損なわれた感覚と言えばいいのだろうか、一リスナーとして批判を覚悟でいうならば、言葉に乗せて風景や感情を伝えるのではなく、音楽が単なるBGMになりつつあるのが実態だと思いませんか。だから歌詞カードもいらないような、心に全く響いてこない音楽が幅を利かせているのが現状だとは思いませんか。

さて、冒頭で出てきたレコード屋さんは、店舗を移転したあと、店の名前をJと変えた。高校生になった僕はよく店に足を運び、当時弘前市では珍しかった輸入盤のレコードにも手を伸ばした。幾つかは小遣いを叩いて購入したし、その中には、プリンスの覆面バンドだった「MADHOUSE」の「8」もあった。(あろうことか、10年近く経った頃に、購入したレコードのほとんどを棄損するという、泣くに泣けない出来事に襲われたんだけどな。)

ちなみにJというのは、弘前の音楽愛好家では知らない人はいない、尊師Sさんが店長を務めていた店で、その頃から若造の僕ともプリンスの話で花を咲かせていた。
その後Jは残念ながらなくなったが、Sさんが営む隠れ家のようなバーを時々訪問し、プリンス談義に花を咲かせている。

さて、これまでレコードやカセット、と言ってきたが、実のところこれまで音楽カセットを購入したことは1度としてなかった。

ただし、プリンスのアルバム(CD)をオフィシャルサイトから購入した際に、サンプラーのカセットが1本、プロモーション用のカセットが1本、それぞれ同梱されていて、今も僕の大切なアイテムになっている。

そんな中、今年に入ってプリンスの過去に出回った貴重なカセット「ザ・ヴェルサーチ・エクスペリエンス」 を数量限定で発売する、というアナウンスが流れた。ちなみにこの作品、1995年に500本のみ配布された超レア物で、毎年開催される「レコードストア・デイ」に合わせで発売されることになったという。ちなみに海外では、日本国内のみで数量限定で出回った2枚組の12インチ「His Majesty’s Pop Life」も発売するというではないか。

正直、後者の作品に対する食指が動きまくったのだが、国内では発売予定なしということで、ひとまず日が経ってから後悔しないように、確実な方法でカセットを購入した。
弘前市内にもレコードストア・デイに参加している店舗があり、最初はそこに足を運ぼうと思ったが、入荷の有無の確認しようと電話しても繋がらず、結局諦めた。

しかし、やはりマテリアルとして手にしてみると、その音に対する愛着がガラリと変わる。
残念ながら限定のポストカードを手に入れることはできなかったが、初めて購入した音楽カセットは何だか神々しく、開封するのも躊躇われるぐらいだった。
…これですよ、この感覚。

カセットをくるむ包装セロファンの上部に貼られたこのシールですら捨てるのがもったいない感覚、わかりますかね?

ちなみにプリンスの過去の作品については、廃盤となって入手困難だった作品の再発が相次いでいて、ファンを喜ばせつつ懐を泣かせ続けるという状況が続いている。

4月21日は衝撃のニュースが全世界を駆け巡ってから3年目となる。

さて、これからもまた違った意味で、私たちファンに衝撃をもたらし続けるのだろうか。もっとも、生前の彼には散々驚かされてきたから、この先何が発表されても、あまり驚かない…つもりだけどね。

『Purple Rain Deluxe』 発売決定!

プリンスと言えばパープル・レイン。パープル・レインと言えばプリンス。

2016年4月に旅立ったプリンスの代名詞とも言うべきこの作品、僕と同じ世代もしくはその前後の世代の皆さんであればご存じのとおり、映画もアルバムも大ヒットを飛ばし、プリンスにとって確固たる地位を築く作品となったことは、今更説明するまでもないでしょう。
発表から30年を経た2014年、「パープル・レイン」30周年の記念盤を発表する、という公式アナウンスがありました。しかも、プリンス本人によるリマスターが施され、アルバムには収録されなかった劇中歌(他のアーティストの楽曲も含む)も収録された、超デラックス盤になるらしい、という噂も飛び交いました。

発売されると噂されてはお蔵入りとなるケースが非常に多かったプリンスの作品にあって、本人からのアナウンスだったこともあり、この作品ばかりは非常に信憑性の高いものとして認識されていました。
ところが、いざ蓋を開けてみると、発表から1年経っても発売される気配はなく、結局またしてもお蔵入り。

