【詳報】奥羽線トラブル顛末記

僕が毎朝乗る電車は、弘前発7時21分の快速で、青森駅に到着するのは7時57分。しかし、乗客が非常に多く、定刻より1~2分遅れて到着するのはもはや当たり前となっている。

今朝も7時10分頃に弘前駅に到着し、電車内で惰眠を貪ろうと座席を確保、うとうとしているうちに電車は定刻に動き出したようだ。
その後も惰眠を貪り続けていたのだが、青森駅の二つ手前の駅に到着する頃に目が覚めた。そして、次の新青森駅を通過した(現在東北新幹線の工事が行われていますが、在来線の新青森駅は現在無人駅で、快速は停車しないのであります)直後から、電車が徐々にスピードダウンするのがわかった。
やがて青森駅の手前にさしかかったあたりで、電車が停車してしまった。
今朝は別に大雪が降ったわけではない。となると…何だ?

乗客は皆、無言のままでアナウンスを待っている。僕は最後尾の車両、車掌のいる近くに席を確保しているので、いつもと違うやりとりに不安を覚えた。というのも、いつもトラブルが起きたときは輸送司令室から指示が飛ぶはずなのに、今日は「青森駅長」が指示を飛ばしている無線の声が聞こえてきたのだ。
車掌からのアナウンスが流れた。
「ただいま、青森駅構内の信号トラブルにより、電車が停車しております。運行再開までしばらくお待ちください…。」
時計を見ると7時57分。何もなければおそらく、定刻で到着していたことだろう。
その後も一向に動く気配のない電車。
何の動きもないことにいらだち始める乗客。そして、いらだち始めていたのは車掌も同じだった。
「青森駅長応答願います。こちら○○車掌です。現在の状況、運行再開見込みをお知らせください。」
「…こちら青森駅長です。ただいま信号機器の取り調べを行っており…」の反復ばかり。

ところが、3本が併走している線路のうち、停車しているのは我々の車両だけであり、津軽海峡線の電車は当たり前のように青森駅に進入していく。もう一本を走る回送電車も、何事もなかったかのように青森駅方向からやってくるのだ。それを見た乗客からざわめきが起こる。なぜこの電車だけ動かないんだ?何が起きたんだ!?

しかしその前に、いよいよ痺れを切らした車掌が青森駅長に食ってかかった!!
「青森駅長応答願います。こちら○○車掌です。こちらの電車には約750名の乗客が乗っています。このままですと、急患の出る恐れもあります!その辺の対応について、大丈夫でしょうか?」
「@¥?#%…」
ハッキリは聞こえなかったが、あまりいい回答ではなかったようだ。時計を見ると8時25分。とりあえず電車が動かないので出勤が遅れる旨電話した。
いよいよ車掌の懸念していた事態が発生…と思いきや、明らかに貧血を起こしたと思しき女性が、男性に小脇を抱えられて車掌のいるところに近づいた。しかし、何せここは3本の線路が走っていて、易々と乗客を降ろすわけにはいかないという事情もあるのだろう。苦り切った顔をした車掌が応対していたのだが、
その直後に、一名の乗客がその女性を自分の席に座らせた。
さらに、「このままではみんな具合が悪くなってしまう!換気をしてくれ!」という客が現れた。

その声をくみ取った車掌が、次のようなアナウンスを行った。
「車掌からのお願いでございます。青森駅に何度も確認をしておりますが、現在のところ「取調中」という回答があるのみで、運転再開の見込みなどはこちらにも知らされておりません。この電車、大変混み合っております。お身体具合の悪くなったお客様は、どうぞ車掌までお申し付けください。また、お席に座っている方におかれましても、立ちっぱなしのお客様にお席をお譲り頂きますようお願いします。この電車、現在は暖房を止めておりますが、各車両の窓を開けていただき、一度換気くださるようお願いします。5分後に再度暖房を入れたいと思います。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」

すると、座っていた複数の乗客がおもむろに立ち上がり、立ちっぱなしの乗客に席を譲り始めた(僕も立ってはみたものの、座る人がいなかった…)。
窓を少しだけ開けてみた。すると外からの冷気が、いろんな意味で熱し始めていた車内を一気に冷やしていった。
何となく、張りつめていた空気が緩んだような気がした。
5分経っても暖房が入る気配はない。しかし、窓は少し開けたままにしておいた。


それにしても、一体何時になったらこの電車は動き出すのだろうか。
既に時刻は8時50分を回っていた。もう1時間近くずっとここから動いていない。外を見ると、近所の住民が訝しげにこちらを眺めている。
と、その時。

ドンドンッ!