「あー、またですか…。」とあまり気に留めていなかったのですが、作品そのものは存在しているという認識はずっと燻っていたような気がします。

そしてそして、何とプリンスが旅立ってから(すいません、「亡くなった」という表現をどうしても使いたくないのです)発表されたベストアルバムの「4Ever」、この発表のタイミングでワーナーから「パープル・レイン」のデラックス盤を発表するというアナウンスがありました。(しかもそれ以外に「未発表音源からなる、すばらしい2つのアルバム」と「完全なコンサート・フィルム2作」を発表するとのアナウンスもあり。)

http://bmr.jp/news/174059

このデラックス盤、当初2017年6月7日(プリンスの誕生日)の週に発売するとのアナウンスでしたが、最終的には2週間ずれこみ、2017年6月23日に発売決定となりました。

まあ、僕がここで説明するより、この記事に詳細が記載されていますし、プリンスファムの皆さんは既にご存じのことと思いますので、敢えて説明は割愛しますね。

http://bmr.jp/news/178404

僕自身、この作品が発表された1984年は確かまだ中学2年生ぐらいだったのですが、プリンスには興味がないどころかむしろ嫌悪感を抱いていた時期でもありました。金切り声を上げるような歌声や胸毛をさらけ出しながらクネクネと踊る姿、そして、妙にギラギラしたあの眼力。ハッキリ言って「気持ち悪い」以外の何者でもありませんでした。
だから、僕の中ではしばらくの間、プリンスという存在、そしてたびたび耳にすることとなったパープル・レインからの楽曲が、目障りかつ耳障りだったということは、今だから明かす事実。

その後、1986年に発表されたアルバム「パレード」を聴いて僕のプリンスに対する意識が180度変わるわけですが、「パープル・レイン」のアルバムをまともにちゃんと聴いたのは、大学生になってからじゃなかったかと記憶しています。大体にして、「パープル・レイン」を聴く前に先にブート盤(「ブラック・アルバム」)に手を出していたんですから、すいません。僕のプリンス歴なんて、そんなものなのですよ実は。映画作品をまともに観たのも、大人になってからのことでした、実は。

僕にとってはそんな深い思い出もあるわけじゃない、と言ってしまえばそれまでですが、プリンスにとっては前述の通りこの作品で地位を確固たるものにしたわけですし、その後拝見した数度のライブでも、このアルバムのタイトルナンバーは、一つのハイライトとなりました。それは、例えにはならないのかも知れませんが、山下達郎の「クリスマス・イヴ」と同じぐらい、あまりに定番すぎてライブでは絶対に外すことのできないナンバーだということ。(それは、このアルバムの冒頭を飾る「レッツ・ゴー・クレイジー」も同様。)

ということで今回のこの作品、何も説明しないのもちょっとなあ、ということで少しだけ。
噂されていた他のアーティストの劇中歌まで網羅した「完全盤」とはなりませんでしたが、2種類の作品が発売されるとのこと。エクスパンド・デラックス盤は、35曲が収録された3CDに過去にVHS及びLDのみで発売されたDVDが同梱されるというボリューム。1枚目が「パープル・レイン」のプリンス本人によるリマスター、2枚目が未発表曲等を収録した「From The Vault & Previously Unreleased」、3枚目がシングルカットされたバージョンやB面曲を収録した「Single Edits & B-Sides」と、「パープル・レインのアルバム」を楽しむという点では、十分過ぎるぐらいの内容になっているのではないでしょうか。
ちなみに「通常盤」のデラックス盤は、この1枚目と2枚目がパッケージされた2枚組のCDとのことですが、どちらを買うべきかは敢えて言うまでもないですよね。

Disc One: Original Album (2015 Paisley Park Remaster)
1. Let’s Go Crazy
2. Take Me With U
3. The Beautiful Ones
4. Computer Blue
5. Darling Nikki
6. When Doves Cry
7. I Would Die 4 U
8. Baby I’m A Star
9. Purple Rain

Disc Two: From The Vault & Previously Unreleased
1. The Dance Electric
2. Love And Sex
3. Computer Blue (“Hallway Speech” version)
4. Electric Intercourse (studio)
5. Our Destiny / Roadhouse Garden
6. Possessed (1983 version)
7. Wonderful Ass
8. Velvet Kitty Cat
9. Katrina’s Paper Dolls
10. We Can Fuck
11. Father’s Song

Disc Three: Single Edits & B-Sides
1. When Doves Cry (edit)
2. 17 Days
3. Let’s Go Crazy (edit)
4. Let’s Go Crazy (Special Dance Mix)
5. Erotic City
6. Erotic City (“Make Love Not War Erotic City Come Alive”)
7. Purple Rain (edit)
8. God
9. God (Love Theme From Purple Rain)
10. Another Lonely Christmas
11. Another Lonely Christmas (extended version)
12. I Would Die 4 U (edit)
13. I Would Die 4 U (extended version)
14. Baby I’m A Star (edit)
15. Take Me With U (edit)

DVD: Prince And The Revolution, Live at the Carrier Dome, Syracuse, NY, March 30, 1985
1. Let’s Go Crazy
2. Delirious
3. 1999
4. Little Red Corvette
5. Take Me With U
6. Do Me, Baby
7. Irresistible Bitch
8. Possessed
9. How Come U Don’t Call Me Anymore?
10. Let’s Pretend We’re Married
11. International Lover
12. God
13. Computer Blue
14. Darling Nikki
15. The Beautiful Ones
16. When Doves Cry
17. I Would Die 4 U
18. Baby I’m A Star
19. Purple Rain

…あ、余談ではありますが、昨年12月に他界したジョージ・マイケルの「LISTEN WITHOUT PREJUDICE vol.1」の25周年記念盤は、亡くなる前から発売がアナウンスされていましたが、残念ながら発売中止になってしまったようです。30周年まで待たされることになるのでしょうか。ガックリ。

プリンスのベスト盤 #prince

国内外いずれのアーティストを例に見ても、大体ベスト盤が発売されるタイミングというのは、レコード会社を移籍した後だったり(発売するのは当然移籍前のレコード会社)、デビュー○周年というタイミングだったり、いずれの作品にもアーティスト本人の意向が反映されているのかどうか怪しいところがあります。そこには、レコード会社による「商売臭さ」というか契約主義というか、「契約枚数履行のためだけど、話題になって売れればラッキー」といった雰囲気さえ感じ取ってしまうわけです。

僕は、プリンスほどベスト盤が似つかわしくないアーティストもいないのではないかと思っています。プリンスのベスト盤は、約10年前を最後にこれまで3作品発表されています。特に2作目として発売された「The Very Best of」、これに関してはその後ワーナーミュージックお得意の「豪華アーティストのベスト盤シリーズ」の中に必ず組み込まれる、いわばワーナーの「(作品ではなく)商売用商品」となっているわけですが、いくらフィギュアスケートの羽生結弦選手が今年のSPで採用している「Let’s Go Crazy」が収録されていようとも、この作品だけは初めてプリンスを聴く一枚としてお勧めしたくありません。初めてプリンスを聴くのなら、多少値が張って申し訳ありませんが、2枚組の「Ultimate」を聴いて頂きたいな、と。

プリンスの場合、「アルバム」の種類も非常に多様性に富んでおり(デジタル音源のみのアルバムや、かつて存在したNPGMCというファンクラブ限定のアルバムもあります)、とにかく世に出ている楽曲があまりにも多すぎるため、一体どの楽曲がベストなのかと言われると、非常に悩ましいところ。
トップ40入りした楽曲は30曲。これを集めただけで既に2枚組のベスト盤に仕上がってしまいますが、ヒットした=ベストな曲かといえば、ファンとしてはちょっと待った!という声が上がるはず。
とりわけ、ライブに対する評価が非常に高いため、ファンの間ではシングルとして売れたかどうかはあまり気にしていないような気がします(まあ、売れた方がいいけど)。実際、ライブになるとメチャクチャ盛り上がる曲があったり(彼の場合、何を演奏しても盛り上がります)、例え世間一般的に売れてもライブでは演奏しない曲があったり(演奏しようのない「Batdance」とか。)、もしもベスト盤に収録するのであれば、これは外せない!という楽曲は幾つかあるかも知れませんが、40年近いキャリアの中からそれを選曲するとなると、ファンによって世代も性別もファン歴も異なるため、それぞれ感じ方が違うわけです。