車掌室をノックする外からの音。JRの社員が二人乗り込んできた。
「お客様には大変ご迷惑をお掛けしております。現在この電車のすぐ背後に、貨物列車が停車しております。貨物電車を隣駅まで後退させ、その上でこの電車も後退します。そして、その後青森駅までの線路を確保します。お客様には大変申し訳ございませんが、作業まであと1時間ほどかかりますことをお許しください。」

ふーん…1時間か。…..えっ?1時間!!!!!?
一斉に携帯電話で職場に電話する乗客。他聞に漏れず僕も職場に電話すると「ああ、ゆっくりしてきていいよ」と意味不明な返答。別にゆっくりしたいワケじゃないのに…。
しかもこれまでの経験から、JRの時間は1時間が1時間30分になるという通説、裏の換算式があることを考えると、この電車が青森駅に到着するのは、10時30分近くか…。嗚呼。

さらに乗客感情を逆撫でするような電話をするバ○女。どうやら、貨物列車の更に後ろで待機する普通電車の乗客と話をしているらしく、その電車はちょうど青森駅の二つ手前の駅に停車していたため、代行バスを用意することになった、とか。
まるで私が情報源みたいなしたり顔で電話を片手に話すその女を見ていたら、無性に腹が立ってきた。多分それは、今この電車の車内では、我々は実質軟禁状態になっているんだということ、どう足掻き藻掻いてみたところで、何もできないことへの空しさから来るのだろう。

しかし、車掌室のやりとりが見える我々はまだマシな方だ。5両編成の中で、無線のやりとりすらわからない車両に乗り合わせた人たちの不安を思うと、何ともやりきれない気分になった。

一番前の車両には心臓の悪いお子さんが乗車しているので、その子だけは特例的に下車させるという。もはや異論を唱えるものはいない。いや、一人だけ「私も降りたい」と曰ったオバチャンがいたが、そんなエゴ、自分勝手は許されることではないし、我々が今できることは、ただ電車が無事に青森駅までたどり着くことを祈るしかないんだということを悟った。結局我々は、電車が動き出すまで我慢するしかないのだ。それにしてもそのオバチャン、周りからの冷淡な視線によく耐えられたものだ。

9時40分。車掌室の動きが慌ただしくなってきた。何か動きがあったようだ。
「皆様大変お待たせをしております。ただいま、後続の貨物列車が後退を始めております。後退完了次第、この電車も後退し、青森駅まで進んで参ります。」
ようやく乗客の緊張が解け、一様に安堵の表情を浮かべる。もはや我々の全神経は、車掌室でのやりとりに注がれることとなった。

5分後。
「お待たせしました。これから電車が後退します。お立ちのお客様は、吊り革などにお掴まりください。」
ゆっくりと後退を始める電車。長年電車通勤しているが、乗車している電車がバックするなんてことは、初めてのことである。
ゆっくりゆっくり、新青森駅へ向けて進む電車。
ポイント付近には、大勢の作業員の姿が見える。すると、新青森駅に停車する貨物列車の先頭車両が肉眼でもはっきりわかるようになってきた。そして、新青森駅から約500m手前の位置で、電車は停まった。
再び運行再開を待つ乗客。やっと、3時間近くにも及んだ通勤が終わる…。
10時07分、長い汽笛とともに電車が動き始めた。
すべての踏切に係員が張り付いているのがわかった。
10時15分。いつものホームに何事もなかったかのように滑り込む電車。安堵と疲労の入り交じった表情を浮かべながら下車する乗客。ホーム上では駅係員が遅延を詫びるアナウンスを連呼している。地元のテレビカメラが一台。そのカメラを避けるように、そして無言のまま僕は一目散に改札口へと向かった。
「まさかこんな時も自動改札で、なんてことはないよな…」
予想通り、改札はすべて解放され、乗客はフリーの状態で改札を抜けることができた。
遅延証明がどこで発行されているのかもわからない。でも、とにかく今は、取り急ぎ職場に向かうことが先決だ。
駅前に出ると、「列車代行」と札を掲げた大量のバスが、ズラリと集結していた…。

それにしても原因は何だったのだろうか。その後運行が再開されたようだけれど、結局乗客には何が原因でこういう事態になったのか、JR側から積極的にお知らせすることはこれまでも一度もなかったような気がする。
電車の車内で呆れながら「乗客より会社の保身が大事なんだろう!」と言い放っていた乗客がいたが、駅員に頭を下げられたところで納得した客は、おそらく1割にも満たないことだろう。結局、乗客云々よりも、ダイヤを元に戻す。多分JR社員の頭の中は、このことで一杯だったのではないか。

しかし、少なくともあの状況の中で、乗客の安全第一を考えていたのは、唯一車掌だけだったように思えてならない(運転手も同様かもしれないが、確認できなかったので何ともいえない)。
いくら駅員がホームで雁首を揃え、頭をもたげたところで、3時間近くも軟禁状態を強いられた我々の苦痛がわかるはずもない。もちろん、安全輸送という観点からは、最良の手段を講じた結果だったのだろうと信じたいが…。
しかしあとで聞いた話では、我々の電車の影響で下がりっぱなしの遮断機に業を煮やした通行人が、下がった遮断機を無理矢理こじ開けて通行していた、ということを知った。それも一人ではなく相当数。
旅客輸送というサービス業である以上、乗客の安全はもちろん、通行人の安全も確保しなければならないのではないか。
ただ、残念ながらJRには、旧態依然とした体質が蔓延していて、未だに運行ダイヤ重視(=乗客軽視)の姿勢が見え隠れしてならないような気がするのは、僕だけだろうか。

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