更に厄介なのは、1994年にレコード会社との軋轢から生じた改名騒動があって、約6年にわたって「プリンス」の名前を封印し、発音不能な「記号」を用いて活動していた時期がありましたが、その頃に発売された作品や、変名でバンドでの活動を行っていた頃の作品は、そもそも国内で発売されなかったものや、発売されても廃盤になってしまったものが数多くあります。
実際、ベスト盤とは言っても、恐らくプリンスのファンじゃなくても「Purple Rain」と同じぐらい耳に馴染みがあるのではないかと思われる「Endorphinmachine」(かつて「K-1 ワールドグランプリシリーズ」のテーマソングとして流れていた、ギターサウンドと金切り声が特徴的なあの曲)が1度も収録されていないなど、この曲が収録された「the gold experience」を筆頭に、すべてのアルバム(作品)を網羅しきれていないのです。

21世紀に入ってからは、アルバムを発表するごとにレコード会社と契約を締結する方法を採用したり、中には新聞のおまけとして無料配布された作品があるなど、更に複雑な契約体系となっていることから、全てのキャリアを網羅したベスト盤を発表することは、本当に至難の業なのではないかと思います。

だから、敢えて断言します。
「プリンスのベスト盤は、これまで発売されたオリジナルアルバムそのもの。」

…と言いきってしまうと、これからプリンスを聴こうと考えている人にとって凄く冷たい対応ですよね。そんなことはないんですよ。
そんなプリンスのベスト盤が、11月に発売されることになりました。取りあえずこれからプリンスを聴いてみようかな、と考えている人向けの入門編のような2枚組のベスト盤は、その名も「Prince 4ever」。リリース元はNPG Records/Warner Brosとなっており、78年のデビュー作「For You」からワーナーと袂を分かつこととなった頃の作品「Love Symbol」まで、ワーナー在籍時代の作品を中心に全40曲が収録されており、未発表曲1曲のほか、アナウンスでは「初CD化」となるバージョンも多数収録されるそうです。(…初CD化って、何だ?)
言うまでもなく、本人不在での発売となるわけですが、やっぱりプリンスの「ベスト盤」はファンの間でも賛否両論が沸き起こると思うんですね…。予定調和とはいえ、今回も「Endorphinmachine」は収録されず、だし。

prince4ever
Disc 1
1. 1999 (Edit)
2. Little Red Corvette
3. When Doves Cry
4. Let’s Go Crazy
5. Raspberry Beret
6. I Wanna Be Your Lover (Single Version)
7. Soft And Wet
8. Why You Wanna Treat Me So Bad?
9. Uptown (Single Version)
10. When You Were Mine
11. Head (Sound Recording)
12. Gotta Stop (Messin’ About)
13. Controversy (Single Version)
14. Let’s Work
15. Delirious (Edit)
16. I Would Die 4 U
17. Take Me With U
18. Paisley Park
19. Pop Life
20. Purple Rain

Disc 2
1. Kiss
2. Sign ‘O’ The Times (Single Version)
3. Alphabet St.
4. Batdance
5. Thieves in the Temple
6. Cream
7. Mountains
8. Girls & Boys
9. If I Was Your Girlfriend
10. U Got The Look
11. I Could Never Take the Place of Your Man
12. Glam Slam
13. Moonbeam Levels
14. Diamonds And Pearls (Edit)
15. Gett Off
16. Sexy M.F.
17. My Name Is Prince (Single Version)
18. 7 (Album Edit)
19. Peach
20. Nothing Compares 2 U

前述の「Let’s Go Crazy」はもちろん収録されているほか、映画では一切流れなかったのにサントラ盤に収録されて大ヒットした「Batdance」など、「ベスト盤」に初収録となる楽曲も幾つか含まれています。収録される予定の楽曲の並び、選考など、いろいろ不可思議な点があるのも事実ですが、プリンスを知る、聴いてみるきっかけとしては、適切な一枚となるのではないかと期待しています。ただし、あくまでも私見ではありますが、1曲だけ収録された「未発表曲」をこういう形で小出しにすることは、今後勘弁願いたいところ。

そうそう、プリンスを知るには最良の一冊、「プリンスの言葉 Words of Prince」も絶賛販売中です。Amazonの売れ筋ランキング(本/海外のロック・ポップス)では上位を走り続けています。ファンの皆さんもこれからプリンスを聴いてみようという皆さんも、愛読書として是非一冊手にとってみてください。

…しかしこの「ベスト盤」、彼の全キャリアにおけるほぼ前半部分しか網羅されていないんですよね。この後の作品にも、いい楽曲というか聴いてほしい楽曲がたくさんあるんだけどなあ。(最初に戻る)

プリンスの言葉 Words of Prince #wordsofprince

久しぶりに、プリンスの話をしましょうか。
早いもので、プリンスが旅立ってからまもなく半年となります。
僕自身は、恐らく自分の身近なところで起こった「死」も含め、これまで色んな「それ」を見てきたので、その現実を意外とすんなり受け入れることができたのですが、未だ深い悲しみから立ち直るきっかけを見いだせず、苦しんでいるファンも数多くいるようです。

何せその訃報は某国営放送のニュースでも取り上げられるほどショッキングなものでしたし、これまであまりプリンスに対して見向きしなかった人たちですら、そのニュースに驚き、改めて評価するという場面もたくさんあったように思います。その一つとして、デジタル媒体やCDといった彼の音楽作品を購入する人たちの急増、という形があったのではないでしょうか。

もっとも、他界された後の再評価という流れ、これはプリンスに始まったことではないのでしょうけれど、プリンスの場合はこれまで発表された音楽作品のボリュームが桁違い。亡き後に数々のチャートをプリンスの作品が席巻する、という事態を招いた一方で、既に廃盤となっている数々の作品にも改めてスポットライトが当てられることとなりました。

再評価に関しては、音楽作品に限ったことではなく、国内外問わず数々の追悼本も出版されました。丸ごとプリンスを特集したムック本、雑誌の特別編集など、ピンからキリまで本当にたくさんの種類の書籍・雑誌が発売され、僕自身、実は未だ全て読み切っていないというのが事実です。

さて。
亡くなってからも話題に事欠かないプリンスですが、前述のとおり、たくさんの追悼本が出版され、きっとファンの皆さんもたくさん購入されたと思いますが、ファンじゃない人からすると、ほとんど興味の沸かない話ですよね。

そんなファンじゃない人にもプリンスのことを知って頂きたい、ファンの人にはもっともっと知って頂きたい、という思いが詰まった書籍 『プリンスの言葉 Words of Prince』 が、10月14日に秀和システムから発刊されました。

これまで発売された追悼本は、プリンス自身の作品のレビューやライブ評、更には彼が手がけた数々の作品を改めて紹介しているもの、国内の著名なファンに対するインタビューや対談などが掲載されたものが多く、どちらかというと彼にまつわる数々の逸話や発表された作品(アルバム)などを振り返りながら、文字通り「追悼」する、といった内容のものが多いと思うのですが、この 『プリンスの言葉 Words of Prince』 は、これまでの追悼本とはちょっと一線を画した内容になっています。

書籍の概要(「秀和システム」より)
アメリカ大統領をして「誰よりも強く大胆でクリエイティブ」といわしめた孤高の天才・プリンス。本書は、現代に生きた真の芸術家として今なお評価が高まり続けるプリンスの哲学や考え方に迫ります。プリンスが残した貴重な言葉の数々、共演したポール・ピーターソンやミスター・ヘイズ、グレッグ・ボイヤーらのインタビューも交えながら“音楽の革命家”のスピリットに触れます。ファンでも知らない意外なエピソードが満載です!

まず手に取ると、その分厚さに驚かされます。何と450ページ近くもあり、イラストなどが掲載されたカラーのページも含まれています。でも、そんなに重くはありません。鞄に入れても大丈夫。

もう一つ驚かされるのが、その価格。税抜きの本体価格が1999円ですって。2000円じゃなくて1999円?はい、プリンスファンなら説明するまでもありませんが、プリンスの代表作の一つである「1999」を意識した価格設定となっています。個人的には出版元のこの英断に、拍手を送りたいです。

では、何が他の追悼本と一線を画しているかといいますと…

(1)プリンスと共演したことのある複数のアーティストのインタビューが掲載。
これだけ複数のアーティストにインタビューするというのも凄いと思うのですが、その内容からも、プリンスがどれだけ音楽に対して真摯に向き合っていたか、そして、どれだけプリンスが愛されていたかを垣間見ることができます。

(2)「プリンスの言葉」というタイトルが持つ意味が、深い。
わかりやすく一言で言うならば、マクロとミクロ、総論と各論の違い。これまでの追悼本では、前述のとおりプリンスが作り出した作品、すなわちアルバムにスポットを当て、改めてレビューするという内容が多い中、本書では、アルバムの中の楽曲そのものに光を当てています。プリンスの歌詞は非常に奥深く、特に対訳がない楽曲も多数あります。そんな楽曲も含め、インタビューやテレビでの発言など、色んな角度からプリンスの「言葉を洗う」ことにより、彼の発した言葉が持つ意味、背景、そして、プリンスが抱いていた世界観を探る内容となっています。

(3)ファンによる、ファンのための、いや、ファン以外の人たちのための…
4月21日の訃報から約半年が経とうとしています。書籍に記された発行日は「10月20日」なので、奇しくもちょうど半年後に発刊されるということになります(実際は14日から発売されていますが)。
しかしたったこの半年で、悲しみに暮れるファンがチームを結成し、英知を出し合い、こんな内容の濃い重厚な書籍を発刊するなんて、誰が想像していたでしょうか。

著者は「New Breed with Takki」。
Takkiさんといえば、プリンスファンの間で知らない人はいないぐらい有名な方。国内外でのプリンスのライブを数多くご覧になっているほか、訃報の直後にいち早くミネアポリスへ渡航するなどの行動力に溢れ、また、数多くの海外アーティストが来日した際のツアードクターを長年務めるなど、関係者はもちろんファンからも絶大な信頼を寄せられている方です。実は私も2002年の仙台公演の際に、Takkiさんと初めてお目にかかっています。でもその時は、Takkiさんの凄さを全く知らなかったという…。

そして、そのTakkiさんが中心となり、さまざまな分野で活躍されている方々で構成されたチーム「New Breed」による一つの結晶が、まさにこの作品。ただし、単なるファンによるファンのための…的な内容になっていないのが本書の特徴で、さまざまなアプローチからプリンスの多彩な人物像を引き出し、プリンスの素晴らしさを今のこの時代、いや、後世に伝えていく内容となっています。
本書の構成や内容は、プリンスのことを本当に愛してやまないファンの方々が結集したからこそできた業だと思いますし、それは決して内輪向けの同人誌のような内容だとか、単なる自画自賛にとどまるものではありません。
そこには、プリンスファンによるプリンスの再評価ということだけではなく、プリンスを知らない、あるいは聞いたことがないという皆さんに是非プリンスを知って頂きたい、そんな願いが込められています。
…といいつつ、実は僕もまだざっくりとしか拝読していないのですが、とにかく皆さんにいち早くこの書籍を紹介したい、という思いに強く駆られ、今日の投稿に至っています。その点は何とぞご了承ください。

そして、実は僭越ながら私も、このチームに参加させて頂きました。…が、蓋を開けてみると、自分がいかに薄っぺらなファンであるかをつぶさに知ることとなり、かなり自己嫌悪に陥ったという…(苦笑)。
でも、そんな自分を発見する機会を頂いたのも、そして、チームの皆さんのやりとりによって僕がこれまで知らなかったたくさんのプリンスを知ることができたのも、このチームに参加したからこそ。

チーム結成から書籍という形になってこの世に出るまで、本当にあっという間でした。この間のTakkiさんの精力的過ぎる動きがあまりにも速すぎて、正直言って追いかけることすらできませんでした。でも、こういうスピード感が大切なんだと思いますし、その中にあっての張り詰めたような緊張感といったら…。とりわけ、中心となって作業された皆さんが酷使したエネルギーを思うと、もう…。

今回の発刊に当たって、僕は100のうち0.01もお役に立つことができませんでしたが、こんな僕を最後まで見捨てずにチームに加えて頂き、かつ書籍に名前まで掲載してくださったTakkiさんには、全く頭が上がりません。
二重作さん、本当にお疲れ様でした。僕もこのチームに加えて頂いて、ありがとうございました。この場をお借りして、深く深く感謝申し上げます。

…ということで、皆さんにもお願いがあります。書店に行ってこの書籍を見かけたら、是非手に取ってご覧ください。願わくば、財布の中身と相談しながらそのままご購入頂ければ、これ幸いです。

そしてもう一つ。なんと言ってもこの書籍は、装丁・カバーが秀逸です。何となくかわいらしいですし、色合いも目を引きます。CDのジャケットが素晴らしく思わず衝動買いしてしまうことを「ジャケ買い」と言いますが、そういう点ではこの書籍、「カバー買い」するに充分なぐらいの外見、内容となっています。

ですから書店で「カバーおかけしますか?」と聞かれても、「いや、結構です。」と丁重にお断りください。そして、書籍を大事にしたいという思いも充分理解できるのですが、できれば皆さんがお持ちのブックカバーも掛けないでご覧になってください。

できれば、公衆の面前…例えば電車内、あるいはカフェ、ちょっとした待合場所や公園のベンチでもいいでしょう。雨に濡れない場所で、正々堂々とご覧になってください。読書の秋にぴったりの一冊となることでしょう。

Amazonの売れ筋ランキングでは、発売直後から10月18日現在において「海外のロック・ポップス」部門で、ボブ・ディランに関する書籍を抑えて堂々の1位を獲得。

プリンスは過去の人なんかじゃないんです。今もなお時代を駆け巡る、トップアーティストなのです。
見た目だけで評価されることが多く、いわゆる「食わず嫌い」の方も多いプリンスですが、この書籍を通じて是非その内面や多彩かつ繊細な一面に触れ、彼に対する興味を抱いて頂ければ、ファンの一人としてとても嬉しいです。
特に、プリンスというだけで嫌悪感を示す人たちや、プリンスといえば「パープル・レイン」、という印象を未だに抱いている方々には、是非とも手に取って頂きたいと思います。プリンスに対する印象が、180度とは言わなくとも、135度ぐらいは変わるかも知れませんよ。

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プリンスの言葉 [ New Breed with Takki ]

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Sheila E の新曲「Girl Meets Boy」

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初めてこの曲を聴いた時に浮かんだ感想は「参ったな…」でした。
電車の中で聴きながら、流れてくる涙をごまかすために、何度生あくびをしたことか。

ダンスアルバムの制作途中だったシーラE。4月のプリンスの訃報に接し、「これは今作るべきアルバムではない」と作業を中断、すぐにプリンスに捧げる楽曲とアルバムの制作に取りかかり、その先行としてこのシングルを発表したそうです。
二人が出会うこととなった若かりし頃を思い起こさせるこのタイトルだけでも十分ヤバイぐらいですから、制作が進んでいるアルバム(ちなみにアルバムのタイトルは今回のシングルと同じ「Girl Meets Boy」になる予定)も、プリンスに捧げる愛に溢れたアルバムになることでしょう。年内には発表される見込みのようです。

この楽曲では、彼女の代名詞とも言える激しいドラミングやパーカッションを一切封印。曲の中にしばしば出てくる「Rain on me」という表現は、当然プリンスの「Purple Rain」を連想させます。そして、美しいピアノと切ない彼女の歌声が琴線に触れると同時に、何か胸を掻きむしられるような熱い思いに駆られます。

一時期は婚約まで漕ぎ着けたという話を聞きますが、実際にシーラとプリンスの関係がどれほどだったのかは、正直よくわからないし、今となっては別に知りたいとも思いません。邪な人であれば「プリンスが亡くなった後のシーラの一連の行動は、プリンスの名を借りた何とかだ…」とか意地悪なことを言いそうですが、そんなのはもう次元が低すぎ。というか、多分ファンの人なら絶対そんなこと思わないはずだけど。
で、この曲を聴いて思ったことは、シーラとプリンスの間には、我々が想像しているよりも遥かに強固で、絶対的な信頼関係が構築されていたんだろうな、と。

良き相棒であり恩師であり友人でもあるプリンスを失ったシーラの悲しみは、僕らのそれとは比較することができないぐらい深いものだったとは思いますが、ファンとともに同じ悲しみを共有しつつも、それを浄化してくれるような切なくも優しい素敵な楽曲に、まさに心が洗われるような気持ちになりました。

New Single Girl Meets Boy | Sheila E Songs